自分を責めやすい子どもへの接し方
こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
今日は「自分ばかりを責めてしまう子どもへの接し方」について、心理学の観点から考えてみたいと思います。
不登校の背景には、さまざまな事情が絡んでいます。学校環境、家庭の状況、本人の性格特性など、どれかひとつでは説明できない複雑さがあります。そのなかでも、私が日々のカウンセリングで強く感じるのは、「自分を責めすぎる子」が非常に多いということです。
たとえば、こういうことを言う子がいます。
「私が無愛想だから、あの子が私を避けるんだと思う」
「先生が冷たかったのは、私がちゃんと笑顔で挨拶できなかったからだよね」
「家でお母さんがイライラしてるの、たぶん私のせいだと思う」
もちろん、子どもなりに人間関係を真剣に考え、気を遣っている姿勢は悪いことではありません。
ですが、度が過ぎるとそれは自己否定に変わり、心の土台を弱らせてしまいます。
今回は、なぜ子どもが自分ばかりを責めてしまうのか。そして、親としてどう接すれば、その子が少しずつ自分を肯定できるようになるのか。そのヒントを一緒に考えていきたいと思います。
目次
- 「全部自分のせい」と思ってしまう思考の背景
- よくあるアドバイスの落とし穴
- 「愛されない=自分が悪い」と思ってしまう仕組み
- 自己否定を止めるための関わり方
- 親自身が「やり直し」を恐れない
- 「自分のせい」と思わない力を、少しずつ育てる
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「全部自分のせい」と思ってしまう思考の背景
他人の行動=自分の責任だと感じる
子どもが「自分ばかりを責めてしまう」背景には、いくつかの心理的なパターンがあります。そのひとつが、「他人の行動や感情を自分の責任だと捉えてしまう傾向」です。
これは専門用語で「パーソナライゼーション」といいます。直訳すると「個人化」ですが、意味は少し違います。他人の行動や出来事を、なんでも自分に関連づけてしまう認知の傾向です。
たとえば、母親が仕事で疲れて少し無表情だったとします。それを見た子どもが「私がまた面倒かけたせいかな」と思い込んでしまう。実際には関係ないのに、自分を悪者にしてしまうのです。
このパターンが続くと、子どもは他人の言動に対して過剰に敏感になります。そして、少しでも嫌な態度を取られたと感じたときに、即座に「私が悪いんだ」と結論づけてしまいます。
その思考は、やがて自分への信頼を失わせていきます。
条件付きの愛が影響している
もう一つ見逃せないのが、「条件付きの愛」の影響です。
条件付きの愛とは、「いい子でいれば愛される」「成績がよければ認めてもらえる」というように、何かを達成することで愛情が得られる状態のことを指します。
このような環境で育つと、子どもは「自分そのものには価値がない」と感じてしまいます。結果として、「愛されない理由=自分の努力不足」と信じ込むようになります。
これは、無意識のうちに親が発してきたメッセージによって形づくられてしまうものです。もちろん、親としては「ちゃんと育てたかった」「失敗させたくなかった」という思いがあってのことだったはずです。
しかしながら、こうした関わりが続くと、子どもは次第に「ありのままの自分ではいけない」「誰かに迷惑をかける自分には価値がない」と感じてしまうようになります。
よくあるアドバイスの落とし穴
「自信を持てば大丈夫」という言葉の危うさ
自分を責めてしまう子どもに対して、大人はつい「もっと自信を持ってごらん」「気にしすぎじゃない?」と声をかけてしまいがちです。
このアドバイス自体は、悪意のない善意から出てくるものです。しかし、実際には、子どもにとってはかなり負担になることがあります。
なぜなら、「自信を持てば大丈夫」という言葉は、裏を返せば「今のあなたには自信がないから問題がある」という意味に聞こえるからです。つまりまた、自分のせいにしてしまうきっかけになってしまうのです。
たとえば、洗濯物を畳むのが苦手な娘さんに、「自信持てばうまくできるよ」と声をかけるのと、「コツがいる作業だから、慣れるまでは時間かかるのが普通だよ」と言うのとでは、受け取り方がまったく違います。
後者の方が、本人の存在そのものを否定せずに、現実的な視点を与えています。
「考えすぎないようにしなさい」と言ってしまう理由
もう一つよく見かけるのが、「そんなに考えすぎなくていいのよ」というアドバイスです。これも親としては心配しての発言です。
けれども、この言葉は「感じてはいけない」「悩むことが間違いだ」と伝えてしまうことがあります。
考えすぎるということは、それだけ相手の気持ちや場の空気に敏感で、真剣に物事を受け止めている証拠です。むしろ大事にしたい感性です。
このようなタイプの子どもに対しては、「悩むこともあるよね」「そのくらい真面目に考えるのはすごいことだよ」と、一度しっかり肯定してあげる必要があります。
「愛されない=自分が悪い」と思ってしまう仕組み
相手の感情を過剰に引き受けてしまう
先ほどの話と重なりますが、人との関係でつらい思いをしたとき、自分が「愛されなかった理由」をすべて自分のせいにしてしまう子どもは少なくありません。
たとえば、友達に冷たい態度を取られたとき、「私が太ってるからかな」「話が面白くないからかな」と、自分の“足りなさ”を探し始めます。
けれども、現実にはその友達がただ不機嫌だっただけということもあります。家庭で嫌なことがあったのかもしれませんし、別の子に八つ当たりしていただけかもしれません。
つまり、相手が自分を大切にしなかった理由が、「自分のせいではない」というケースは、決して少なくないのです。
ですが、自分を責めることに慣れてしまっている子ほど、「自分がもっと頑張れば良かった」と考えてしまいます。
その思考パターンを止めるには、大人が間に入って、冷静に状況を整理してあげる必要があります。
自分イジメに気づけない構造
ここで大切なのは、「自分イジメ」とも呼べるような思考のループに、本人がなかなか気づけないという点です。
外から見れば「そんなに気にしなくていいよ」と言いたくなるような出来事でも、当人にとっては真剣です。自分を傷つけている自覚がないからこそ、繰り返されてしまうのです。
たとえば、夕食のときにお父さんがあまり話をしなかった。そのことで、「私が昼間にLINEを返さなかったからかな」と考える。翌日は早めに返信する。でもまた無口だった。すると今度は「私の返し方がそっけなかったのかも」となる。
このように、事実とは無関係な自己否定が積み上がっていきます。
自己否定を止めるための関わり方
否定の思考に付き合わないことが大切
子どもが「私が悪いから…」と何かにつけて言い出したとき、大人としては否定してやりたくなります。
「そんなことないよ」「あなたは悪くないよ」と。
もちろん、それは必要な言葉です。ただ、同時に気をつけてほしいのは、子どもの否定的な思考そのものに、ずっと付き合い続けてしまうことの危うさです。
たとえば、子どもが「私ってダメだよね」と言ったときに、「そんなことないってば。ちゃんとできてるじゃない」と答える。ここまでは自然な対応です。
けれども、これが毎日続くとどうなるか。
子どもにとっては、「ダメだと言い続ければ肯定してもらえる」という仕組みができてしまいます。そして、無意識のうちに自己否定を繰り返すようになります。
これは一種の心理的な習慣です。本人も無自覚です。
大切なのは、「否定する前提」ではなく、「そもそも、あなたがダメという気持ちは、どこから来てるんだろうね」と、視点を変えてあげることです。
具体的には、「そんなに自分のせいだって思う理由、何があるの?」と問いかけてみてください。
理由を言葉にできたら、すぐに訂正しようとしないで、一度一緒に見つめるだけでも、自己否定のループは和らいでいきます。
「相手の問題かもしれない」という発想を与える
もう一つ、子どもに少しずつ伝えていきたいのが、「相手に大切にされないとき、それは相手の問題かもしれない」という視点です。
これは、子ども自身が教わってこなかった発想かもしれません。
条件付きの愛のなかで育ってきた子は、「私は愛されるに足る人間なのか」という問いばかりを自分に向けています。
けれども、世の中には、人をうまく愛する力が育っていない大人もたくさんいます。
急に怒鳴ったり、無視したり、感情の波に巻き込んでくるような人が、相手だったとしたら。
それは、子どもに問題があったからではなく、相手側の「愛する力の未成熟さ」が理由かもしれません。
そのように説明してあげると、子どもは少し安心した表情になります。
たとえば、こんなふうに言ってみてください。
「あなたが何をしたかより、あの人がどういう人かってことも大事だよ」
「周りに優しくできない人とは、距離を置くことも大切だからね」
このように伝えることで、すべての責任を自分で抱える必要はないということが、少しずつ腑に落ちていきます。
親自身が「やり直し」を恐れない
愛の伝え方は、大人になってからでも変えられる
ここまで読んでくださった方の中には、「もしかして、自分も条件付きの愛を与えてきたかもしれない」と、心に痛みを感じている方もいるかもしれません。
子育てにおいて、過去の関わり方をすべて最初から正しくするのは不可能です。誰もが「よかれと思って」してきたことに、思わぬ影響があったと気づくことはあります。
大切なのは、「やり直せる」と知ることです。
しかもそれは、いまの年齢の子どもだからこそ、間に合うこともあります。
たとえば、毎日のように「ちゃんと宿題やったの?」と声をかけていたとして。
それを少しずつ、「今日は疲れてない?」「何か楽しいことあった?」という問いかけに変えていく。
あるいは、「テストどうだった?」ではなく、「最近、自分で頑張ったって思えることある?」と聞いてみる。
そうすることで、子どもは「成果」ではなく「存在」を見てくれていると感じるようになります。
最初は戸惑うかもしれません。でも、親のまなざしが変われば、子どもはそれを必ず感じ取ります。
「大切にされていい存在」と伝え直す
子どもが自分を責めるクセをやめるためには、「あなたのことを大切に思っている」と、何度でも伝えることが必要です。
そのためには、言葉選びがとても重要になります。
たとえば、「私が太ってるから嫌われた」と言ったとき、「そんなことないよ」とすぐ否定するのではなく、
「あなたの体型で人を判断するような人は、その人自身に問題があるよ」と、価値の軸を移してあげてください。
また、「私の気遣いが足りなかったから、あの子に無視された」と言ったときも、
「気遣いって、相手がちゃんと受け取れるかどうかも関係あるよ。あなたばっかり頑張らなくていいんだよ」と返してみてください。
これは甘やかしでも逃げでもありません。社会の中で健康に生きていくために、自分を守る力を育てる、現実的な支援です。
「自分のせい」と思わない力を、少しずつ育てる
不登校の背景にも、自己否定的な思考が根深く関わっていることがあります。
そして、その思考の多くは、「他人の感情や態度をすべて自分の責任として受け止めてしまうクセ」から生まれます。
子どもがそう感じてしまう背景には、家庭内での「条件付きの愛」が影響しているケースが少なくありません。
けれども、関わり方は大人になってからでも変えられます。
親が先に「自分もやり直していい」と思えることで、子どももまた、「全部自分のせいじゃない」と思えるようになります。
「あなたのことは、いつも大切に思っている」
「大切にされなかったとき、自分を責めていじめないようにしてあげてね」
こうした視点を、日々の言葉の中に少しずつ織り交ぜていくことで、子どもの心に変化が生まれます。
そして何より、子ども自身が「自分イジメ」に加担する必要がないと気づけたとき、その子は、自分を守る新しい力を手に入れます。
すぐに変わらなくても、大丈夫です。少しずつでいいのです。
その歩みに、親として一緒に付き合っていくこと。それこそが、再出発の第一歩になるのだと思います。
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