不登校の小学生への段階的なアプローチ

こんにちは。児童心理学を専門とし、不登校支援に関わっているカウンセラーの竹宮です。

今日は「不登校の小学生」について、段階的なアプローチの視点から、考えていきたいと思います。

中学生や高校生の不登校と異なり、小学生の場合は発達段階そのものが大きな影響を与えています。心の機能も、言語の理解力も、そして「自己」という意識の持ち方も、年齢によってまったく違うため、同じような関わり方では成果が出にくいことが多いのです。

そこで今回は、小学生ならではの心理的特性や環境の影響を踏まえたうえで、「段階的な関わり」とは何かを具体的にお伝えしていきます。

目次

「本人の気持ちを聞く」だけでは進まない理由

まず、よくあるアドバイスのひとつに「本人の気持ちをよく聞いてあげましょう」というものがあります。

もちろん、これは基本として大切な姿勢です。
ですが、小学生、とくに低学年では自分の気持ちを正確に言語化する力が発達途上にあるため、「何が嫌なのか」「なぜ行きたくないのか」を自覚し、言葉にするのは難しいことが多いです。

たとえば、頭が痛い、お腹が痛いと訴える子も、実は不安や緊張が身体に出ているだけだったりします。

本人が言葉にしないからといって、「原因が分からない」「ただのわがままでは?」と捉えてしまうのは早計です。

このような時期の子どもには、「言葉ではなく行動」に注目することが大切です。たとえば、

  • 朝になると急に元気がなくなる
  • 宿題を前にすると不機嫌になる
  • 家族との距離がやたらと近くなる

こうした小さな行動の変化が、本人の心のメッセージだったりします。


小学生の不登校は「学びの失敗体験」から始まることが多い

中高生の不登校が「人間関係」や「進路への不安」など社会的な要因が絡みやすいのに対して、小学生の不登校は「学びのつまずき」が出発点になっているケースが目立ちます。

たとえば、

  • 読むのが遅い
  • 計算が苦手
  • 先生の話が頭に入ってこない

こうした小さな「できない」の積み重ねが、「自分は学校に向いていない」という自己否定につながります。

特に小学校では、「できる・できない」が明確に評価されることが少なくありません。「〇〇ちゃんはもう九九を全部言えた」「テストで100点だった」といった話が日常的に交わされます。

この比較が、子どもの心を思った以上に傷つけています。

悩んでいる小学生の画像

だからこそ、小学生の不登校には、「勉強の意味」「わかるって嬉しい、という感覚」を回復させるアプローチが必要です。


第1段階:「感覚のリズム」を整える

不登校になると、まず親として気になるのが「朝起きられない」「夜更かしが続いている」などの生活リズムの乱れだと思います。けれど、実はその前段階にある「感覚の乱れ」が見落とされがちです。

小学生、特に低学年の子どもは、ストレスがかかると五感が敏感になったり、逆に鈍くなったりすることがあります。

たとえば、

  • 光をまぶしがる
  • 服のタグを気にする
  • 食事の匂いを嫌がる
  • 小さな音にもイライラする

こうした反応は、神経が過敏になっているサインです。大人で言えば、極度に疲れているときに人混みや大きな音がつらくなるのと同じです。

なぜ今は「整える」ことだけに集中していいのか

この段階で「なんとか学校に行かせたい」と焦っても、子どもにとっては「つらい環境に戻される」と感じてしまい、警戒心が高まるだけです。
今は、“前に進むための準備期間”です。

親御さんとしては、子どもが休んでいる間、何も進んでいないように見えるかもしれません。けれど、感覚が整う=身体が安心できる状態になるということです。これは、再び人と関わるための最初の一歩になります。

まずは、「この子の感覚は今どうなっているんだろう」と観察してみてください。テレビの音量を少し下げる、決まったブランケットで包んであげる、それだけでも大きな支えになります。


第2段階:「遊びの力」で再接続を図る

言葉が出ないなら、行動で気持ちを“出させる”

小学生は、「つらい」「こわい」「不安だ」といった抽象的な感情を、まだ言葉で整理することが苦手です。特に不登校状態の子どもは、感情が“固まって”しまっているため、自分でも何が起きているのか分かっていません。

そんなとき、大人がやりがちなのが、「どうして行きたくないの?」「何かあったの?」と理由を求めることです。

でも、子どもは理由が分からないから困っているのです。
それなら、「言葉ではなく、行動で気持ちを出す」サポートが必要です。

遊びは“心の言語”になる

この時期に効果的なのが「遊びの力」です。遊びはただの気分転換ではありません。児童心理学の視点では、遊びは自分の状態を整理する手段です。

たとえば、手遊びで学校の先生を怒らせたり、レゴで家を何度も建てたり壊したりする遊びには、心の中の葛藤や願望が反映されていることがあります。

ここで大切なのは、親がジャッジをせず、ただそばにいて見守ることです。
一緒に遊ぶ必要はありません。「それ、すごい形になってきたね」「面白い組み合わせだね」と声をかけるだけでも、子どもは安心します。

遊びの中で、「自分ってこう思ってたのかも」と気づくことが、再起の足がかりになります。


第3段階:「感情のボキャブラリー」を増やす

気持ちを言えない子どもに、「気持ちを聞く」のは無理な話

子どもが不登校になると、「もっと気持ちを話してくれたら」と思うのは自然です。

でも、小学生には「言語化の限界」があります。とくに1〜3年生は、語彙が少なく、自分の内面を抽象的な言葉で表現することがまだ発達段階にあるため、感情をうまく整理できません。

このとき大切なのは、子どもの気持ちを代弁してあげることです。

「悲しかったのかな」「ちょっとドキドキしたのかもね」
そんな風に、子どもの行動や表情に合わせて言葉をつけてあげることで、感情に“名前”がついていきます。

親が感情の翻訳者になることが、回復を早める

子どもは、自分の感情が言葉として理解できるようになると、「自分ってこういうとき、こう感じるんだ」と気づくようになります。これは、将来的に自分で気持ちを整えるための第一歩になります。

この時期、親が「話してもいいんだ」「気持ちって、形があるんだ」と教える存在になることは、極めて大きな意味があります。

向き合う母と娘の画像

第4段階:「小さな社会」との再接続をつくる

なぜ“社会性の回復”が必要なのか

小学生にとって、学校はほぼ唯一の「集団生活の場」です。そこから離れてしまうと、「人と関わる力」「集団の中での立ち位置の感覚」が薄れていく傾向があります。

特に注意すべきは、家族以外との関係性が完全にゼロになる状態です。
これは、子どもの中に「自分は外の世界から切り離されている」という感覚を定着させてしまう恐れがあります。

もちろん、無理に他人と関わらせる必要はありません。ただし、“社会とつながっている実感”を、どこかで細くても保っておくことが重要です。

小学生にとっての社会は、大人が思うほど広くない

「社会性を取り戻す」と聞くと、大人はつい「また学校に行けるようにしなきゃ」「同世代の友だちと遊べるようにしなきゃ」と思いがちです。
ですが、児童心理学の視点で見ると、小学生の“社会”は非常に限定的です。本人が「安心できる」「役割を持てる」「少しだけ頑張れる」範囲であることが条件になります。

ですので、再接続のきっかけとしては、以下のような“小さな社会”を想定してみてください。

  • 祖父母とのビデオ通話で「元気だよ」と伝える
  • 郵便ポストに手紙を出すお手伝いをする
  • 公園で挨拶だけ交わす
  • スーパーで買い物かごを持ってみる
  • 図書館でカードを渡して本を借りてみる

これらはすべて、「他人と軽く関わり、自分の行動が誰かに受け取られる」という社会性の練習になります。

ポイントは、「自分が何かをした → 相手が反応してくれた」という因果関係を本人が感じられるようにすることです。

親としてできること

  • 「今日はレジで“お願いします”が言えたね。ちゃんと伝わってたよ」と結果をフィードバックする
  • 無理に褒めすぎず、自然に肯定する(=過剰な演出は子どもに見透かされます)
  • 関わりがうまくいかなかった時も「やってみたこと」が大事だと伝える

この段階は、次の「自己評価」をつくるための土台になります。
“つながることって悪くないかも”という手応えが、自分自身への信頼へとつながっていきます。

第5段階:「自己評価」の土台を育てる

自己肯定感よりも、“自己評価の回復”が必要です

最近は「自己肯定感が大切」と言われますが、不登校の小学生に必要なのは、もっと具体的な「自己評価の土台」です。

それはつまり、
“自分は役に立っている”
“自分にはできることがある”
“前より少し進んだ”
といった“実感”です。

これは、褒められたから得られるものではありません。自分の行動と結果がつながっているという感覚、つまり「手応え」が育つことで、自然と芽生えるものです。

小学生にとってこれは、ちょっとした経験からでも十分に育ちます。

「やったこと」ではなく、「やろうとしたこと」を拾ってあげてください

ここで親御さんにぜひお願いしたいのは、“行動そのものよりも、チャレンジを見る”という視点に切り替えることです。

たとえば──

  • 支度をしかけてやめた → 「ちょっとでもやってみようと思えたんだね」
  • 昨日より起きるのが10分早かった → 「体が少し動きたくなってきたのかな」
  • 勉強の動画を見始めたけど途中でやめた → 「興味はあるんだね。それだけでも前と違うね」

このように、動いたことの“前段階”に目を向けると、子どもは「親はちゃんと自分を見てくれている」と感じます。

それが、「また何かやってみようかな」という小さな意欲を呼び起こすのです。

家の中で「役割」を持たせることが、自己評価を育てる

さらにもうひとつ大切なのが、「自分が家庭の中で役に立っている」と感じられる環境をつくることです。

  • 朝の牛乳を出してもらう
  • 妹のお迎えに一緒についてくる
  • 家族のゴミをまとめてくれる

これは「お手伝い」ではなく、「家庭内での役割」です。
“この家にとって、自分は必要な存在だ”という感覚は、自己評価を大きく底上げします。

注意点としては、「やってくれたら助かるなあ」とお願いするスタイルにすること。義務感ではなく、信頼から来る依頼にするのがコツです。


「放っておく」のではなく、「秩序ある自由」を与える

よく「放っておけばそのうち行くようになる」という意見も耳にしますが、小学生には通用しません。
なぜなら、小学生は「自己管理能力」がまだ発達途上だからです。

行動の選択には、大人の枠組みや制限が必要です
ただしそれは、抑圧ではなく、「秩序ある自由」の形で行う必要があります。

たとえば、

  • 朝は起きる時間だけ決めておく(起きて何をするかは本人に任せる)
  • 食事の時間だけは家族で揃える(その後は自由時間)
  • 1日の終わりに「今日何した?」と簡単に話す(評価や説教はしない)

こうした「ゆるやかな枠組み」があることで、子どもは自分の中に少しずつ「やる気の回復装置」をつくっていきます。

完全な自由は、幼い子どもにとっては不安を生みます。
安心できる「ゆるい枠」が、実は再起への基盤になります。


親御さんに伝えたい「安心していい理由」

ここまで読んで、「やることが多すぎる」「何が正しいのか分からない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

大丈夫です。
ここでお伝えしたことを、すべて完璧にやる必要はありません。

子どもは、完璧な対応を求めているわけではありません。
親が、少しでも「この子に必要なタイミングと方法を探ろう」とする姿勢を持っているだけで、必ず伝わります。

むしろ、親御さんが無理をして「正しいこと」をしようとすると、それが逆に子どもの緊張につながることもあります。

「子どもと同じペースで、一緒に回復していこう」という視点を持つことが、なによりも大切です。


まとめ:小学生ならではの“今”を大人がどう支えるか

不登校の小学生に必要な支援とは、

  • 「学びに失敗した自分」への再評価
  • 「学校という社会」から一時的に距離を取る自由
  • 「言葉にできない気持ち」を代弁してもらえる環境
  • 「行動の結果ではなく、存在そのもの」を認めてもらえる安心

この4つを土台にして、段階的に関わっていくことが大切です。

そしてこれは、「再登校」ではなく、「自律的に生きる力」を育てることでもあります。

お子さんはまだ、自分で自分を整える力が発展途上にあります。だからこそ、大人が先回りせず、しかし見放しもせず、絶妙な距離感で寄り添っていくことが求められます。

子どもの成長には、時間が必要です。
そしてその時間を、信じて待てるのは、親であり、大人です。

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