学校タブレットと不登校の関係
こんにちは。再登校支援トーコの竹宮と申します。日々、臨床心理士として不登校のご家庭の支援を行っております。
学校から配布されたタブレットについてご相談を受ける機会が増えたのは、おそらく不登校支援の現場におけるここ数年の大きな変化です。
以前であれば、不登校のご相談は学校生活そのものに関する内容が中心でした。朝になると体調が悪くなる、学校の話題になると表情が曇る、教室を想像するだけで強い不安が生じる。そのような学校という場所との関係が主なテーマでした。
しかし現在は状況が少し異なります。学校へ行けていないにもかかわらず、学校から配布されたタブレットを通じて課題を提出している。授業動画を視聴している。先生からの連絡も確認している。その結果として、学校との接点は存在しているように見える一方で、登校という行動には結び付いていないという状態が珍しくなくなりました。
学校との関係が完全に途絶えているわけではないため安心材料はあります。しかし、接点が維持されているにもかかわらず状況が大きく変化しないため、本当に前へ進んでいるのか、それともその場に留まっているのかが分からなくなります。
学校タブレットについて語られる際には、「学習機会を支える便利な道具」という評価と、「不登校を長引かせる要因」という評価がしばしば対立します。しかし、児童心理学の視点から見ると、学校タブレットは不登校の原因ではありません。大切なことは、タブレットそのものを評価することではなく、その端末が子どもと学校の間でどのような役割を果たしているのかを理解することです。
本記事では、文部科学省の調査結果や心理学的な知見を踏まえながら、学校タブレットと不登校の関係について整理していきます。
目次
学校タブレット普及と不登校の増加
GIGAスクール構想によって期待されたこと
学校タブレットの問題を考える際には、まず教育環境の変化を理解する必要があります。
文部科学省が推進したGIGAスクール構想によって、日本の公立小中学校では一人一台端末環境の整備が進みました。文部科学省が公表しているGIGAスクール構想によれば、義務教育段階における端末整備は全国規模で進み、ICT機器は特別な設備ではなく日常的な学習ツールとして定着しています。
この変化によって期待されたことの一つが、学習機会の保障でした。
欠席していても課題を確認できる。授業資料を閲覧できる。学校からの連絡を受け取ることができる。以前であれば欠席期間が長くなるほど広がっていた情報格差を小さくし、学習面での不利益を減らそうという考え方です。
実際、この変化には大きな意味があります。不登校の子どもたちにとって、学習の遅れに対する不安は少なくありません。学校へ戻りたい気持ちはあるものの、授業についていけなくなることを恐れてさらに足が遠のくという悪循環も存在します。その意味では、学習との接点を維持できる環境が整備されたこと自体は教育的な前進となります。
出典:文部科学省「GIGAスクール構想の実現に向けた整備・利活用等に関する状況について」
不登校の変わらない増加傾向
ところが学校との接点を維持しやすい環境が整備されたにもかかわらず、不登校児童生徒数は増加を続けています。
文部科学省の調査によると、小中学校における不登校児童生徒数は35万3,970人となり、12年連続で過去最多を更新しました。この数字は全児童生徒の約3.7%に相当し、単純計算では26人に1人が年間30日以上欠席していることになります。
この状況を見ると、「タブレットがあるから学校へ行かなくなったのではないか」という考え方が生まれるのも自然なことです。親御様の立場から見れば、学校へ行かなくても課題を提出できる環境があり、授業内容も確認できるのであれば、登校する動機が弱くなるように見えるからです。
しかし学校タブレットそのものが不登校の主な原因であるならば、同じ端末環境で学んでいる大多数の子どもたちにも同様の影響が生じるはずです。しかし現実には、端末を利用しながら問題なく登校している子どももいますし、学校との接点維持に役立てている子どももいます。
つまり、「タブレットがあるから不登校になる」という説明だけでは現実を十分に理解できません。
出典:文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
タブレットよりも子どもの心理を考える
学校タブレットについて議論するとき、多くの場合は端末そのものに注目が集まります。しかし、心理学的な視点から見ると、本当に考えるべきなのは端末ではなく学校との心理的距離です。
例えば、学校に対する不安が強くなっている子どもがいたとします。その子どもにとって学校タブレットは、学校との関係を完全に断ち切らずに済む手段になります。課題を確認することもできますし、先生からの連絡を読むこともできます。そのため、学校との接点を維持する役割を果たします。
一方で、学校という場所に強い負担を感じている場合には、タブレットによって最低限の接点が確保されることで、教室へ戻る必要性を感じにくくなることもあります。
ここで注目したいのは、どちらの場合も主役はタブレットではないということです。主役になっているのは学校との関係であり、タブレットはその関係を映し出しているに過ぎません。
ところが、タブレットで勉強以外の動画を見ていたり、生活リズムが崩れる姿が目に入ると、どうしてもタブレットが問題の中心に見えてしまいます。本来は学校との心理的距離が変化しているにもかかわらず、その変化が見えにくいため、手元にある端末へ意識が集中してしまうのです。
学校タブレットがあると登校しなくなるのか
登校しない学校との繋がりをどう見るか
支援の現場で親御様とお話ししていると、「学校へ行かない理由が分かりにくくなった」という言葉をお聞きします。
学校との関係が完全に途絶えているのであれば状況は比較的理解しやすくなります。しかし現在は、課題提出や連絡確認といった形で学校との接点が維持されている場合があり、外から見ると学校と関わっているように見えるにもかかわらず、登校には結び付かないという現象が起こります。
学校とつながっているのなら前進しているのだろうか。それとも、学校へ行かなくても済む環境が整ってしまっているのだろうか。
この問いに対して白黒はっきりした答えが見つからないため、具体的な対応に悩む場面が増えていきます。
この悩みそのものが学校タブレット時代の特徴と言えるかもしれません。
不登校の発生要因と維持要因を分けて考える
繰り返しになりますが、学校へ行かずにタブレットを利用している姿を毎日見ていれば、「このタブレットがあるから学校へ行かなくなったのではないか」と考えるのは自然な流れです。
一方で児童心理学では問題を理解する際に「発生要因」と「維持要因」を区別して考えます。
例えば、学校での人間関係の緊張や学習への不安がきっかけとなって欠席が始まった場合、その段階では学校との関係が主な発生要因になっています。
その後、自宅で過ごす時間が長くなり、昼夜逆転が進み、学校タブレットやスマートフォンの利用時間が増えたとします。この段階になると、生活リズムの乱れや家庭内での活動パターンが状況を維持する要因として加わる可能性があります。
ここで大切なのは、後から加わった要素だけを取り除いても、最初に存在していた学校との問題が解決するわけではないということです。
支援の現場では、「端末を制限したら学校へ行くようになると思ったが変化がなかった」という話を伺うことがあります。このような場合、端末利用そのものではなく、その背景にある学校への不安や負担感が十分に整理されていなかった可能性があります。
もちろん、生活リズムの崩れや長時間利用が状況に影響している場合もあります。しかし、それだけで不登校全体を説明しようとすると、かえって実態を見失いやすくなります。
学習参加と登校行動は異なる課題
学校タブレットが親御様を悩ませる理由の一つに、「学習はしているのに学校へは行けない」という状況があります。
勉強がまったくできていないのであれば、学校へ行けないこととの関連も分かりやすくなります。しかし、課題は提出している、授業内容も把握している、それにもかかわらず登校はできないとなると、どこに課題があるのか見えにくくなります。
ここで一つ整理しておきたいのは、学習参加と登校行動は同じではないということです。
学習に必要なのは理解力や集中力、あるいは学習内容への関心です。一方で登校には、それに加えて対人関係への適応、集団環境への参加、失敗への耐性、周囲から評価される状況への対応など、多くの心理的要素が関わります。
そのため、自宅で学習を継続できていることは望ましい変化であっても、それだけで学校生活全体への適応が進んでいるとは限りません。
実際には、学習への不安よりも対人関係への不安が大きい子どももいますし、授業そのものよりも教室という空間に負担を感じている子どももいます。その場合、タブレットによって学習との接点が維持されても、登校に関する心理的な課題は別に存在し続けます。
親御様が感じる「勉強はできるのになぜ行けないのだろう」という疑問に対する答えは学習の中ではなく、学校生活全体の中にある場合が少なくありません。
タブレット依存と不登校は別問題
デジタル依存の現状
学校タブレットの話題になると、多くの親御様が心配されるのがデジタル依存です。
実際、不登校期間中にゲームや動画視聴の時間が増えることは珍しくありません。そのため、「学校へ行けないことよりも、まず依存状態を改善すべきではないか」と考える親御様もいらっしゃいます。
こども家庭庁が公表している「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、青少年のインターネット利用率は95%を超えており、利用時間も長期的に増加傾向を示しています。また、利用時間が長い層ほど睡眠時間が短くなる傾向も報告されています。
さらに、国立成育医療研究センターをはじめとする研究では、夜間のスクリーン利用が睡眠の質や就寝時刻に影響を与える可能性が指摘されています。
このような研究結果を見ると、親御様が利用時間を心配するのは当然のことです。
出典:
こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」
国立成育医療研究センター「子どもの健康とメディア利用に関する研究」
利用時間以外の大切な要素
しかし、不登校支援の現場で感じるのは、利用時間だけでは子どもの状態を十分に理解できないということです。
例えば、一日に何時間利用しているかという数字だけでは、その時間がどのような意味を持っているのか分かりません。同じ五時間であっても、学習、友人との交流、趣味活動が含まれている場合と、昼夜逆転の中で漫然と動画を見続けている場合とでは状況が異なります。
利用時間や利用履歴も確認できますが、学校への不安の強さや孤立感の程度は数値化できません。
そのため、人はどうしても測定しやすいものに意識を向けます。
すると、本来は学校との関係や心理的負担を考える必要がある場面でも、「一日何時間使ったか」という問いだけが中心になってしまいます。
ところが、心理学的な観点から見ると、利用時間そのものよりも生活全体への影響を見るほうが実態に近づきやすくなります。
睡眠は保たれているか。昼間の活動は存在しているか。家族との会話は成立しているか。学校との接点は維持されているか。
これらを含めて見ていくことで、初めて現在の状態を整理できるようになります。
安心材料にも回避手段にもなる学校タブレット
回避行動に繋がる背景
ここで、学校タブレットを理解するうえで欠かせない考え方があります。
それが回避行動です。
回避行動とは、不安や緊張を感じる状況から距離を取る行動を指します。例えば、人前で発表することに強い不安を感じている人が発表を避けると、その瞬間は安心できます。しかし、避け続けることで不安の対象と向き合う機会が減り、結果として不安が長期間維持されることがあります。
学校との関係においても同じことが起こります。
学校へ行くことに強い負担を感じている場合、自宅で過ごすことによって苦しさは軽減されます。そのため、欠席という行動には一定の合理性があります。
ところが、その状態が長期間続くと、学校という環境そのものがさらに遠い存在になっていきます。
ここで学校タブレットは独特な役割を果たします。
学校との接点を残しながら、学校という場所からは距離を取ることができるからです。
評価が二分されやすいタブレット
学校タブレットに対する評価が分かれる背景には、この特徴があります。
学校との接点が完全に失われることを防ぐという意味では、学校タブレットは有益です。学校からの情報を受け取り、学習との接点を維持し、自分が学校に所属している感覚を持ち続けることができます。
一方で、学校という場所へ戻る必要性を感じにくくする場合もあります。最低限の関係が維持できるため、教室へ向かう心理的な動機が生まれにくくなることもあるからです。
そのため、「学校タブレットは良いのか悪いのか」という問いに対して単純な答えを出すことはできません。
むしろ考えるべきなのは、その端末によって学校との距離が縮まっているのか、それとも固定化されているのかという点です。
タブレット利用の子どもにどう向き合うか
不安の対象は子どもの将来
学校タブレットに対する不安について考えるとき、多くの議論は端末の機能や利用時間に向かいます。しかし、支援の現場で親御様のお話を伺っていると、本当に不安になっている対象はタブレットそのものではない場合が少なくありません。
親御様が不安になるのは、その端末の向こう側にある未来です。
- このまま学校へ戻れなくなったらどうしよう。
- 学習習慣が失われてしまったらどうしよう。
- 人との関わりが減ってしまったらどうしよう。
- 社会との接点がなくなってしまったらどうしよう。
タブレットを見るたびに苦しくなる背景には、こうした将来への心配があります。
ところが未来はまだ起きていない出来事であるため、確かめることができません。そのため親御様は目の前に存在するタブレットへ不安を投影しやすくなります。
変化が見えない苦しさ
不登校の支援において、親御様を最も疲弊させるものの一つは状態が読めないことです。
例えば骨折であれば、痛みの程度や回復過程をある程度把握できます。発熱であれば体温という指標があります。しかし不登校の場合、今どこまで回復しているのかが見えにくくなります。
学校タブレットは、この難しさをさらに大きくします。
学校との接点はあり、学習も続いている。しかし登校には結び付いていない。
前進しているようにも見えるが、変わっていないようにも見える。
この曖昧さこそが親御様を苦しめるのです。
実際には、不登校の回復過程は一直線ではありません。学校への関心が戻る時期もあれば距離を置きたくなる時期もあります。外から見れば変化がないように見える期間にも、子どもの中ではさまざまな心理的変化が起きています。
しかし親御様はその変化を直接見ることができません。そのため、「何も変わっていないのではないか」という不安を抱きやすくなります。
学校タブレットを通して見るべきもの
学校タブレットを評価するとき、良い道具か悪い道具の極論ではなく、学校との関係を映し出す鏡として見ることもできます。
学校からの連絡を確認しているのであれば、学校との接点は残っています。
課題提出を続けているのであれば、学習との接点も残っています。
まったく開かなくなったのであれば、それもまた一つの状態を示しています。
つまり、タブレットは状況を作り出しているというよりも、状況を映し出している側面が大きいのです。
そのように考えると、「タブレットをどうするか」という問いから少し離れることができます。
代わりに、「この利用の仕方から学校との関係をどう読み取れるだろうか」という視点が生まれます。
不登校支援において大切なのは、目の前にある端末を評価することではありません。その端末を通して子どもが学校とどのような距離感でつながろうとしているのかを理解することです。
まとめ
学校タブレットについて考える際、多くの議論は賛成か反対かという二択になりがちです。しかし、実際の不登校支援はそれほど単純ではありません。
学校タブレットは学習機会を支える道具であると同時に、学校との心理的距離を映し出す存在でもあります。そのため、本当に見なければならないのは端末そのものではなく、その端末が学校との関係の中でどのような役割を果たしているのかという点です。
親御様が感じている違和感や葛藤は決して特別なものではありません。学校との接点が残っているにもかかわらず登校には結び付かないという状態は、現在の不登校支援において多くの家庭が経験しているテーマだからです。
学校タブレットを見るたびに不安になることがあるかもしれません。しかし、その端末は単なる問題の象徴ではなく、子どもが学校とどのような距離でつながろうとしているのかを示す手がかりでもあります。
学校タブレットが良いか悪いかという問いから少し離れ、その端末を通して何が見えているのかを考えたとき、親御様の悩みもこれまでとは違った形で整理できるかもしれません。
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