不登校の継続要因に「勉強」が挙げられる理由とその対策

不登校や引きこもりの問題に取り組む児童心理司の藤原と申します。私は、不登校予防および再登校支援事業を行うToCo株式会社の顧問として、これまで多くの不登校の子どもと向き合い、その原因や解決策を探ってきました。

不登校が長引く要因の一つとして「勉強の遅れ」が挙げられます。勉強の遅れは、単に学力の問題ではなく、子どもの心理状態や自己評価にも大きな影響を及ぼし、再登校を阻む大きな壁となるのです。本稿では、「なぜ勉強が不登校を長引かせるのか」「その結果、どのような悪循環が生まれるのか」「それを解決するためにはどのような方法があるのか」について詳しく論じていきます。

まずは、不登校が続く要因としての「勉強」に焦点を当て、その影響について詳しく見ていきましょう。


目次


勉強が不登校の続いてしまう要因となる理由

不登校の子どもにとって、「勉強」は単なる学習課題ではなく、大きな心理的負担となることが少なくありません。学校に行かないことで授業についていけなくなると、その遅れが焦りや劣等感を生み、さらなる不安や自己否定感につながるのです。では、具体的にどのようなメカニズムで「勉強」が不登校を長引かせるのかを見ていきます。

1. 学習の遅れによる自己肯定の低下

不登校が続くと、当然ながら学校の授業は進みます。特に、小学校高学年から中学生にかけては、学習内容がより抽象的になり、前提となる基礎知識がないと理解が難しくなる単元が増えていきます。例えば、小学校で分数や割合に苦手意識がある子は、中学数学の方程式を理解することが困難になります。同じように、国語の読解力が不足していると、社会や理科の教科書の内容すら難しく感じるようになります。

この「ついていけない」という感覚が積み重なることで、子どもは次第に「自分は勉強ができない」「学校に戻っても授業についていけない」と考えるようになります。そして、「どうせ頑張っても追いつけない」「もう手遅れだ」といった思考に陥り、学習意欲そのものを失ってしまうのです。

2. 周囲との差を意識することによる劣等感の増幅

子どもたちは、想像以上に「周囲との比較」を意識しています。不登校の期間が長くなるほど、学校にいる同級生と自分との差が開いていることを痛感する機会が増えていきます。

例えば、学校にいる友達が「今日の授業、難しかったけど何とか理解できたよ」と話しているのを聞いたとき、不登校の子どもは「そもそも何の授業をしているのかもわからない」と強く意識してしまいます。また、久しぶりに登校した際に、先生が「この問題、簡単だよね」と発言しただけでも、「自分にとっては簡単ではない」と感じ、ますます自信を失うことになります。

こうした経験が重なることで、「自分は他の子より劣っている」という意識が強まり、それが再登校の妨げになるのです。

3. 「勉強しなければならないのに、できない」というジレンマ

不登校の子どもたちは、多くの場合、「勉強しなければいけない」という意識を持っています。親や教師からの言葉だけでなく、社会全体の価値観として「勉強は大切」「勉強しないと将来が不安」という認識があるからです。しかし、不登校の状態が続くと、「やらなければいけないのに、やれない」「やる気が起きない」というジレンマに苦しむことになります。

このジレンマがストレスとなり、勉強に対する苦手意識をさらに強めてしまうことがあります。親が「勉強しなさい」と強く促したり、「このままでは将来が大変だ」と不安を煽るような言葉をかけたりすると、子どもはより強いプレッシャーを感じるようになります。その結果、勉強をすることそのものがストレスになり、「学校に戻ること=嫌なこと」と認識してしまうのです。

4. テストや成績による不安

不登校の子どもたちにとって、定期テストや成績評価は非常に大きなプレッシャーになります。仮に学校に戻りたいという気持ちがあっても、「テストで悪い点を取ったらどうしよう」「赤点を取ったら親に怒られるかもしれない」といった不安が頭をよぎることが多いのです。

特に、中学に入ると高校受験が意識されるようになり、学校の成績が重要視されます。「不登校の期間が長かったから、受験に不利になるのではないか」という不安を抱えることで、学校に戻ること自体を諦めてしまうケースもあります。

このように、学習の遅れが単なる知識の不足ではなく、心理的な負担として積み重なり、不登校を長引かせる原因になっているのです。


以上のように、「勉強ができない」「勉強の遅れが取り戻せない」「周囲との差が大きくなりすぎた」という意識が、不登校の継続につながっています。こうした状況に対処するためには、単に学習の機会を与えるだけではなく、子どもの心理的負担を軽減しながら、段階的に学習習慣を取り戻すことが重要です。

不登校が長引くほど、勉強による再登校のハードルは高まる

不登校の期間が長くなるほど、勉強が再登校の大きな障壁となってしまいます。それは単に「勉強が遅れるから」という理由だけではありません。時間の経過とともに、学習の遅れが子どもの自己評価や人間関係に影響を与え、結果的に学校に戻ることをより困難にしてしまうのです。ここでは、不登校の長期化が勉強面に与える影響と、それがどのように再登校の妨げになるのかを詳しく見ていきます。

1. 学習の遅れが加速度的に広がる

不登校の初期段階では、子ども自身も「少し休んでから戻るつもりだった」「数日分の授業なら何とかなる」と思っていることが多いです。しかし、1週間、1か月と時間が経つにつれて、授業の進度との差が広がり、取り戻すべき内容が膨大になっていきます。

特に、中学校に入ると、授業のスピードは小学校よりも速くなり、科目ごとに専門性が増します。例えば、数学では一次関数や方程式といった内容が基礎となり、それが理解できないと後の単元も理解しにくくなります。同じように、英語では文法や単語の積み重ねが重要になるため、一度遅れるとキャッチアップするのが非常に難しくなります。

また、学校のカリキュラムは、過去の学習内容を前提に進むため、一度でも「わからない」状態になると、その先の内容も理解しづらくなるという負のスパイラルに陥ります。このように、学習の遅れは単なる「取り戻すべき量」の問題ではなく、「理解するための基盤」が崩れてしまうという問題を引き起こすのです。

2. 「今さら戻ってもついていけない」という心理的ハードル

不登校が数か月以上続いた場合、子どもが抱える心理的なハードルはさらに高まります。単純な学習の遅れに加え、「戻ったときに授業についていけるのか」「周りの友達にどう思われるか」といった不安が膨らんでいくのです。

例えば、国語の授業で「この前の文章、みんな覚えてるよね?」と先生が発言したとき、不登校の子どもは「何の話をしているのかわからない」と感じます。それが一度や二度ではなく、授業のたびに続くことで、「自分だけ取り残されている」という感覚が強まり、次第に学校へ戻る意欲を失ってしまうのです。

また、定期テストや小テストがあると、「どうせ点が取れないから行きたくない」と思うようになります。実際に、学校に戻った子どもたちの中には「テストで名前を書くだけだった」「提出物も出せず、成績がつけられなかった」という経験をした子もいます。こうした状況は、「学校に戻った後の困難」をイメージさせ、ますます再登校を遠ざける要因となります。

3. 勉強の遅れが人間関係にも影響を及ぼす

不登校の子どもが学校に戻った際、最も恐れることの一つが「周囲の反応」です。特に、勉強に関する話題は、クラスメイトとの距離を感じやすい場面の一つです。

例えば、休み時間に友達が「数学の宿題、難しかったね」と話しているとき、不登校だった子どもは「そもそもその宿題が何なのかも知らない」と感じます。また、グループワークなどで先生から「この前の授業でやったことを復習して」と指示されたとき、他の子がスムーズに取り組んでいるのに対し、自分だけ何をすればいいのかわからない状況になることもあります。

このような場面を経験すると、「友達と話が合わない」「自分だけ取り残されている」という感覚が強まり、再登校に対する不安がますます大きくなります。学校は勉強をする場であると同時に、友人関係を築く場でもあります。そのため、勉強の遅れが人間関係にも影響を与え、「学校に戻りたくない」という気持ちを強めてしまうのです。

4. 長期化すると「不登校の生活が当たり前」になってしまう

不登校が長引くと、子どもの中で「学校に行くこと」よりも「家で過ごすこと」が当たり前の生活になっていきます。最初の頃は「また学校に戻るつもりだった」と思っていた子どもも、数か月が経過すると「どうやって戻ればいいのかわからない」「もうこのままでいいのではないか」と考えるようになります。

この状態が続くと、勉強に対する意欲も徐々に薄れていきます。「どうせ学校に行かないのだから、勉強しなくてもいい」「今さら頑張っても意味がない」という考えが強まり、学習習慣そのものが崩れてしまうのです。

また、学習の遅れが「学校復帰のための課題」ではなく、「自分の価値を測るもの」として感じられるようになると、「勉強ができない=自分には価値がない」という自己否定につながることもあります。このような状態では、学校に戻るための一歩を踏み出すことがますます難しくなってしまいます。

学習の遅れが再登校を難しくする悪循環を断ち切るために

不登校が長引けば長引くほど、勉強が再登校の妨げになることは明らかです。しかし、「このままではいけない」と焦って無理に勉強を押し付けることは逆効果です。重要なのは、子どもが勉強に対して「できない」「ついていけない」というネガティブな感情を抱かずに済むような環境を整えることです。

塾よりも学校連携が優先される理由

不登校が続く中で、「学習の遅れを取り戻すために塾に通わせるべきか」と考える保護者の方は少なくありません。確かに、塾は学力向上を目的とした場であり、学校に戻る前に学習を補う手段として魅力的に映ることもあるでしょう。しかし、不登校の子どもにとって、塾が必ずしも最適な選択肢とは限りません。むしろ、塾よりも学校との連携を優先することが、不登校からの回復において重要なポイントになります。

では、なぜ塾よりも学校との関わりを重視すべきなのか、その理由について詳しく説明していきます。

1. 不登校の本質的な問題は「学力不足」ではなく「学校適応」

不登校が続く要因の一つとして「勉強」が挙げられることは確かですが、学力不足そのものが不登校の主原因というわけではありません。むしろ、「学校に行くことへの不安」「友人関係の悩み」「先生との関係の問題」などが根本的な理由となっていることが多いのです。

そのため、学力を塾で補えばすぐに学校へ戻れるかというと、そう単純な話ではありません。たとえ塾で学習の遅れを取り戻したとしても、「学校へ行くことへの抵抗感」や「学校の環境に適応する力」が育まれなければ、再登校は難しいのです。

例えば、塾で勉強を頑張った子どもが「勉強は少しできるようになったけれど、学校に行くのは怖い」と感じるケースは少なくありません。塾は学習指導が中心であり、学校生活への適応をサポートする仕組みは整っていないため、学校復帰に必要な「集団生活への慣れ」や「学校との関係を再構築する力」を養うことができないのです。

2. 塾は「勉強ができる子」を前提とした環境である

塾は基本的に「学習を進める場」であり、「学習の遅れを取り戻す場」として設計されているわけではありません。特に集団指導の塾では、ある程度の学力があることを前提に授業が進められるため、長期間不登校だった子どもがいきなり塾に入ると、ついていけずに挫折する可能性が高くなります。

また、塾には学校と異なり「成績向上」や「受験対策」に特化した競争的な環境があります。これが不登校の子どもにとってストレスとなることもあります。例えば、塾では定期的に確認テストが実施されることが多く、「勉強ができるかどうか」が可視化される場面が増えます。不登校の期間が長く、学習の遅れがある子どもにとっては、こうした環境が「できない自分」を強く意識させてしまい、学習への意欲を失わせることにもつながります。

また、塾の講師は「勉強を教えるプロ」ではあっても、「不登校支援の専門家」ではありません。不登校の子どもが抱える心理的な課題に対する理解が不足していることも多く、子どもの気持ちに寄り添った適切な対応ができないこともあります。

3. 学校との関係を再構築することが重要

不登校からの回復には、「学校との関係を再構築すること」が非常に重要です。つまり、学習の遅れを取り戻すこと以上に、「学校に戻りやすい環境を整えること」が求められます。そのためには、学校と適切な形でつながりを持ち続けることが不可欠です。

学校との関係が切れてしまうと、復帰のタイミングを見失い、「戻るべき場所がない」と感じてしまうこともあります。しかし、学校と定期的にコミュニケーションを取りながら進めることで、「いつでも戻れる場所がある」という安心感を持つことができるのです。

4. 塾の利用が有効なのは「居場所」としての機能を果たす場合

ここまで、塾の限界について述べてきましたが、すべての塾が不登校の子どもにとって不適切というわけではありません。塾の中には、学習指導だけでなく、子どもの居場所としての役割を果たすものもあります。例えば、少人数制や個別指導の塾で、学習のサポートと同時に心理的なケアを行っている場合、子どもにとって安心できる環境になることもあります。

しかし、その場合でも、塾の利用を「学校復帰の手段」として捉えるのではなく、「子どもの社会的な居場所の一つ」として考えることが重要です。学校に戻るための準備として塾を活用するのではなく、「外部の人と関わる機会を作る」「生活リズムを整える」といった目的で利用する方が、子どもにとってプラスになるケースが多いです。

学校との連携を重視し、適切な学習支援を行うことが鍵

不登校の子どもにとって、学習の遅れを取り戻すことは重要ですが、それ以上に「学校に戻れる環境を整えること」が最優先事項です。塾は学習指導の場としては有効ですが、「不登校支援」には向いていません。学力向上だけでなく、学校への適応を促すためには、学校との関係を維持しながら進めていくことが必要不可欠です。

勉強のハードルを下げるための親の接し方、行動

不登校が続く中で、保護者の方が特に気にされるのが「勉強の遅れ」についてです。

「このままで将来は大丈夫なのか」「学校に戻ったとき、ついていけるのか」といった不安を抱えるのは、ごく自然なことです。しかし、その不安が強すぎると、子どもに対して「勉強しなさい」とプレッシャーをかけてしまったり、「勉強をしないと将来困るよ」と無意識のうちに不安を煽ってしまったりすることがあります。

不登校の子どもはすでに、「勉強が遅れている」「授業についていけるか不安」という気持ちを抱えていることが多いです。そんなときに、親からのプレッシャーが加わると、勉強に対する抵抗感がさらに強まり、ますます手をつけなくなってしまうことがあります。

では、どうすれば子どもが勉強に対する抵抗感を減らし、少しずつ学習の習慣を取り戻せるのでしょうか。ここでは、親ができる具体的な接し方や行動について詳しく説明していきます。

1. 「今すぐ取り戻さなければならない」という意識を手放す

保護者の方がまず意識すべきことは、「今すぐに勉強の遅れを取り戻す必要はない」ということです。不登校が長引いた子どもにとって、「勉強しなければならない」という気持ちがストレスになり、それが逆に学習への意欲を削いでしまうことがあります。

勉強ができないことを責めたり、急いでキャッチアップさせようとすると、子どもは「勉強は苦しいもの」と認識し、ますます避けるようになってしまいます。重要なのは、「まずは勉強に対する心理的なハードルを下げること」です。そのためには、「少しずつでもいいからやってみよう」というスタンスで関わることが大切です。

2. 「勉強しなさい」と言わず、環境を整える

不登校の子どもに対して、「勉強しなさい」と言うことは逆効果になりやすいです。親から勉強を強制されることで、かえって反発心が生まれ、勉強そのものを避けるようになるケースが多いからです。

大切なのは、「勉強をやるかやらないかは本人に委ねる」ことです。ただし、完全に放置するのではなく、「勉強しやすい環境」を整えることが重要になります。例えば、以下のような工夫が考えられます。

  • リビングに勉強できるスペースを作る
    勉強部屋にこもることがプレッシャーになる子も多いため、リビングやダイニングなどで気軽に勉強できる環境を用意する。
  • 親が本を読んだり、一緒に学ぶ姿勢を見せる
    親がスマホやテレビばかり見ていると、子どもも同じように過ごしがちです。親自身が読書や資格の勉強をする姿を見せることで、「学ぶことは自然なこと」と思えるようになります。
  • 勉強の話題をプレッシャーにならない形で出す
    「勉強しなさい」ではなく、「今日はどんなことをした?」と軽く話を振る程度に留める。興味を持てる話題を出し、学ぶことを自然な流れにする。

3. 「小さな成功体験」を積ませる

勉強への抵抗感を減らすには、「できた!」という成功体験を積ませることが重要です。いきなり難しい問題を解かせるのではなく、簡単な問題から始め、「少しずつできる」という感覚を持たせることが大切です。

例えば、以下のような工夫が有効です。

  • 子どもが好きな分野から始める
    算数や英語が苦手なら、好きな歴史の本を読むだけでも学習になります。「興味が持てることから学ぶ」ことで、学習のハードルを下げることができます。
  • 問題を解くのではなく、動画や本で学ぶ
    「勉強=問題を解くこと」と考えるとハードルが上がります。まずは教育系のYouTube動画や、学習漫画などを活用して、知識を増やすところから始めるのも有効です。
  • できたことをしっかり褒める
    「たった1問しか解いてない」「こんな簡単なことができただけ」と思わずに、「やろうとしたこと」そのものを褒めることが大切です。「少しでもやったことがすごい」「昨日よりも進んだね」と声をかけることで、子どもは「やってよかった」と感じ、勉強への抵抗感を減らすことができます。

まとめ:勉強を再登校への妨げとしないために

不登校の子どもにとって、「勉強」は大きな心理的負担になりやすいものです。しかし、親が焦って勉強を強要すると、かえって逆効果になってしまうこともあります。重要なのは、子どもが「学ぶことに対してポジティブな気持ちを持てるようになること」です。そのためには、無理に勉強を押し付けるのではなく、子どもが少しずつでも学習習慣を取り戻せるように環境を整えることが大切です。

不登校は決して「そのまま放置すれば解決する問題」ではありません。適切な学習支援と環境調整を行いながら、子どもが再び学校に戻るための準備を整えていくことが、何よりも重要なのです。


ToCo(トーコ)について

私たちToCoは、お子様が自ら不登校から脱却するための支援を行っており、2025年2月時点で700名以上のお子様が平均3週間で再登校しています。

学校や行政機関による対策が進む中、不登校数は年々増え続けています。私たちは、不登校が続いてしまう要因を診断し、児童心理司や精神科医の専門チームが再登校までサポートします。
不登校でお悩みの方はぜひ検討ください。

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