学校を完全に拒絶する子どもにどう接すればいいか

こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
今回は、「学校に行きたくない」と強く拒む子どもへの接し方について書きたいと思います。

「学校なんて絶対に行かない」
「勉強なんかもうムリ」
「外にも出たくない、誰にも会いたくない」

お子さんからこう言われた経験がある方は少なくないはずです。
親として、どう受け止めればいいのか分からず、頭が真っ白になることもあると思います。気持ちに余裕のない時には、「甘えじゃないの?」「サボってるだけでは?」という考えがよぎるかもしれません。

でも、本当に「甘え」なのでしょうか。
今回はその前提を疑いながら、一般的なアドバイスの限界と、そこから一歩踏み込んだ対応のヒントをお伝えしたいと思います。

目次

見守り続けてしまうリスク

不登校について調べたり、誰かに相談したりすると、こう言われることがよくあります。

「子どもの気持ちが落ち着くまで、そっと見守りましょう」

このアドバイスには確かに優しさがありますし、親子関係の悪化を防ぐという意味では有効なケースもあります。私自身も、子どもの状態が不安定な初期にはこのスタンスが必要なこともあると考えています。

しかし、現場で多くの家庭を見ていると、「待つ」だけでは解決の兆しが見えてこないケースも多いのが実情です。

半年、1年、あるいはそれ以上。
家から一歩も出ない、昼夜逆転、勉強は完全に止まっている──
そんな状態が長期化し、気がつけば登校へのきっかけを失ってしまったご家庭もあります。

「気持ちが変われば動ける」は願望

多くの親御さんは、「本人がやる気になれば」「気持ちが変われば、きっと何かできるはず」と信じています。
でも、心理の視点から見ると、これは現実とズレていることが多いです。

なぜかというと、強く登校や外出を拒む子どもは、そもそも『自分には無理だ』と本気で思っているからです。

これはよく誤解されるポイントです。「行きたくない」のではなく、「行けない」。
本人の中では、それが事実なのです。

たとえば、極度の人見知りの人が、急に知らない人の前でスピーチをしなければならない状況を想像してみてください。
周囲からは「ちょっとしゃべればいいだけ」「気にしすぎ」と言われたとしても、本人の体感としては「喉が詰まって声が出ない」ほどの恐怖があるわけです。

子どもたちも、まさにそのような無理の中にいます。
「外出? 無理に決まってる」「勉強? もう無理」そう言うのは、ただの反抗ではありません。

親ができることは「気持ちを変えさせること」ではない

こうした状況でありがちなのが、「どうにかして子どもの気持ちを変えなければ」という焦りです。
でも、気持ちは、基本的に外から変えられません。本人ですら、思うようにコントロールできないのが感情です。

むしろ大切なのは、「気持ち」ではなく「行動」を少しずつ変えていくというアプローチです。

これは心理学の基本的な考え方でもあります。
認知行動療法という手法でも、「行動を変えることが先」「気持ちはあとから変わってくる」と考えます。

【事例】まったく外に出られなかった子どもの変化

ある中学1年生の男の子。
小学校高学年の頃から教室に入れず、家庭内でもゲーム漬けの日々。中学に進学したタイミングで完全な不登校になりました。

親御さんは「そのうち落ち着くかも」と思い、半年ほどそっとしていたそうです。ですが、状況は悪化するばかり。昼夜逆転が定着し、口数も減っていきました。

行動の変化は「まず家の前を3分だけ散歩すること」から始めました。時間は夕方。人目が少ない時間帯を選びました。

最初は「絶対に無理」と強く拒否されましたが、お母さんが買い物に行くついでに、玄関までだけ一緒に出ることを目標にしました。何日もかけて、ようやく玄関先に出られるようになり、やがて家の周囲を歩けるようになっていきました。

この子は、「散歩ができるようになったから学校に行けるようになった」わけではありません。
ただ、「自分にもできることがある」「外に出るのは思ったほど怖くなかった」という経験を積み重ねたことが、本人の無理の枠を少しずつ緩めていったのです。

勉強も、まず「できる感覚」から取り戻す

「勉強をまったくしないままで大丈夫なのか」と心配する親御さんも多いです。
たしかに、長期間まったく勉強していないと、学力的な不安は出てきます。

ただしここでも、「気持ちが戻ってから」「やる気が出たら始めよう」としても、たいていうまくいきません。

なぜなら、「できない」「遅れている」と思っているからこそ、やりたくないのです。
つまり、やる気がないのではなく、やる気を持てるほどの自信がないのです。

こんな時には、勉強を「再開」させるのではなく、「新しく始める」感覚で関わることが大切です。

学校に追いつくためではなく、進学系ではない塾で勉強を試してみる、親子で一緒に市販の問題集を問いてみる。
これが、次の一歩につながります。

「学校に戻りたい」は、行動のあとに生まれる

学校に戻る気持ちが出てくるのをただ待つことは、先述の通り限界があります。
学校という存在に距離を置き続けた状態では、その距離がますます広がってしまうからです。

そこで有効なのが、「学校にまつわる関係や環境」に、少しだけ触れる機会を作ることです。
たとえば──

  • 先生と電話で1分だけ話す
  • 教科書をただ読んでみる
  • スクールカウンセラーと雑談する

これだけでも、学校という場所が完全に切り離された世界ではなくなるのです。
そうした関わりを積み重ねる中で、「少しずつ戻ってみようかな」という気持ちが、本人の中から生まれてくることがあります。

もちろん、うまくいかない日もあるでしょう。後戻りすることもあります。
でも、「行きたいと思わせること」を目標にするのではなく、「その気持ちが育つ土壌を整えること」に意識を向けると、関わり方も自然と変わっていきます。

「変わらない」と見えるときに、実は変化は始まっている

子どもの状態が長く停滞しているように見えると、「結局、何も変わっていない」と感じてしまうことがあります。
しかし、心理的な変化というのは、目に見える形で表れるよりも前に、内側でじわじわと進んでいるものです。

たとえば、以下のような変化は、一見ささいですが、重要なサインです。

  • 口数は増えていないけれど、怒る回数が減ってきた
  • ゲームをしていても、以前よりリアクションが穏やかになってきた
  • 部屋から出る頻度は少ないが、出てくる時間が以前より早くなった

こういった小さな兆しに気づけると、親としての関わり方も変わっていきます。
「変わったかどうか」ではなく、「どんな動きが芽生えているか」に目を向けてみてください。

成長は「階段型」ではなく「スパイラル型」

私たちが抱きがちな誤解のひとつに、「子どもはステップを踏んで成長していくもの」というイメージがあります。
たとえば──

  • 部屋から出る
  • 外に出る
  • 勉強を始める
  • 学校に戻る

このような段階的な成功ルートを無意識に期待してしまいます。
ですが、実際の成長は、階段のように直線的ではありません

昨日はうまくいったけれど、今日はまた部屋にこもってしまった。
外に出られたと思ったら、次の日は怒り出してしまった。
これが普通です。

それは「後退」ではなく、成長に伴う自然な波です。
スパイラル型にじわじわと広がっていくのが、心の成長の本当の姿です。

だからこそ、「前より一段上がっている」という捉え方ができると、関わる側の気持ちも楽になります。

「無理しなくていい」と伝えるだけでは、何も変わらない

ここで、よく聞かれるフレーズに触れておきたいと思います。

「無理しなくていいよ」
「あなたのペースでいいよ」

この言葉自体は決して悪いものではありません。
ただし、それが繰り返されるだけだと、子どもにとっては何もしなくていいんだというメッセージになってしまうことがあります

これはとても重要なポイントです。
子どもは繊細です。親の言葉を敏感に読み取っています。

  • 本当は何かを期待してるんじゃないか
  • 何もしないと心配されるから、期待に応えるフリをしないと…

こうして、本音では動きたくないのに、無理して動こうとしてまた傷つく、という悪循環に陥ることもあります。

だからこそ、「無理しなくていい」と伝えるだけでなく、そのうえで具体的な「提案」や「誘いかけ」もセットにすることが大切です

「提案」は、小さく、選べる形で

提案をするときは、選択肢を与える形が有効です。
たとえば、こんなふうに声をかけてみてください。

  • 「今日はちょっとだけ近くの公園に行こうと思ってるけど、一緒に行く? それとも、車に乗るだけにする?」
  • 「明日、スーパーに行こうと思うけど、おやつを選ぶ係をしてくれる? それか、レジだけ手伝ってくれる?」
  • 「このアニメ、○○が好きそうだから録画したんだけど、一緒に観る? 後でひとりで観る?」

このように、「やる/やらない」ではなく、「どっちならやりやすいか」という問い方をすると、子どもが自分の意思で選びやすくなります。

これも立派な行動の変化です。

子どもを変える前に、「家庭の空気」を整える

忘れてはいけないのが、子どもは「家の中の空気」に非常に敏感だということです。

親同士の関係、きょうだいとの距離感、家の中で交わされる会話。
そのすべてが、子どもの状態に影響を与えます。

とくに、不登校が長期化してくると、家の中に「焦り」「緊張」「イライラ」が静かに蓄積されていきます。
親が一生懸命になればなるほど、「なんとかしなきゃ」「このままじゃだめだ」と気持ちが張り詰め、家全体の空気が硬くなってしまうのです。

こうしたとき、子どもは言葉にしなくても、その空気を感じ取っています。
だからこそ、まずは親自身が、ゆるむことが何より大切です。

「できていないこと」ではなく、「できていること」を見つめる

子どもが動けないとき、多くの親は「どうすれば動けるようになるか」に意識を集中させてしまいます。
でも、視点を変えて、「今、できていること」を見つけてみてください。

  • ご飯はしっかり食べている
  • ペットの世話は欠かさない
  • ゲームでは友だちとやり取りしている
  • お風呂は毎日入っている

「そんなの普通じゃないか」と思われるかもしれません。
でも、それは普通ではなく、本人なりに頑張って維持している行動です。

私たちはつい、「できていないところ」に目を向けがちです。
でも、「できていること」に意識を向けるだけで、親の声かけや表情が変わります。
それが、子どもの自己肯定感を下支えすることにつながっていきます。

最後に──変化を焦らず、関係を絶やさず

ここまで、「気持ちを変えようとするのではなく、行動を少しずつ変える」ことの大切さをお伝えしてきました。
もう一度、まとめとして整理します。

  • 学校を強く拒絶する子どもは、「無理」と本気で感じている
  • 気持ちを変えさせようとするのではなく、行動の変化を試みる
  • 外出や勉強は、気持ちが戻ってからではなく、「やってみる」から始まる
  • 提案は小さく、選べるように
  • 変化はスパイラル型。波があることは自然
  • 子どもにとってのできていることを見つけていく
  • 家庭の空気が、子どもの安心の土台になる

このアプローチに魔法のような即効性はありません。
時間もかかります。地味で、目立たない過程が続きます。

でも、だからこそ意味があります。

地中にゆっくりと根を張るように。
芽が出るまで時間がかかる植物のように。

そのゆるやかなプロセスを信じて、関係を保ち続けることが、
最終的には「子どもが自分で動き出す力」へとつながっていきます。

ご家庭の状況によって、最適な関わり方は異なります。
ですが、「気持ちではなく、行動から」という考え方は、多くの子どもにとって、無理が少なく、確実に変化を生みやすいアプローチです。

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