子どもにはストレスの避け方ではなく、乗り越え方を伝える

子どもにはストレスの避け方ではなく、乗り越え方を伝える

 例えば、学校に行くことを子どもが嫌がった場合、親はつい無思考に「大丈夫だよ」と声をかけてしまいがちです。しかし、単に不安を解消するだけでなく、緊張に打ち勝つための具体的な方法を一緒に考えていくことが重要です。

現代社会は、子どもたちを取り巻く環境が複雑化し、多様なストレス要因が存在します。学校での人間関係、学業の難しさ、将来への不安など、子どもたちは様々なストレスに直面しています。こうした状況下で、多くの親御さんが「子どもをストレスから守りたい」という気持ちを抱くのは当然のことで、大切な愛情です。本稿では、その親心を「守る」ではなく「育てる」に向ける方法について紹介していきます。

「授人以魚 不如授人以漁」と老子は言いました。これは「飢えている人へ、あなたは魚を与えるべきか、魚の釣り方を教えるべきか」 という問いかけで、「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣り方を教えれば一生食べていける」という見方を示した格言です。
子どもを育てる上でも、常に問題から子どもを守り続けるのではなく、自ら問題を解決できる力を育むことが、子ども自身の将来にとって大切なのではないでしょうか。

ストレスから逃げることのリスク

子どもでも大人でもストレスを完全に取り除くことは不可能なため、過度に子どもからストレスを取り除くことは、子どもの将来への悪影響になる可能性があります。なぜなら、ストレスを避けることに慣れた子どもは、将来、どこかで訪れる困難な状況に対して乗り越える力がないため、克己して機会を掴みとる道を自ら閉じてしまう恐れがあるからです。

ストレスを抱え込んだままにしておくと、子どもは不安を自分で大きくしてしまうことがあります。また、辛いことに対して逃げることが最初の選択肢になってしまうと、困難を克服する力が育ちません。ストレスに立ち向かう経験を積むことは、子どもたちが自己肯定感を高め、自己効力感を育む上で不可欠なのです。

不安を放置すると

不安に立ち向かうための具体的な方法

 では、具体的にどのように子どもにストレスに立ち向かう力を養えばよいのでしょうか。まず、子ども自身が抱えている不安を、漠然とした「不安」と捉えないことが必要です。
不安について【感情、思考、行動】の3つの要素に分けて考えることで、子どもは自分の不安を客観的に捉え、その原因を特定することができます。

1つ目は、感じていること。「心臓がドキドキしている」「体が震えている」「手が湿っている」「お腹が痛くなる」などの体の動きは、怖いという感情を伝えています。

2つ目は、考えていること。感じていることを何とかするために、「ここから逃げよう」「そんなことできない」「お家に帰りたい」「お母さんか誰かに助けてほしい」などの考えが出てきます。

3つ目は行動で、考えていることから具体的に何かをすること。その場所から離れたり、部屋に隠れたり、気分を楽にしてくれそうな人のそばにいようとする、などです。この行動はまた、新しい感情を生み出します。

子どもが自分の不安を具体的に表現できるようになったら、次に、その不安を小さくする方法について一緒に考えてみましょう。

学校に行きたくないと言っていた子どもとの対話例を紹介します。

親:ねぇ、ちょっと座って話を聞かせてくれる?  〇〇の気持ち、もっとよく知りたいなって思ってるんだ。

子:うん。

親:この3つの丸、見てくれる?  これはね、私たちの体や心で起こっていることを 「感じていること」「考えていること」「していること」 に分けて表してるんだ。最近、学校に行きたくないって思ったことあったよね?  そのときのことをちょっと一緒に考えてみようか。  いつ頃だったか覚えてる?

子:うん、先週。

親:そのとき、どんな気持ちだった?  朝、学校に行く前かな?

子:うん。

親:朝、学校に行こうとして、お母さんが起こしたとき、〇〇はどう思ったのかな?

子:行きたくなかった。

親:そうだよね。  「行きたくない」って思ったんだね。  じゃあ、ここに書いてみようか。(思考の丸に 「行きたくない」 と書く)  他にも何かあったかな?

子:寝てたのに起こされたから、ちょっと怒っちゃった。

親:そうだね、寝てたのに起こされたから、少し怒ったのかもしれないね。  じゃあ、ここに 「寝ていた」 って書いてみよう。(行動の丸に書き込む)  学校に行きたくないって思ったときにしていたこと、これだね。  その後、どうしたかな?

子:泣いちゃった。

親:そうだったね。(行動の丸に 「泣く」 と書く)  どうして泣いちゃったのかな?

子:宿題を忘れて、先生に怒られるのが怖かった。

親:そうか、宿題を忘れて、先生に怒られるのが怖かったんだね。(思考の丸に 「宿題を忘れた」 「先生が怒る」 と書く)  先生が怒るかもしれないって考えると、体はどうだった?  どこか痛かったり、変な感じがしたりしたかな?

子:お腹が痛くなって、気持ち悪かった。  心臓もドキドキしてた。

親:そうだったんだね。  お腹が痛くなったり、心臓がドキドキしたりするってことは、〇〇はとっても不安だったってことだよね。(感情の丸に 「心臓がドキドキする」 「お腹の調子が悪い」 と書く)  よくできたね。  見てごらん、〇〇が怖いと感じるとき、体の中でこんな風に色々起こってるんだね。

親:この3つの丸を見てみよう。  〇〇が寝ていた時(していることを示しながら)、宿題を忘れて、先生に怒られるかもしれないって思ったんだね。合ってる?

子:うん。

親:泣いてたとき、お腹の調子はどうだった?

子:もっと悪くなった。

親:そうか、もっと悪くなっちゃったんだね。  そのとき、心の中ではどんなことを考えてたかな?

子:お母さんに怒られたこと。  お母さんが怒るから悲しい。

親:そうだね。(思考の丸に 「お母さんに怒られて悲しい」 と書く)  見てごらん。  1つの丸で何かが起こると、他の丸でも何かが起こってるね。(それぞれの丸から矢印を引き、隣の丸とつなぐ)  つまり、〇〇が 「宿題を忘れて先生に怒られる」 って思うと、お腹の調子が悪くなって、学校に行けなくなっちゃう。  そうするとお母さんが心配して怒って、〇〇はもっと悲しい気持ちになっちゃうんだね。  見てごらん、私たちの気持ちって、こういう3つの部分からできていて、この3つはお互いに影響し合ってるんだね。

親: じゃあ、行動の丸で考えてみようか。宿題を忘れてしまって、学校に行きたくない気持ち、よく分かるよ。でも、もし学校に行けなかったら、どうなると思う? 

子: 先生に怒られるし、お母さんもきっとがっかりする。 

親: そうか、そう思うんだね。じゃあ、もし学校に行って先生に正直に話したら、どうなると思う? 

子: 怒られるかも。

親: そうかもしれないね。ただ、先生は宿題を忘れたから〇〇が休むよりも、行ってちゃんと話してくれる方が嬉しいんじゃないかな。

脱感作法による自己強化

不安を小さくすることに成功したら、子どもを心から褒めて励ましましょう。この方法は、脱感作法と呼ばれるもので、ネガティブな感情を抑止して成功体験を重ねることで、自己肯定感を高める効果があります。

例えば、テスト前に緊張していた子どもが、深呼吸をすることで落ち着きを取り戻し、テストで良い点を取ることができたとします。この時、「よく頑張ったね!緊張していたけど、落ち着こうと工夫したからきっと良い結果になったんだね」と具体的に褒めることで、子どもは自信を持つことができます。

最後に

子どもにストレスの乗り越え方を教えることは、決して簡単なことではありません。しかし、子どもが将来、社会で自立して生きていくためには、不可欠なことです。親は、子どもが困難な状況に直面した際に、寄り添い、励まし、具体的なアドバイスを与えることで、子どもが自ら問題を解決できるようサポートしていくことが重要です。

ストレスから「逃げる」のではなく、「乗り越えていく」ことを教える。それは、子どもたちが自信を持って未来に向かって歩んでいくための第一歩となるはずです。

当社は不登校予防サービスを提供しておりますが、学校へのストレスについて無料診断とカルテ提供も行っております。漠然とした不安を可視化する際に、ご活用いただければ幸いです。


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