「ふつうの子」なんて無い

私は児童心理カウンセラーの藤原と申します。不登校や引きこもりの子どもたちを専門にサポートをしています。これまで多くの親御さんとお話しする中で、「普通の子」に対する考え方やその先入観が、親子関係や子どもの心にどれほど大きな影響を与えるのかを目の当たりにしてきました。

本稿では、「ふつうの子」なんて無い、という題名のもと、子どもたちの個性や生きづらさを理解し、親としてどう寄り添えるかを掘り下げていきます。


「普通」を求めることの落とし穴

親として、我が子が「普通」であってほしい、特別な問題を抱えず、周囲に馴染み、順調に成長してほしいと願うのは当然のことです。学校に通い、友達と楽しく過ごし、やりたいことを見つけ、将来に向かって歩んでいく姿を思い描くのは自然なことです。しかし、その「普通」という言葉が、時に子どもの苦しみの原因になることをご存じでしょうか。

不登校や引きこもりの子どもたちと接していて感じるのは、多くの場合、子どもたちは自分を「普通ではない」と思い込んでいるということです。「他の子どもたちはみんな学校に行けているのに、どうして自分は行けないのだろう」「自分はダメな子だ」と、子どもたちは自分を責めてしまうのです。そしてその背景には、多くの場合、親や周囲の「普通であってほしい」という期待が影を落としています。

もちろん、親として「普通であってほしい」と願うこと自体が悪いわけではありません。問題は、それが子どもにとって「自分のありのままを否定されている」と感じさせてしまう点にあります。例えば、「学校に行かないなんて普通じゃないよ」「みんなやっているんだから頑張ってごらん」といった言葉は、励ましのつもりでも、子どもにとっては「自分はダメなんだ」というメッセージに聞こえることがあります。

私たちは「普通」という言葉を使う時、その背後にある基準を無意識に社会や周囲の価値観に頼っています。しかし、果たしてその基準は絶対的なものでしょうか?たとえ学校に行けなかったとしても、友達と過ごす時間が少なかったとしても、それはその子にとっての「普通」ではないのでしょうか。

子どもの「生きづらさ」を見つめる

不登校や引きこもりは、単に怠けや反抗心から来るものではありません。むしろ、その多くは子ども自身の「生きづらさ」から生じています。その生きづらさの原因は千差万別です。例えば、学校という環境が持つ画一的なルールや価値観に適応できない場合や、人間関係で傷ついた経験が心の傷となっている場合、あるいは自己評価の低さから新しいことに挑戦すること自体が怖くなってしまう場合などがあります。

これらの生きづらさは、表面からは見えにくいものです。子どもが学校に行きたくないと言ったとき、その理由を「ただ怠けているだけだ」「気分の問題だ」と決めつけるのは危険です。むしろ、「この子は何に苦しんでいるのだろう」「どんな部分が負担になっているのだろう」と子どもの心の内側に目を向けることが大切です。

ある親御さんが、学校に行けなくなった娘さんについて話してくれたことがあります。その子はとても真面目で、先生の期待にも答えようと一生懸命努力していました。しかし、その頑張りが裏目に出て、友達との関係で「自分だけが空回りしている」と感じるようになり、次第に学校への足が重くなっていったのです。親御さんは初め、娘さんが学校に行かないことを「わがまま」だと考えていましたが、よく話を聞いてみると、娘さんは「自分の努力が否定されている」と感じていたことがわかりました。

このように、子どもの心の中には、私たち大人が想像する以上に複雑な感情が渦巻いていることがあります。それを理解するには、まず「子どもは何かに苦しんでいるのではないか」という視点を持つことが必要です。

親としての役割を見直す

では、親としてどのように子どもに接すればよいのでしょうか。答えの一つは、「普通」を押し付けるのではなく、子ども自身のペースや価値観を尊重することです。

ある意味で、不登校や引きこもりは、子どもからの「サイン」と言えます。「私は今、苦しい」「助けてほしい」という声を上げる代わりに、行動でそのメッセージを伝えているのです。親としてそのサインを受け取ったとき、最も重要なのは「この子が何を伝えようとしているのか」に耳を傾けることです。

具体的には、以下のようなアプローチが有効です。

  • 子どもの話を否定せずに聞く。たとえ親としては受け入れがたい内容でも、「この子がどう感じているか」を理解しようとする姿勢が大切です。
  • 子どもの現状をそのまま認める。学校に行けていない現実を否定するのではなく、「今、学校に行けないんだね」と事実を受け入れることで、子どもは少しずつ安心感を取り戻します。
  • 親自身の価値観を見直す。「普通であること」に囚われていないか、「他の子と比べていないか」を振り返ることで、親としての心の余裕が生まれます。

親が変わることで、子どもの感じ方や行動も変わることがあります。「普通であること」ではなく、「その子らしさ」を大切にすることで、子どもは自分自身を肯定できるようになるのです。

「普通」から解放されるとき

最後に、「普通」という言葉を手放すことの大切さについてお話しします。私たちの社会は、多様性を尊重すると言いながらも、どこかで「普通」の枠にはめようとする力が働いています。それは学校という場においても同様です。しかし、「普通」に囚われ続ける限り、私たちは子どもたちが本来持っている個性や可能性を見過ごしてしまう危険性があります。

不登校や引きこもりは、決して「異常」ではありません。それは、その子にとって「自分らしく生きるための過程」であり、「自分自身を守るための手段」なのです。親としてその事実を理解し、子どもの心の声に寄り添うことで、子どもたちは自分の道を見つけ出すことができます。

「普通の子なんてどこにもいない」という言葉は、一見過激に聞こえるかもしれません。しかし、それこそが真実です。すべての子どもは、唯一無二の存在であり、誰かと比較することなく、そのままで価値のある存在です。親も子も「普通」という幻想から解放されることで、新しい視点を得ることができるのです。