こんにちは。臨床心理士の竹宮と申します。不登校に悩まれるご家庭の支援の他、臨床研究や事例調査も行っております。
本記事では、不登校の中学生のお子様を持つ親御様が悩まれやすい「高校受験と内申点」という課題について整理してお伝えします。学校に通えていない状況が続くと、調査書の評価や進路の選択肢に対して深い不安を抱かれることとお察しいたします。
制度の仕組みや評価の仕組みを整理し、内申点が及ぼす具体的な影響と、学校以外の場面で確保できる評価の選択肢について順を追って解説いたします。制度上の事実を知ることで、今後の見通しを立てる一助となれば幸いです。
高校受験における内申点の役割と評価の仕組み
高校入試において提出される調査書(内申書)は、中学校での学習成果や学校生活の記録を志望校へ伝えるための公的書類です。そこに記載される内申点は、学力検査(当日点)と並ぶ選考の基準として用いられます。
内申点は単にテストの点数だけで決まるものではなく、各教科の学習到達度や取り組みの姿勢を総合的に評価したものです。文部科学省の学習指導要領に基づき、主に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点からつけられています。
欠席日数が多くなると、定期テストの未受験や授業内での課題提出が困難となり、観点別評価のデータが不足します。その結果、数値としての評定がつけられず、いわゆる斜線(評価不能)や最低数値となるケースが生じます。
【内申点を構成する3つの観点】
1. 知識・技能:定期テストや小テストの成績、実技の習得状況
2. 思考・判断・表現:レポート内容、発表、課題への取り組み
3. 主体的に学習に取り組む態度:提出物の提出状況、授業への参加姿勢
都道府県や学校種別(公立・私立)によって、調査書の扱いには違いが存在します。例えば、中学3年間の成績すべてを数値化して評価対象とする自治体もあれば、中学3年生の成績のみを重点的に見る自治体もあります。
したがって、過去の欠席期間だけを見て進路を制限されると判断するのは時期尚早です。お住まいの地域における調査書の算出方法と、評価対象となる時期を確認することが第一歩となります。
欠席日数と調査書の扱いにおける都道府県ごとの違い
公立高校の一般入試においては、多くの自治体で欠席日数に関する一定の基準や取り決めが設けられています。年間30日以上の欠席がある場合、不登校に関する配慮事項として調査書に理由を記載する枠が準備されているのが一般的です。
一部の自治体では、一定以上の欠席日数がある生徒に対して「自己表現書」や「申告書」の提出を求め、学力検査や面接の配慮を行う特別な選抜枠を用意しています。これは、病気や不登校などの事情で内申点が十分に算出できない生徒に対し、当日点や面接で公平に判定を行うための仕組みです。
一方で、全日制の公立高校の中には、調査書の評定に一律の足切りラインを設定している学校も一部存在します。そうした学校では、当日点で高得点を獲得しても、内申点の比率が高いことで選考上不利になる場合があるのも事実です。
| 受験の枠組み | 内申点の扱い | 主な選考要素 |
| 一般選抜(公立全日制) | 相対的に比率が高い | 当日点 + 内申点 + 面接・作文 |
| 不登校配慮選抜枠 | 提出は必要だが比率を軽減 | 当日点 + 自己申告書 + 面接 |
| 私立オープン入試 | 提出のみ(評価対象外のケース多数) | 当日点重視(一部面接あり) |
| 通信制・定時制高校 | 調査書の内容を問わないケースが多い | 面接 + 作文・基礎学力検査 |
このように、欠席日数が直ちにすべての高校受験の機会を奪うわけではありません。調査書の評価比率を下げ、当日点や面接での評価を重視する選抜方法を導入している高校は数多く存在します。
親御様が把握すべきなのは、お子様が目指す地域の公立高校入試において、調査書がどの程度の割合で合否判定に影響を与えるかという客観的なデータです。
学校外の学習や活動を「出席扱い」として内申点につなげる制度
学校へ通うことが困難な状況であっても、一定の条件を満たすことで「出席扱い」とし、学習の評価を調査書に反映させることができる公立の制度が存在します。文部科学省の通知に基づき、小・中学校ではITを活用した自宅学習やフリースクール等での学習が出席として認められる場合があります。
この制度は、不登校のお子様の学びの機会を保障し、社会的自立を支援することを目的として作られました。要件を満たすことで、指導要録上「出席扱い」となるだけでなく、日々の学習状況に応じて各教科の評価(内申点)がつけられる道が開かれます。
出席扱いとして認められるための一般的な要件は、以下の通り明確に規定されています。すべての条件を同時に満たし、最終的に校長が承認することで適用されます。
- 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること
- ICT等(パソコンやタブレット)を活用した適切な学習計画に基づく指導であること
- 訪問等による対面指導が適切に行われていること、またはICT等を活用した指導であること
- 学習の理解度や進捗状況が適切に把握できる仕組みになっていること
- 学校外の支援機関(適応指導教室やフリースクール等)での活動である場合、その施設が適切と認められること
具体的には、自宅でタブレット型の学習教材を用いて計画通りに問題を解き、そのデータを学校の担任教諭が確認・記録するというプロセスが挙げられます。また、朝に決まった時間に起きて自宅学習に取り組む姿勢や、レポート課題の提出状況が評価の材料となります。
重要な点は、この対応が学校長の判断に一任されているという事実です。制度自体は全国共通の通知に基づきますが、現場での運用方法や評価への反映度合いは、通っている中学校の指針によって異なります。
そのため、早い段階で「どのような学習形態であれば出席扱いおよび評価の対象となり得るか」を学校側と具体的に協議することが求められます。単に教材を使うだけでなく、定期的な学習レポートの提出や担当教員との面接などを組み合わせる工夫が必要となります。
調査書の評価を確定させるための具体的なステップ
内申点を確保して受験時の選択肢を広げるためには、中学校との連携における順序立てた手続きが必要です。感覚的な議論ではなく、制度の要件に沿って形式を整えることが結果につながります。
まずは、現在のお子様の学習状況と学校側の評価基準との照らし合わせを行います。どの教科がどの程度評価可能な状態にあり、何が不足しているのかを数値や書類の形で把握することが出発点です。
【評価獲得に向けた手順】
Step 1: 学校の評価基準(観点別評価)の確認
Step 2: 自宅学習・外部機関での学習計画書の作成
Step 3: 学校側(担任・進路指導・校長)との合意形成
Step 4: 定期的な提出物・学習ログの提示と振り返り
提出物の扱いについても、学校ごとに柔軟な対応が取られるケースがあります。定期テストを別室で受験する、あるいは自宅で解いたテスト用紙を評価の参考にするといった措置が取られる場合もあります。
また、理科の実験レポートや美術の制作物、英語の課題などを期限内に提出することで、「主体的に学習に取り組む態度」や「思考・判断・表現」の観点で点数が付与される事例も存在します。
すべての教科で高い評価を目指すのではなく、お子様が無理なく取り組める教科に絞って課題を提出し、特定の観点だけでも評価を残すというアプローチも現実的な選択肢となります。
内申点に依存しない高校進学のルートと選抜方法
内申点の確保に向けた取り組みを進める一方で、仮に調査書の数値が不十分であったとしても進学できるルートを把握しておくことは、ご家庭の精神的な負担を軽減するために欠かせません。
現代の高校入試においては、生徒の多様な事情に対応するため、内申点に重きを置かない選抜方式が数多く用意されています。これらを早期に把握しておくことで、過度な焦りを防ぐことが可能となります。
- 私立高校のオープン入試(一般入試)
内申点による出願基準(推薦基準)を設けず、入試当日の学科試験(国語・数学・英語など)の点数のみで合否を判定する方式です。過去の欠席日数や評定に関わらず、学力を伸ばすことで合格を目指せます。 - 公立高校の定時制・単位制
多くの定時制や単位制高校では、調査書の提出は求められるものの、その配点が非常に低く設定されています。面接や作文、基礎的な学力検査を中心に選考が行われるため、不登校の経歴が直接の不利になりにくい構造です。 - 通信制高校
通信制高校の選考では、書類選考・面接・作文が主流であり、内申点の数値を理由に不合格となるケースは極めて稀です。自分のペースで学習を進めながら高卒資格を取得できるため、不登校を経験した生徒の主要な選択肢となっています。 - チャレンジスクールや不登校特例校(学びの多様化学校)
東京都の「チャレンジスクール」に代表される公立の単位制高校では、小・中学校での不登校経験者を対象とし、内申書(調査書)を不問とする選抜を行っています。志願調査書、面接、作文等によって意欲を評価します。
このように、進路のルートは決して一本道ではありません。内申点を少しでも上げるためのアプローチと、内申点を問わない選択肢の検討を並行して進めることが、安全性の高い進路計画につながります。
お子様の現在の体力や学習の進捗度合いを観察しながら、どのルートが最も負担が少なく、かつ望ましい将来につながるかを見極める視点が求められます。
発達と行動のメカニズムから見る「学習に向かえない状況」
進路の選択肢や制度を把握してもなお、お子様が机に向かえなかったり、学習課題に対して強い拒否反応を示したりすることがあります。このような状況に対して、「やる気がない」「将来への危機感がない」と捉えてしまいがちですが、行動のメカニズムを紐解くと異なる側面が見えてきます。
心理学や脳科学の知見において、人間の脳は強いストレスや不安を感じているとき、生存を優先するために思考や学習を司る前頭前野の働きを抑制することが分かっています。学校という環境や評価されることに対して激しいエネルギーを消耗した状態では、脳が「これ以上の負荷を避ける」という防御反応を起こします。
つまり、学習に取り組めないのは意思の弱さではなく、エネルギーの枯渇に伴う神経系の自然な保護機能であると解釈できます。この状態で「勉強しなさい」「このままでは高校に行けない」といった外部からの働きかけを行うと、焦燥感ばかりが募り、かえって行動を起こすためのエネルギーを損なう結果となります。
【学習に向かうまでの段階的な変化】
第1段階:エネルギーの回復(活動量の低下、休養、自律神経の安定)
第2段階:日常動作の再開(朝に決まった時間に起きる、散歩や買い物で外出する)
第3段階:興味・関心の広がり(好きな読書やゲーム、趣味の追及)
第4段階:負担の少ない学習への着手(短時間のタブレット学習や課題提出)
行動変容の観察において重要なのは、いきなり「テストで点数を取る」「毎日数時間の勉強をする」といった大きな目標を設定しないことです。まずは朝に決まった時間に起きる、散歩や買い物で外出するといった、日常の規則的な行動が定着しているかを客観的な指針とすることが大切です。
生活のリズムが整い、興味・関心を示す余裕が生まれて初めて、短い時間での学習課題(1日15分のデジタル教材の送受信など)への着手が可能となります。順序を飛び越えて学習結果のみを求めると、回復のプロセスが阻害される点に留意が必要です。
中学校との交渉・連携における実務的なアプローチ
評価の獲得や出席扱いの適用を目指す際、中学校との連携は避けて通れません。しかし、学校側も多数の生徒を抱える中で不登校対応の標準化に苦慮している場合が多く、漠然とした要望では話が進まないケースが見受けられます。
円滑な合意形成を図るためには、感情面での訴えではなく、制度の要件に合致した書面や客観的な記録を持参して協議に臨むことが推奨されます。学校側が評価を下すために必要な「根拠」を、ご家庭側から整理して提示する姿勢が求められます。
具体的には、以下の3つのポイントを整理して担当教諭や進路指導の責任者と面談を行います。
- 評価基準の可視化依頼
どの観点が不足していて評価がつかないのか、観点別評価の項目に沿って具体的な条件を確認します。「課題の提出があれば『主体的に学習に取り組む態度』に加点できるか」「自宅でのWebテストの結果を評価材料にできるか」など、具体的な判定ラインをすり合わせます。 - 学習ログ(記録)の提示方法の決定
自宅で取り組んだ学習の時間、解いた問題数、正答率などのデータが自動で記録される教材を使用している場合、その出力レポートを月1回提出する形式を提案します。教師側が客観的に学習状況を確認できる形を整えることが、承認への近道となります。 - 連絡手段と頻度のルールの明確化
頻繁すぎる電話連絡や急な家庭訪問は、お子様にも親御様にも負担となります。「連絡は週1回のメールまたは連絡帳で行う」「提出物は保護者が校門や職員室で手渡す」など、双方にとって無理のない運用ルールを事前に取り決めます。
このように、学校側が「これなら評価の根拠として記載できる」と判断できる材料を形式的に揃えていくことが、内申点の付与や出席扱いの獲得に向けた現実的なアプローチとなります。
焦りや不安が生じる構造と対策
お子様の進路や内申点について思案するとき、強い不安やプレッシャーを感じられるのはごく自然な反応です。周りの同年代の子供たちが順調に進学準備を進めているように見える場面では、孤立感を覚えることもあるかと存じます。
心理学的なアプローチにおいて、人が強い焦りを感じるときは「現在コントロール可能な事実」と「未来の予測不能な結果」が混同されていることが多いと指摘されます。「高校に行けなかったらどうしよう」「将来困るのではないか」という不安は、現時点では確定していない未来の事象に対する認知の歪みから生じます。
こうした思考の泥沼から抜け出すためには、事象を「自分が直接働きかけられること」と「他者や制度の都合によりコントロールできないこと」に分解して整理する作業が有効です。
| 分類 | 具体的な要素 | 対応のアクション |
| コントロール不可能なこと | 入試制度の変更、他人の目、学校側の判断方針、過去の欠席日数 | 事実として受け止め、過度に固執しない |
| コントロール可能なこと | 地域の入試情報の収集、出席扱い制度の確認、家庭内の環境調整 | 順序を立てて具体的な作業を進める |
過去の欠席履歴や学校側の最終決定を変更することはできません。一方で、地域の高校入試の仕組みを調べたり、内申点を必要としない受験ルートの願書を取り寄せたりすることは、親御様自身の手で確実に実行できるアプローチです。
コントロール可能な行動に意識を向けることで、漠然とした恐怖感は低減され、論理的な判断を下すための客観的な視点を取り戻すことができます。
まとめ
ここまで具体的な対応方法や考え方をご紹介しましたが、最終的な進路決定の段階において最も回避すべきなのは、親御様の焦りから特定の学校やルートを一方的に当てはめてしまうことです。また逆に、「どこでも好きなところにしていいよ」とすべての判断をお子様に丸投げしてしまうことも、過度な負荷となり得ます。
発達心理学における自己決定理論では、自分で選択し決定したという感覚(自己決定感)が、その後の課題に対する意図的な持続性や自己肯定感を高める主要な因子であるとされています。一度不登校を経験し、自信を失っている状態のお子様にとって、「自分で決めた」という事実は今後の学校生活を継続するための大きな支えとなります。
親御様が意識すべき立場は、「決定者」ではなく「選択肢を整理して提示する情報提供者」とお考えください。
【選択肢提示のプロセス】
1. 条件に合う学校(通信制・定時制・オープン入試校など)の情報を親御様が事前に精査する
2. プレッシャーにならない形で「こういう選択肢もある」と2〜3の候補をフラットに見せる
3. 合同説明会やパンフレットの閲覧など、お子様が興味を示した範囲から段階的に触れさせる
4. 最終的な出願の意思決定は本人の言葉を待って確定させる
たとえ全日制高校への進学ではなく通信制高校や特例校への進学であったとしても、本人が納得して選んだ道であれば、それは自立へ向けた確かな前進となります。
内申点や過去の状況にとらわれず、制度と仕組みを客観的に活用しながら、お子様が無理なく次の一歩を踏み出せる環境を整えていくことが求められます。
参考元
- 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.htm - 文部科学省「不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1397802.htm - 東京都教育委員会「令和8年度東京都公立高等学校入学者選抜実施要綱・同細目」
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/admission/high_school/exam/

