スマートフォン制限の是非:フランスのデジタルブレイク実験を通して

スマートフォン制限の是非:フランスのデジタルブレイク実験を通して

子どものスマートフォン利用を制限すべきか否か。一つの参考となる取り組みが、フランスで国を挙げて進められています。

フランスでは、2018年に学校でのスマートフォン使用が禁止されました。これは、スマートフォンが引き起こすいじめやハラスメント、学力低下、そして心身の健康への悪影響といった問題に対処するための一つの試みでした。当初は、授業中のみの禁止でしたが、2024年、より厳格な規制へと移行し、一部の学校では、生徒が学校にスマートフォンを持ち込むことを全面的に禁止する「デジタルブレイク」が施行されました。

このフランスの取り組みは世界で大きな注目を集めました。その背景には、スマートフォンは現代社会において、コミュニケーションや情報収集に不可欠なツールであり、それを禁止することは、子どもたちの成長を妨げるのではないかという懸念があるからです。しかし、フランス政府は、スマートフォンの弊害を深刻に捉え、子どもたちの未来を守るために、あえてこの決断を下したのです。

「学校や大学での携帯電話の使用禁止とデジタルブレイク」

なぜ、フランスの学校はスマートフォンを禁止したのか

フランス政府が学校でのスマートフォン禁止を決めたのには、大きく3点の理由があります。

  1. 学力面:
    スマートフォンに気を取られて授業に集中できず、成績が伸び悩んでいる子どもが増えていました。いくつかの研究では、スマートフォンを禁止した学校に通う子どもたちの学力向上が見られました。これは、スマートフォンの誘惑から解放され、授業に集中できるようになったことが大きな要因と考えられます。
  2. 心身の健康への影響:
    長時間のスマートフォン使用は、睡眠不足や視力低下、さらにはうつ病などの精神的な問題を引き起こす可能性も指摘されています。また禁止により、友達と直接顔を合わせて遊ぶ時間が増えることで、コミュニケーション能力や協調性も高まることが期待できます。
  3. いじめやハラスメント:
    スマートフォンを使った誹謗中傷や陰口、さらには暴力的な動画の拡散など、子どもたちの間で深刻な問題となっていました。スマートフォンの利用を制限することによって、そのような悪意をぶつけられたり、発信する機会を大幅に減少することができます。またこれらの問題により増えていた不登校に歯止めをかけることも各学校で期待されています。

これらの問題を解決するために、フランス政府は学校でのスマートフォン使用を全面的に禁止し、子どもたちがスマートフォンから解放される時間を増やそうとしているのです。

参考:スマートフォンの各種研究

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)

PISA調査とは?

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)は、経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施している国際的な学習到達度調査です。15歳を対象に、読解力、数学、科学の力を測ることで、各国の教育の質を比較することを目的としています。PISA調査は、単に知識の量を測るだけでなく、複雑な問題解決能力や批判的思考力など、21世紀型スキルと呼ばれる能力を評価する点に特徴があります。

スマートフォン使用時間と成績の関係

PISA調査の結果を分析した研究では、スマートフォンを頻繁に利用する生徒ほど、読解力や数学の成績が低い傾向があることが示されています。この結果は、多くの国で共通して見られる傾向であり、スマートフォン利用と学力との間に負の相関関係があることを示唆しています。

アメリカの青少年リスク行動調査(YRBS)

YRBS調査とは

アメリカの青少年リスク行動調査(Youth Risk Behavior Surveillance System, YRBS)は、米国疾病予防管理センター(CDC)が2年ごとに実施している大規模な調査です。12歳から18歳までの高校生を対象に、喫煙、飲酒、薬物使用、性的行動、暴力、うつ病、自殺念慮など、様々なリスク行動に関するデータを収集しています。YRBSは、アメリカの青少年の健康状態を把握し、予防対策を講じるために重要な情報源となっています。

スマートフォン使用時間と精神疾患の関係

YRBS調査の結果、スマートフォンを頻繁に使用する生徒は、うつ病や不安障害のリスクが高いということが繰り返し報告されています。この結果は、PISA調査と同様に、スマートフォン利用と精神的な健康状態との間に、ある程度の相関関係があることを示唆しています。

東北大学加齢医学研究所の調査結果

スマートフォンと学力

フランスに学ぶスマートフォンとの付き合い方

フランスはスマートフォンの中毒性や子どもの健全な生活への影響を専門家によって調査した上で、全面的な禁止を表明しています。
スマートフォンそのものは道具であり、制限することは子どもを信用しないことのように見えて抵抗があるかもしれません。
しかし治療にも使われる麻薬が個人には利用を制限されているように、「スマートフォンの持つ影響が思春期の子どもたちにどこまで強く影響するか」、を一度考えてみるべきではないでしょうか。

ただ、もし制限を検討する際はお子さんに理由も説明することを推奨します。ただ親の命令として禁止するのと、スマートフォンが子ども自身に与えるリスクを知った上でルールとして決めるのでは、納得感・遵守・持続性に大きな差が出ます。

そして親自身もその依存性に負けないことが、教育の観点からは大切になってきます。スマートフォンに向き合っている間は子どもの表情も見れず、目を見ての会話もできません。

スマートフォンは無くてはならないツールになりました。だからこそ、生活の中心とするのか、一部とするのか、その選択は子育てにおいて重要になります。


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