私は児童心理カウンセラーとして10年以上、不登校や引きこもりに日々向き合っています。不登校の問題は、単に「放っておけば治る」というものではありません。むしろ、不登校が長引くほど、その状態が子どもの「日常」として定着しやすくなり、元の生活に戻ることがどんどん難しくなってしまいます。そのため、早期に適切な対処を行うことが非常に重要です。
本稿では、不登校が1ヶ月以上続いた場合に親御さんが取るべき具体的な対処法を解説します。不登校のお子さんを持つ多くの親御さんが、何をすべきか迷い、不安な気持ちを抱えながら日々を過ごしていることでしょう。その心情に寄り添いながらも、実際に役立つ方法をお伝えします。
子どもが「不登校」という状態に至るまで
まず、不登校に至る背景を理解することが大切です。多くの場合、不登校は突然始まるわけではありません。その前兆や原因となる出来事が必ず存在します。それが学業面のプレッシャーだったり、友人関係のトラブル、先生との摩擦、さらには家庭内の環境要因であったりします。しかし、1ヶ月以上学校を休んでいる今、親御さんがすべきことは、その「原因」をあまり深く掘り下げすぎないことです。なぜなら、不登校のきっかけとなったストレスは、実は時間の経過とともに薄れている可能性が高いからです。
例えば、子どもが友達とのケンカが原因で学校に行かなくなった場合、最初の数日はその問題が頭の中で大きく占めているかもしれません。しかし、1ヶ月も経てば、その問題自体の影響力は薄れ、今度は「学校に戻ること」そのものへの抵抗感が大きくなります。「自分が学校を休んだことで周囲からどう見られるのか」という不安や、長い休みで勉強が遅れてしまったことへの焦りが新たな障害となるのです。
このため、まず親御さんが子どもに対してできることは、「現在、学校に戻る意思があるか」を率直に確認することです。もちろん、子どもがすぐに素直に答えるとは限りません。その場合は焦らずに、子どもの様子を見ながら丁寧に話を進めていく必要があります。
「学校に行かない」ことが当たり前になる危険性
1ヶ月を過ぎると、不登校は「一時的な出来事」ではなく「日常」として子どもの中に根付いてしまう危険があります。朝起きて学校に行く代わりに、遅くまで寝ている、好きなテレビやゲームをする、家族の目が届きにくい時間帯にスマートフォンを長時間使う、といった行動が日々の生活リズムとなると、そこから抜け出すことは容易ではありません。学校に行かないことが「楽」と感じられるようになると、「また学校に通い始める」という意識自体が失われてしまいます。
この段階で重要なのは、学校に行かないからといって、子どもの生活を過剰に快適にしないことです。例えば、子どもが学校を休む理由を「疲れた」「眠い」といった漠然としたものにする場合があります。このとき、親御さんが「疲れているなら無理しなくていいよ」「眠いなら今日は休んでいいよ」と何度も許容してしまうと、子どもにとって「学校を休む」ことが無条件で許される行動になってしまいます。
不登校中であっても、家庭内で一定の規律を保つことが非常に重要です。具体的には、以下のようなポイントに注意してください。
①起床時間と就寝時間を規則正しく保つこと:平日でも休日でも、朝は同じ時間に起きるように促してください。たとえ学校に行かなくても、生活リズムが乱れると、復帰する際に大きな障害になります。
②自由時間を制限すること:ゲームやスマホの使用時間を明確に区切り、それ以外の時間は勉強や家庭内の手伝いに充てるよう指導してください。
③将来の目標や興味を掘り下げる活動を取り入れること:学校に行けない間でも、子どもが将来の夢や興味を持つ分野について考える機会を作ることは有益です。これにより、「学校で学ぶ意味」を再認識させることができるかもしれません。
学校との連携を密に保つ
不登校が1ヶ月以上続いている場合、学校との連携が欠かせません。親御さんの中には、「学校に連絡をすると、何か責められるのでは」と感じてしまう方もいます。しかし、学校側にとっても、不登校が続く子どもへのサポートは重要な課題です。担任の先生やスクールカウンセラーなど、専門的な知識を持った方々と情報を共有し、協力することで、より適切な対応が可能になります。
学校との連携で特に効果的なのは、「家庭で進められる勉強やプリント」の提供を依頼することです。勉強の遅れは、子どもが学校復帰をためらう大きな理由の一つです。たとえ子どもが「学校には行きたくない」と言い続けている場合でも、家で少しずつ勉強を進めることで、復帰のハードルを下げることができます。
また、学校側にお願いしたいのは、勉強以外のサポートも含めて具体的な提案をもらうことです。例えば、週に一度だけでも先生と子どもが電話で話をする、オンラインで授業を受けるといった方法が考えられます。これにより、子どもが学校とのつながりを失わずに済みます。
不登校中の甘やかしは長期化を招く
不登校中に「居心地の良い生活」を提供することは、長期化を招く大きな原因となります。「学校に行けないなら、せめて家では快適に」という親心は理解できますが、その結果として、子どもが「不登校であることのメリット」を感じるようになれば、復帰がますます困難になります。
例えば、子どもが「家にいれば好きなことができる」と考えるようになると、学校に戻る意欲を持つ理由が失われてしまいます。これは単なる甘えではなく、人間として当然の心理です。「楽な方を選ぶ」傾向は誰にでもあります。そのため、親御さんが毅然とした態度で、家での生活にも一定のルールを設けることが大切です。
その一方で、甘やかさないことが「叱ること」に直結してはいけません。不登校の子どもに厳しく接するだけでは、かえって心を閉ざしてしまう危険があります。ここで重要なのは、「子ども自身に不登校を解決する力がある」と信じ、その力を引き出すサポートをすることです。
親の心構えが子どもを支える
不登校の解決には時間がかかる場合があります。しかし、その間も親御さん自身が不安や焦りに負けず、冷静に対処することが大切です。親の態度は、子どもにとって大きな影響を与えます。「この子の未来は大丈夫」と信じる気持ちを持ち続けることで、子どもも「自分は受け入れられている」と安心感を持つことができます。
最後にお伝えしたいのは、不登校は子どもの人生における「失敗」ではないということです。不登校の期間を通じて、子どもは何かを学び、親も成長する機会を得ることができます。大切なのは、親子で一緒に問題に向き合い、最善の解決策を模索することです。