きっかけは子どもの不登校
不登校解決を事業として立ち上げたきっかけは、子どもが中学生の時に不登校になったことでした。
クラスの雰囲気や担任の先生に馴染めず、段々と学校に行けなくなり、そのまま不登校の状態が始まりました。
学校と話せばいいのか、子どもと話せばいいのか、何をしたら元に戻れるか、向かう方向が分からず戸惑うばかりで、振り返ってみると子どもに対して何も手助けができませんでした。
担任の先生には相談を重ねましたが、『まずは登校することが大切』というお言葉を何度もいただき、先生の熱意は感じながらも、具体的な解決策が見出せないまま、日々が過ぎていきました。
カウンセラーとも面談しました。子どもに質問を重ねながら「なぜ登校できないのか」「原因は何か」を言語化していく一般的な手法を取っていました。カウンセリングを通じて、子どもは自分の気持ちを言葉にする機会を得ましたが、一方で、その経験が自己否定にも繋がったように感じました。
家の中で登校を促そうと思っても、その辛そうな表情を見ると「学校に行けそう?」という質問さえも無神経な感じがして言葉にできません。結局、親も子も息をひそめるような日々が続き、どこにも出口がない思いを抱いていました。
3ヶ月後、転校という手段を取って一旦の解決となりました。しかし、どう対応すべきだったのか、何が正解だったのか、子どもにどのような声をかけるべきだったのか、得体のしれない問題に突き当たった感覚がずっと残っていました。
不登校が増加しつづける国
その時から仕事後や休日に不登校について調べたり、保護者の会に参加したり、大学で心理カウンセリングを学び始めました。
不登校は日本国内で30万人近くの生徒が該当しており、文部科学省の調査によると日本の不登校生徒数はここ数年で増加傾向にあり、特に中学生においてその割合が高いことが報告されています。政府からは不登校の生徒が10万人ほどだった20年前に対策が検討および発表されていますが、その後は更新されていません。
学校に目を向けると、不登校を出さないよう教職員の意識は高まっていますが不登校になってしまった生徒への対応には手が回っておらず、一度不登校になってしまった生徒は基本的に家庭に解決を任せる形となっています。
それでは解決を任せられた親はどのような手段を取るのでしょうか。多くはインターネットでの情報収集が基本となり、カウンセリングやフリースクールなどを調べて比較検討しています。子どもが不登校になった場合の解決方法が確立されていないため、ガイドラインも、信頼性のあるデータも、根拠がある対応方法も、何十年も統合されずに情報が散乱しています。
そして、不登校になった何十万の家庭が毎回ゼロから個別に解決方法を模索しなくてはならないことが日本の現状となります。
海外の先行事例に学ぶ
それでは日本以外でも同じ状況なのでしょうか。海外の不登校について調べてみると日本とは異なり、特にアメリカやオーストラリアなどの英語圏では行動心理学に基づいた実地検証が進んでいます。
その中でも、CBT(Cognitive Behavior Therapy)という認知行動療法が不登校に有効な手段として広まっており、複数の学校で成果を挙げていることを知りました。CBTの概要は、問題が発生した場合に「認知」「感情」「行動」「身体」に分類し、コントロールしやすい認知(Cognitive)と行動(Behavior)を変えていくことで解決に繋げるという心理療法(Therapy)です。この手法は、不登校の生徒が抱える不安や否定的な思考を変化させ、学校への復帰を促す効果が期待され、実際に対照実験では出席率に有意な差を出しています。
そして該当する事例を調査したり論文を読み進める中で、これは日本の不登校対策にも有効であることが分かってきました。不登校に悩む気持ちではなく、不登校の原因となっている認知や行動を家庭内で変えていく、という不登校のきっかけに関わらず再登校に導ける点が明確に書かれていて、これこそが日本の不登校を変える切り口になると感じました。
再登校プログラムの開発
ただし、いくら理論が正しくて海外の実績があったとしても、日本でも有効かは試してみないと分かりません。国内には類似のサービスが無かったこともあり、海外で運用されているプログラムを元にして日本の学校制度や風土に合った形で再構築しました。私たちは海外の研究成果を基に日本の学校環境に適応させた再登校プログラムの開発を進め、その最初のバージョンとなるβ版を2023年に完成させました。
そして不登校に悩む家庭を対象にプログラムの趣旨を紹介し、有志の方にプログラムに沿ったお子さんへの働きかけを進めてもらいました。結果、すべての家庭で再登校を実現、しかもほとんどが2週間以内と期待以上の成果を上げることができました。また、副次的に生まれた不登校予防プログラムも根本原因を掴んでいたからこそ効果を発揮することが分かりました。それが、不登校予防・再登校支援プログラムをより多くの家庭に広めていこうと決意した分岐点でした。
どのような未来にしたいのか
色々とお子さんの将来を考えて相談した上で、学校に通わない選択肢を取ることはまったく問題とは思いません。
しかし、もし登校したいと思っているのに手段が分からずに悩む家庭があるとしたならば、不登校をきっかけに笑顔が失われている親子がいるならば、それは解決すべき社会課題だと考えています。
不登校が続いてしまうことには原因があり、それに焦点を当てることで着実に解決に近づけることができます。そして原因が分かっているからこそ、不登校予防サービスも開発することができました。
不登校は蔓延しています。解決を謳うサービスは数多く出ていますが、その手法は非公開であることが多くブラックボックス化しています。またフリースクールも含めて何十万円も費用がかかり、長期間の拘束が発生するため親にも子どもにも大きな負担が強いられます。
私たちは、多くの不登校の子どもたちが再び学校へ戻り、笑顔を取り戻せる社会の実現を目指しています。そして、不登校が特別な問題ではなく、適切な支援によって克服できるものであるという認識が、社会全体に広がることを願っています。
だからこそ、この不登校予防サービスと再登校プログラムを、不登校に悩む人達にとっての風邪薬のようなサービスに育てたい。
病気の原因が分かっているからこそ効き目のある薬を提供できます。また多くの家庭に届けるためには、適正な価格で提供することが大切です。
そのために、病気のメカニズムを説明すること、薬の効能を伝えること、価格を適正に保つこと、この3点をこれからも続けていきます。至らぬ点もあると思いますが、応援いただけると嬉しいです。
ToCo株式会社 CEO 青山 登