はじめに:不登校を「親としてどう向き合うか」
「うちの子、学校に行かなくなったんです。」
こう語り始める親御さんの声を、私はこれまで何度も耳にしてきました。その声には、不安や焦り、そしてどこか自分を責めるような響きが含まれています。しかし、子どもが不登校になる背景には必ずしも単純な理由だけがあるわけではありません。そしてその解決も、単純な「これをすればいい」というものではないのです。
私たちの提供する「ToCo」のサービスでは、「不登校の子どもが抱える本当の理由を掘り下げること」から始めます。ここで大切なのは、親がその理由を知り、それに適切に向き合う姿勢を持つことです。「学校に行かなくてもいい」とただ見守るだけでは、多くの場合、不登校が長期化してしまいます。一方で、急かしたり、強引に解決しようとするアプローチも子どもを追い詰める結果となります。
本稿では、不登校になった子どもへの具体的な声のかけ方について、心理カウンセラーとしての視点を交えてお話しします。「どんな言葉をかけたらいいのか」「どんな対応が子どもにとって助けになるのか」という具体的なヒントを見つけていただければ幸いです。
1. 「不登校は子どものサイン」:見えている現象の裏側に目を向ける
不登校は、子どもが自分の内面で何かに苦しんでいるサインです。それが明確に表れる形として「学校に行きたくない」があります。ですが、親御さんにとってこの状況は非常にわかりにくいことがあります。例えば、子どもが「学校が嫌い」と言ったとしても、それが人間関係の問題なのか、勉強のプレッシャーなのか、はたまた家庭内の何かが影響しているのか、一筋縄ではいかないことが多いのです。
「どうして行きたくないの?」は禁句
「どうして学校に行きたくないの?」と聞きたくなる気持ちは、とてもよくわかります。しかし、この問いかけは、子どもにとって重荷になりやすいものです。「どうして」と問われることで、子どもは理由を説明しなければならないと感じます。ですが、本人もその理由を整理できていないことがほとんどです。さらに、親が答えを求める姿勢は、子どもに「説明できない自分はおかしい」という自己否定感を生むことさえあります。
ここでのポイントは、子どもの「行きたくない」という言葉を否定せずに受け止めることです。
会話例1:「行きたくないんだね」と受け止める
子ども:「学校行きたくない。」
親:「そうなんだね、行きたくないんだね。」
子ども:「うん…。」
親:「どんな感じなのか、少しだけ教えてもらえたら嬉しいな。でも話したくなかったらそれでも大丈夫だよ。」
このように「受け止める」「無理に聞き出そうとしない」ことで、子どもが少しずつ心を開ける状態を作り出します。
2. 子どもの「心の声」を見逃さない
不登校に至る子どもたちの心の中には、さまざまな葛藤があります。それをすべて言葉で表現するのは難しいため、親としては子どもの行動や表情、態度から「心の声」を読み取ることが求められます。
表面だけを見ると逆効果になる場合も
例えば、子どもが毎日ゲームをしていたり、YouTubeを見続けているとき、親は「怠けている」「好き勝手している」と感じるかもしれません。ですが、その背景には「現実から逃げたい」「自分を守るために何かに没頭している」という心情が隠れていることが多いです。
会話例2:無関心ではなく、優しい観察を
子どもがゲームに夢中になっている。
親:「今のゲーム、すごく面白そうだね。どんなところが楽しいの?」
子ども:「これ、ストーリーがすごいんだよ。」
親:「そうなんだ。どんな話か教えてくれる?」
子ども:「うん、これはね…」
このように、子どもの興味を否定せず、共感を持って接することで「自分は受け入れられている」という安心感を育むことができます。
3. 「否定」よりも「共感」でつなぐ
親は時に、子どもの言動を否定したくなることがあります。「学校に行かないなんて、ダメだ」「ちゃんと頑張らないと」といった言葉は、親自身の焦りや不安から生まれます。ですが、これらの言葉は子どもにとって大きなダメージを与える可能性があります。
子どもを「丸ごと受け入れる」姿勢
不登校の子どもたちは、自分を責めている場合が多いです。「行けない自分はダメだ」と思い込んでいることも少なくありません。そんなとき、親が子どもを否定する言葉をかけると、子どもの自己否定感をさらに強める結果となります。
会話例3:共感しながら希望を伝える
子ども:「どうせ学校行っても無理だし。」
親:「そう思っているんだね。無理だって感じてるの、すごく辛いよね。」
子ども:「うん…。」
親:「でもね、お母さんは、あなたには無理じゃない時が来るって信じてるよ。今はちょっと休んでもいいけど、一緒に少しずつ考えていこうね。」
4. 「具体的な小さな一歩」を一緒に考える
不登校の解決には、「具体的な小さな一歩」を踏み出すことが重要です。いきなり「明日から学校に行こう」と言うのではなく、「今日は1時間だけ登校してみる」「学校の近くを一緒に歩いてみる」といった小さなステップを提案することで、子どもが挑戦しやすくなります。
会話例4:選択肢を提案する
子ども:「学校なんてもう嫌だ。」
親:「そう感じるんだね。今すぐ行けなくてもいいけど、ちょっとだけ学校の近くまで行ってみるとか、一緒にやってみない?」
子ども:「うーん、ちょっとだけなら…。」
親:「ありがとう。一緒に頑張ってみようね。」
5. 「待つ」ことと「進む」ことのバランス
不登校の子どもへの対応で重要なのは、「待つこと」と「進むこと」のバランスを取ることです。「いつか子どもは自分で立ち直る」と信じて完全に放任するのは危険ですが、一方で親が焦って無理に解決を急ぐと、子どもの心にさらなる負担をかけてしまいます。このバランス感覚を保つためには、親自身が冷静さを失わないことが不可欠です。
「待つ」ことの意味
「待つ」というのは、子どものペースを尊重することです。子どもが自分の感情を整理し、自分なりのペースで前を向けるようにするには、十分な時間が必要です。「学校に行きたくない」と言っている子どもに対し、親がすぐに結論を急いでしまうと、子どもはますます壁を感じてしまいます。
会話例5-1:安心感を伝えつつ見守る
子ども:「もう学校のことは考えたくない。」
親:「そう感じるんだね。今は無理しないで、学校のことを考えない時間を作るのも大事だよ。お母さんは、あなたがどんなペースでも応援しているからね。」
子ども:「うん…。」
子どもが何も話さなかったり、素っ気ない態度を取ったとしても、親が根気強く同じ姿勢を貫くことで、子どもは「話しても大丈夫なんだ」と感じるようになります。
「進む」ことの意味
一方で、ただ「待つ」だけではなく、小さな一歩を促すことも大切です。不登校の原因がどんなものであれ、最終的には社会との接点を回復することが目標となります。そのためには、適切なタイミングで子どもを促し、小さな挑戦を後押しする必要があります。
会話例5-2:進む選択肢を一緒に考える
子ども:「学校なんてもう行かなくてもいいよね?」
親:「そう感じているんだね。でもね、学校だけが選択肢じゃないけど、少しずつ何かに挑戦することは大事だと思うんだ。一緒に何ができるか考えてみようか?」
6. 不登校の背景にある「心の声」を掘り下げる
子どもが不登校になる背景には、いくつもの要因が絡み合っています。それを解きほぐすためには、「心の声」に耳を傾ける姿勢が必要です。ここで大切なのは、「親の価値観」ではなく、「子どもの価値観」を理解することです。
心の声を探るポイント
- 子どもの行動に隠されたメッセージ
子どもの言動には必ず理由があります。例えば、急に食欲がなくなったり、反対に過剰に食べるようになった場合、それはストレスの表れかもしれません。 - 子どもの趣味や興味に目を向ける
不登校中に子どもが夢中になることは、心の支えである場合が多いです。それを否定するのではなく、理解しようとする姿勢が大切です。 - 家庭内での雰囲気を見直す
家庭の中で安心感を持てているかどうかも重要です。親の喧嘩や過剰な期待が、知らず知らずのうちに子どもに影響を与えていることもあります。
会話例6:心の声を探る問いかけ
子ども:「何もしたくない。」
親:「そうなんだね。何もしたくないときって、どんな気持ちになる?」
子ども:「うーん…。なんか、ずっとモヤモヤしてる感じ。」
親:「そうか、モヤモヤしてるんだね。その感じ、もう少しだけ教えてもらってもいいかな?」
このように、子どもの言葉を否定せず、さらに掘り下げて聞くことで、子ども自身が自分の気持ちを整理するきっかけを作ることができます。
7. 親自身のケアも忘れない
子どもが不登校になると、親自身も多大なストレスを抱えるものです。「自分の育て方が悪かったのでは」「どうしたら解決できるのか」と悩み、精神的に追い詰められることがあります。ですが、親が心身ともに疲れてしまっては、子どもを支えることは難しくなります。
親ができるセルフケアのポイント
- 一人で悩まない
信頼できる第三者や専門家に相談することは、心の負担を軽くします。 - 自分を責めない
不登校は誰のせいでもありません。親自身を責める気持ちは、結果的に子どもにも伝わってしまいます。 - リラックスできる時間を作る
趣味や散歩など、自分をリフレッシュさせる時間を意識的に持つことで、冷静に子どもに向き合う力が生まれます。
おわりに:未来はいつでも作り直せる
不登校は、子どもと親にとって大きな試練です。しかし、それは子どもが自分の人生を見つめ直し、より良い未来を築くための重要な時間でもあります。親としては、焦らず、寄り添い、そして必要なときには専門家の力を借りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。