不登校の原因は様々ですが、実は夫婦仲の悪さが子どもの不登校に影響を及ぼす可能性があることをご存知でしょうか?
本稿では、論文「Marital conflict and child adjustment: emotional security as a moderator of the effects of interparental conflict on children’s internalizing and externalizing problems 夫婦間の対立と子どもの適応:両親間の対立が子どもの内面化問題および外面化問題に及ぼす影響の調整因子としての情緒的安全性」(Journal of Child Psychology and Psychiatry, 2009) を参考に、夫婦の不仲が子どもの不登校にどのように影響するのか、そのメカニズムについて考察していきます。
まず、論文の概要ですが、この研究では、3年間、毎年親子297組を追跡調査し、夫婦間の不仲・親のうつ状態と、子どもの心の安全性・子どもの内向性の傾向・問題行動との関連性を調べました。その結果、興味深い事実が明らかになりました。
※父母家庭に限った調査であり、ひとり親の場合、子どもの心の安全保障には親子関係が大きく影響します。
夫婦間の不仲と子どもの不登校の関係
研究によると、夫婦間の対立は、子どもの非行や不登校などに繋がることが示されました。
当然ですが子どもにとって、両親が仲良くしていることは安心感や幸福感に繋がります。しかし、両親が愛し合っていないと感じたり、喧嘩を見たりすると、子どもは不安や心配を感じるようになります。この不安感が積み重なっていくと、自分自身が安全ではない、守られていないと感じてしまうのです。
そして夫婦間の不仲が子どもの心の安全保障が壊してしまい、学校などの外の環境に挑戦する気力を失わせてしまいます。
さらに注目すべき点は、親のうつ状態が、この関係性に大きく影響を及ぼすということです。うつ状態にある親は、ネガティブな感情に振り回されやすく、夫婦間のコミュニケーションも悪化しがちです。また、うつ状態にある親は、子どもに対して十分な愛情を注げなかったり、適切な養育をすることが難しくなる場合もあります。
なお、うつ状態は特別なものではありません。 厚生労働省の患者調査によれば約420万人の人がうつ病などの精神疾患にかかっており、その数は近年増え続けています。 精神疾患の中でも、もっとも多いのがうつ病です。
子どものための夫婦関係の改善
夫婦である以上、意見が食い違うことや、感情的にぶつかることは避けられません。しかし、子どもがいる家庭においては、夫婦の諍いが子どもたちの心に与える影響は計り知れません。
子どもたちは、大人以上に両親の言動に敏感です。両親がいつも笑顔で仲睦まじくしている様子を見て育った子は、心の安定を得て、健やかに成長していくでしょう。しかし、両親がよく言い争いをしたり、険悪なムードを漂わせている家庭で育った子は、いつもどこかで不安を抱え、心の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
「夫婦の喧嘩は子どもの前でするな」という言葉は、古くから言われていますが、決して古くならない普遍的な真理です。とはいえ、夫婦の関係は、常に良好な状態を保つことの方が難しいのが現実です。大切なのは、夫婦の間に問題が生じた際に、どう対処していくかということです。
大切なのは、子どもの心のエネルギーを損なわないこと
夫婦の喧嘩は、子どもにとって大きなストレスになります。特に、幼い子どもは、両親の喧嘩の原因や背景を理解することが難しく、自分のせいだと感じてしまうことがあります。これは、子どもの心に深い傷跡を残し、自己肯定感を低下させたり、大人になってからの人間関係に悪影響を及ぼしたりする可能性があります。
無視や軽蔑は厳禁
夫婦の仲が悪くなると、つい相手を無視したり、軽蔑したりしたくなることがあります。しかし、これは絶対に避けるべき行為です。子どもは、両親の言動をすべて見ています。たとえ相手のことを嫌いになったとしても、子どもの前でそれを露わにすることは、子どもに大きなショックを与えることになります。
挨拶を交わす
夫婦関係の改善は、一朝一夕にできるものではありません。しかし、小さなことからコツコツと積み重ねていくことで、少しずつ状況は改善していくはずです。
まずは、挨拶を交わすことから始めましょう。挨拶は、相手に対して「あなたを認めています」「あなたとコミュニケーションを取りたいと思っています」という気持ちを伝える大切な行為です。
無理に仲良くする必要はない
夫婦が仲良くすることは理想ですが、無理に仲良くする必要はありません。人間同士なので、不満がまったく無くなることはありません。大切なのは、お互いを尊重し、一人の人間として接することです。
「自分たちは問題ない」と考えている夫婦でも、実は表立った喧嘩をしていないだけ、という場合が多くあります。相手を軽蔑し不満を抱き、返事をしなかったり避けたりすることは、そこまで悪いことに思えないかもしれません。しかしその冷えた空気は子どもが吸うことになります。
お子さんが不登校に悩んでいる場合も、そうではない場合も、自身のプライドや感情ではなく、せめて子どもが成人するまでは家族関係を優先してみるのはどうでしょうか。