不登校の子どもに、ご褒美を与える際の注意

こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
今日は「不登校の子どもに、ご褒美を与える際の注意」について書いてみたいと思います。

不登校の状態が長く続くと、親としては少しでも前向きなきっかけをつくれないかと、何か「目標」を立てたくなることがあります。
その一つの方法として、「ご褒美」を提示する場面も少なくありません。

たとえば、

「1週間学校に行けたら、新しいゲームを買おうか」
「次に登校できたら、好きなレストランに行こう」

といったような言葉がけです。

このような工夫は、ある種の報酬を使って行動を促すアプローチです。
しかし、その「ご褒美」が、時に逆効果になることもあるという点には注意が必要です。

今回は、「どのようなご褒美が効果的か」「なぜ逆効果になる場合があるのか」について、心理学的な視点から整理してみたいと思います。

目次

「ご褒美」は万能ではない

動機づけには二種類ある

心理学では、行動の動機づけには大きく分けて二種類あるとされています。

一つは外発的動機づけ
これは、「報酬が得られるから」「罰を避けたいから」といった、外部からの刺激によって行動する動機です。

もう一つは内発的動機づけ
こちらは、「やってみたいから」「自分にとって意味があるから」という、自分の内側から湧き上がる理由によるものです。

ご褒美は、外発的動機づけです。
つまり、「登校すれば何かがもらえる」という構図です。

この構図そのものは、悪いものではありません。
特に、最初の一歩がなかなか踏み出せないときの“起動力”として、ご褒美が役立つ場面もあります。

ただし、使い方を誤ると、子どもの中にある「自分でやりたい」という気持ちを損ねてしまうことがあります。

ご褒美でしか動けなくなるリスク

あるお母さんから、こんな相談を受けたことがあります。

「最初は、1日行けたら500円というルールを作ったんです。
でも、だんだん“今日はもらえる日?”としか言わなくなってしまって……」

これは、「報酬」が行動の目的になってしまった例です。

学校に行くこと自体ではなく、“お金がもらえるから”行くという構造ができてしまうと、その報酬がなければ動けなくなります。

さらに困るのが、報酬が“当たり前”になると、以前の額では満足しなくなってしまうことです。
こうなると、報酬を上乗せし続けなければならなくなり、親子ともに疲弊してしまいます。

ご褒美によって一時的に動けるようになることと、そこから安定した登校が継続することとは、まったく別の話なのです。

良いご褒美、悪いご褒美

「一緒にやる体験型」は有効

それでも、「何かきっかけになるなら、ご褒美を使いたい」と考える方もいらっしゃると思います。

そのとき、私がよく提案するのは、「物ではなく、体験を報酬にする」ということです。

たとえば、
「久しぶりに〇〇に行ってみようか」
「○○を一緒に作ってみようか」
といった、親子で過ごすことを前提とした“体験型のご褒美”です。

このようなご褒美のメリットは二つあります。

一つ目は、子どもに「関係性」が報酬として伝わることです。
つまり、「学校に行けたことを一緒に喜んでくれる人がいる」と感じられる体験になるのです。

二つ目は、報酬が「一回きりの出来事」として完結しやすく、継続的なインフレが起きにくい点です。

例えば、「次に登校できたら一緒に遊園地に行こう」は、比較的適切なご褒美の提示と言えるでしょう。
これは、「特別な体験」が「頑張れたこと」と結びつきやすく、子どもの中にも良い記憶として残りやすいです。

「日常化・金銭化」は避けたい

その反面、「毎週登校できたら1,000円」「3日間行けたらアプリに課金OK」などのように、金銭で日常的に行動を管理するような形になると、効果は薄れるどころか、逆効果になることもあります。

この手法には、次のようなリスクがあります。

  • 報酬の価値が減少する(“またこれか”になる)
  • 登校が「労働」や「義務」として扱われてしまう
  • 本人の内発的な動機を潰してしまう

「じゃあ、行かなかったら何ももらえないんだ」と思わせてしまうと、むしろ自己肯定感を下げる結果にもなりかねません。

ご褒美は、使い方次第で“支援”にも“抑圧”にもなるという点は、非常に重要なポイントです。

ご褒美が持つ「意味づけ」を考える

子どもにとっての「ご褒美」の意味

親がご褒美を提案する背景には、「少しでも希望を持ってほしい」「動き出すきっかけになれば」という願いがあります。

しかし、子どもはそれをどう受け取っているでしょうか。

「学校に行けない自分は、そのぶん何かで埋め合わせをしないといけないのか」
「行けるようになったら認められる。今は認められていない」

このような認知が生まれてしまうと、ご褒美はプレッシャーや取引のような感覚になり、逆に負担となってしまうことがあります。

大切なのは、ご褒美の「内容」よりも、それを通じて「どういうメッセージを届けるか」です。

たとえば「行けたらご褒美ね」ではなく、
「行けたら一緒に〇〇しよう。それを一緒に楽しみにしていたい」
というように、“一緒に嬉しさを共有したい”という姿勢が伝わると、子どもも報酬ではなく“関係”に焦点を合わせやすくなります。

「失敗しても大丈夫」が前提になる

報酬型の関わりで最も避けたいのは、「できなかった=罰」になる構図です。

たとえば、
「1週間行けたら〇〇する。行けなかったら無しね」
という設定では、できなかった場合に“失望”や“失格”の感覚を子どもに与えてしまう可能性があります。

代わりに、次のような柔らかい設計ができます。

「1週間行けたら嬉しいけど、難しかったらまた別のタイミングを考えよう」
「今回は見送りになっちゃったけど、また楽しみにできる日を作ろう」

このように、ご褒美の提案に“やり直し”や“継続”の要素を含めることで、子どものプレッシャーを減らしつつ、前向きな選択肢として提示できます。

ご褒美とは、「成功した自分」を報いるものではなく、「やってみようと思った自分」との関係性をつなぐための道具であるべきだと、私は考えています。

本当の「動機」は、内側からしか生まれない

ご褒美で心は動かせない

しかしながら、どれだけ丁寧に設定されたご褒美でも、それが子どもの心に火を灯すことはできません。
できるのは、「動き出したい」という気持ちに寄り添うことだけです。

登校とは、「心の準備が整ったときに、自分で決めてする行為」です。
外から引っ張られるように行っても、それは継続的な登校にはつながりません。

それよりも大切なのは、「行ってみようかな」と子ども自身が思える瞬間を大人が壊さずに待ち、応援できるかどうかです。

そのために、ご褒美は「燃料」ではなく「景色」のように扱ったほうがうまくいきます。
つまり、「あの景色も見られたらいいね」という使い方です。

自尊感情を回復するご褒美にする

もう一つ、心理的に非常に大切なポイントがあります。
それは、ご褒美の目的を「自尊感情の回復」に置くということです。

学校に行けない日が続くと、子どもの中には「自分はできない人間だ」という感覚が少しずつ沈殿していきます。

そんなとき、登校できたことに対して、「その行動がどれほど自分にとって大きな挑戦だったか」を言語化して伝えることが、ご褒美よりもはるかに大きな意味を持ちます。

たとえば、

「昨日、あれだけ不安そうだったけど、今日は自分から制服に着替えてたね」
「朝はすごく緊張してたのに、学校の玄関までちゃんと行けたね」

こうしたフィードバックは、子どもが自分を「できた人」として再認識する助けになります。

その上で、さらに「じゃあ週末に少し楽しいことしようか」とつなげると、ご褒美が“行動の評価”ではなく、“挑戦の共有”として機能します。

「成果」よりも「きっかけ」になるご褒美を

ご褒美の形が問いかけるのは、大人の意図

どんなご褒美を選ぶかは、親の価値観や期待の現れでもあります。

「これで行けるようになってほしい」という思いが強くなりすぎると、それは子どもへの“条件付きの愛情”として伝わってしまうことがあります。

一方で、「あなたが少しでも楽に動けるなら」という気持ちでご褒美を提示したとき、その温度感は子どもにもしっかり届きます。

だからこそ、最初に親が確認しておくべきは、

「私はこのご褒美で何を伝えたいのか?」
「ご褒美を通じて、どんな関係を作りたいのか?」

という、自分自身の立ち位置です。

ご褒美の選び方は、「子どもにどうなってほしいか」だけではなく、「大人がどう関わろうとしているか」の問いかけでもあります。

まとめ:報酬ではなく、関係を育てるご褒美へ

この記事では、「不登校の子どもにご褒美を設定する際の注意点」について、心理学的な観点から考えてきました。

・ご褒美は、外発的動機づけの一種であり、効果の限界がある
・金銭的なご褒美や定期的報酬は、依存や逆効果のリスクを高める
・「体験」や「関係性」を報酬とするご褒美は、比較的安全かつ有効
・ご褒美は、子ども自身の心の動きに添える“補助線”であってほしい
・何よりも、「できたことを一緒に喜び合う姿勢」が重要

ご褒美は、“関係性を育てる道具”として活用できるとき、はじめて意味を持ちます。
そしてそれは、単に行動を変えるための「操作」ではなく、子どもの中にある回復の力を信じて、「きっかけの一つ」として提示されるべきです。

子どもの行動の裏には、たくさんの気持ちと迷いがあります。
だからこそ、「その迷いごと一緒に持てるような関わり方」を目指して、ご褒美という手段もうまく使っていけたらと思います。

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