引きこもりの実態と不登校との関係


目次


1. 引きこもりの定義・実数

不登校や引きこもりの問題に取り組む児童心理司の藤原と申します。私は、不登校予防や再登校支援を行うToCo株式会社の顧問を務めております。本稿では、「引きこもりの実態と不登校との関係」について、小中学生の不登校のお子様を持つ保護者の皆様に向けて、実態を深掘りしつつ、具体的な対応策をお伝えいたします。

まず、「引きこもり」という言葉について改めて定義を確認してみます。
引きこもりとは、社会的参加を長期間にわたり回避し、家庭内に閉じこもって生活する状態を指します。この「社会的参加」とは、学校への登校や就労、地域社会での活動、友人との交流など、他者と積極的に関わる行動を意味します。内閣府の定義では、6ヶ月以上にわたって家庭にとどまり続け、必要最低限の外出以外の社会参加をしていない状態が「引きこもり」とされます。

この「6ヶ月以上」という期間は、単なる一時的な疲れや生活習慣の乱れとは異なり、慢性的かつ固定化しやすい問題であることを示しています。
特に、学校に行けない日が続くことで「不登校」となり、さらに引きこもりへと状態が移行してしまうことがあります。この点において、不登校と引きこもりは密接に関連しています。

引きこもりの実態

では、実際にどのくらいの子どもたちが引きこもりの状態にあるのでしょうか?内閣府の「子ども・若者の意識と生活に関する調査」(2023年度)によると、引きこもりの状態にある若者の年齢層は若年化の傾向にあります。
注目すべきは、14歳以下が12.4%、15〜19歳が17.3%という数字です。この結果は、義務教育を受けるべき小中学生の段階から、すでに引きこもり状態に陥っている子どもが少なくないことを示しています。

引きこもりになった年齢(内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査-ひきこもりに関する状況」2023年度)
引きこもりの期間(内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査-ひきこもりに関する状況」2023年度)

また、引きこもり状態にある人たちの家庭内での活動についても、深刻なデータが出ています。内閣府の調査によれば「自宅でよくしていること」の回答でインターネットを選んだ人は78.5%、ゲームを選んだ人が66.7%(複数回答)でした。これらの活動自体が問題というわけではありませんが、コミュニケーションがデジタル空間に偏り、リアルな対人関係や社会活動が疎かになることは、引きこもり状態を固定化させてしまうリスクがあります。

さらに、引きこもり状態の子どもたちの過半数が「半年の間、家族以外と会話をしていない」という実態も見逃せません。人と話す機会が少ないと、自然と会話力や社会性が低下してしまいます。また、孤立感や疎外感が募り、外部の世界に対する不安が増大します。これは、子どもたちが「自分はこのままで良いのだろうか」「外に出たいけれど、どうすればいいのか分からない」と感じ、ますます引きこもりから抜け出せなくなる悪循環を引き起こします。

2. 引きこもりのきっかけ

引きこもりの状態にある子どもたちの多くは社会的なつながりを持たず、家庭内での生活の大半をインターネットやゲームなど部屋での活動に費やしています。では、なぜ子どもは外の世界と距離を置くようになるのでしょうか。その背景には、学校関係や人間関係の問題が深く関わっています。

内閣府の調査によると、引きこもりのきっかけとして「学校関係」と「人間関係」が全体の35%を占めています。その中でも「不登校」が全体の18.5%を占めており、学校生活に適応できなかったことが引きこもりの要因となるケースが多いことが分かります。このデータをもとに、具体的にどのような出来事が子どもを引きこもりに追い込むのかを詳しく見ていきましょう。

引きこもりの最も大きな理由(内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査-ひきこもりに関する状況」2023年度)

学校が引きこもりのきっかけになる理由

学校は、子どもが社会性を学び、友人関係を築く場であると同時に、さまざまなストレスが生じる場でもあります。学校生活の中で発生する問題のうち、引きこもりのきっかけとなりやすいものを以下に挙げます。

① いじめや人間関係のトラブル

いじめは、不登校や引きこもりを引き起こす大きな要因の一つです。特にSNSの普及により、学校外でも誹謗中傷や仲間外れが発生しやすくなっています。いじめを受けた子どもは学校に行くことに強い恐怖心を抱き、次第に登校を避けるようになります。そして、その状態が続くと外出すること自体が怖くなり、家の中に閉じこもるようになるのです。

また、いじめがなくても人間関係の不和がストレスとなり学校に行きづらくなることがあります。友人グループの中で孤立したり、先生との相性が悪かったりすると、学校が「居場所のない場所」になってしまい、次第に足が遠のいてしまうのです。

② 学業の遅れと自信の喪失

授業についていけない、成績が思うように伸びない、といった学業面のストレスも、不登校や引きこもりの大きな要因となります。特に周囲の友達と比較される環境では、学習が遅れてしまった子どもは「どうせ頑張っても無理だ」と感じ、学ぶ意欲を失ってしまうことがあります。

一度「分からない」という状態が続くと授業に出るのが苦痛になり、学校に行くこと自体を避けるようになります。その結果、不登校が長期化し、やがて引きこもりへと移行してしまうのです。

③ 学校のルールや雰囲気が合わない

学校の規則が厳しすぎたり、先生の指導方法が合わなかったりすると、子どもは強いストレスを感じます。例えば校則が厳しく、少しの違反でも厳しく指導される環境では、萎縮してしまい登校が難しくなることがあります。また、集団生活に馴染めない子どもにとっては、学校という場そのものが苦痛となることもあります。

家庭環境が引きこもりのきっかけになる場合

学校関係の問題が引きこもりの直接的なきっかけとなることが多い一方で、家庭環境が間接的に影響を及ぼすケースもあります。例えば、以下のような家庭環境では、引きこもりが助長される可能性があります。

① 家庭内の不和や過干渉

家庭内での親子関係が良好でない場合、子どもは安心できる居場所を失い、社会との関わりを避けるようになります。例えば親が過度に厳しく接したり、逆に無関心であったりすると、子どもは自己肯定感を低下させ、引きこもる傾向が強くなります。また親が過干渉であったり、進路や学業に対して過度に期待をかけたりすると、子どもはプレッシャーを感じて逃げ場を求めて家に閉じこもることもあります。

② 生活習慣の乱れ

夜更かしや昼夜逆転の生活が続くと、学校に行くリズムが崩れて不登校や引きこもりに発展することがあります。特に、インターネットやゲームの過剰利用が習慣化すると昼夜逆転が固定化し、社会生活との接点を持つのが難しくなります。

3. 不登校と引きこもりの共通点

不登校が長期化すると子どもが家に閉じこもることが増え、引きこもりへと移行する可能性が高まります。この「不登校」と「引きこもり」は連続した状態でもあり、共通点も持っています。

不登校と引きこもりに共通する心理的特徴

不登校と引きこもりにある子どもたちは、共通して以下のような心理状態を抱えています。

① 外の世界に対する不安と恐怖

不登校の子どもは、多くの場合「学校に行くのが怖い」と感じています。その理由は、いじめや人間関係のトラブル、学業不振、先生との関係悪化などさまざまです。最初は「行きたくない」「ちょっと休みたい」という軽い気持ちで休むことが多いのですが、それが続くうちに「学校に行くのが怖い」という気持ちが強くなっていきます。

この状態が続くと、次第に「学校に行かない理由」が変化します。最初は「嫌なことがあるから行きたくない」と思っていたものが、次第に「学校に行かない期間が長くなりすぎて、今さら行けない」という気持ちに変わっていくのです。

そして、不登校が長期化すると、学校だけでなく、外の世界全体に対して恐怖を感じるようになり、引きこもりへと移行してしまうことがあります。

② 自己肯定感の低下

不登校や引きこもりの子どもは、自分自身に対する評価が低くなりがちです。「学校に行けない自分はダメだ」「みんなと違う自分はおかしい」といった考えが強まり、自己肯定感がどんどん下がっていきます。

特に、学校に行かない期間が長くなると、子どもは「周りのみんなは普通に学校に行っているのに、自分だけできない」と感じ、劣等感を抱くようになります。こうした感情は、外の世界との接触をさらに避ける原因となり、引きこもりの状態を強化してしまいます。

③ 時間の感覚が薄れる

不登校や引きこもりの子どもは、1日のリズムが乱れやすく、昼夜逆転の生活になることが少なくありません。特に、インターネットやゲームの利用が習慣化すると、気づかないうちに昼夜が逆転し、生活リズムが大きく崩れてしまいます。

自宅でよくしていること(内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査-ひきこもりに関する状況」2023年度)

このような生活を続けるうちに、「今日も学校に行けなかった」「今週も外に出なかった」といった感覚が薄れ、1日が1週間、1週間が1ヶ月、1ヶ月が1年、1年が10年とあっという間に過ぎてしまうことがあります。こうして時間の感覚が曖昧になり、「何かを始めよう」という気持ちを持ちにくくなってしまうのです。

不登校から引きこもりへの移行

不登校の子どもが必ずしも引きこもりになるわけではありませんが、多くの場合、不登校の状態が長引くと引きこもりへと移行してしまうリスクが高くなります。そのプロセスを簡単に説明すると、以下のような段階を踏むことが多いです。

  1. 学校に行きたくない理由がある(いじめ、勉強の遅れ、先生とのトラブルなど)
  2. 休みがちになる(最初は数日、次第に1週間、1ヶ月と増えていく)
  3. 「学校に行かないこと」が習慣化し、外出する機会が減る
  4. 家庭内での活動が中心になり、インターネットやゲームに依存し始める
  5. 社会との接点がなくなり、引きこもり状態へと移行する

このプロセスの中で重要なのは、早い段階で適切な対応を取ることです。特に、学校を長期間休むようになった時点で、保護者が「様子を見よう」と放置してしまうと、次第に外の世界と距離ができてしまい、引きこもりへと移行しやすくなります。

不登校と引きこもりの違いとは?

ここまで不登校と引きこもりの共通点について述べてきましたが、両者にはいくつかの違いもあります。

  • 不登校の段階では、外出する機会がまだ残っている(買い物や友達との遊びなど)
  • 引きこもりの段階では、家族以外との接触がほぼなくなる
  • 不登校の子どもは「いつかは学校に戻りたい」と考えていることが多いが、引きこもりの子どもは「どうやって戻ればいいか分からない」と感じている

つまり、不登校の段階で適切な介入を行うことで、引きこもりへの移行を防ぐことができるのです。

4. 見守るだけでは変わらない理由

ここまで、不登校と引きこもりには共通点が多く、不登校が長期化することで引きこもりへと移行する可能性が高まることを説明しました。しかし、ここで重要なのは「子ども自身がこの状態を望んでいるわけではない」という点です。

確かに、お子様が「学校には行きたくない」と言うことはあるかもしれません。しかし、それは「何もしたくない」「ずっとこのままでいたい」という意味ではありません。むしろ、「どうすればいいか分からない」「戻るきっかけがつかめない」という不安や迷いを抱えていることがほとんどなのです。

このような状態にある子どもに対し、「無理に学校へ行かせるのはよくないから、本人が動き出すまで待とう」と考える保護者の方も多いでしょう。しかし、「見守るだけ」では多くの場合、状況は変わりません。むしろ、時間が経つほどに社会復帰のハードルは上がり、引きこもりの状態が固定化してしまう危険性があるのです。

時間が経つほど抜け出しにくくなる理由

「今はまだ休む時期」「そのうち自分から動き出すだろう」と考え、何もアクションを起こさずにいると、お子様は次のような状態に陥る可能性が高まります。

① 生活リズムの乱れが固定化する

不登校や引きこもりの状態が続くと、昼夜逆転の生活になることがよくあります。特に、インターネットやゲームに依存するようになると、夜遅くまで活動し、昼間に眠るというリズムが定着してしまうのです。

この状態が続くと、朝起きて学校へ行く生活がどんどん遠ざかり、「学校に戻る」という選択肢が現実味を失ってしまいます。最初は「少し休みたい」という気持ちだったとしても、半年、1年と時間が経つうちに、「どうやって戻ればいいか分からない」「今さら学校に行ってもついていけない」という不安が強くなり、ますます動き出せなくなってしまうのです。

② 自己肯定感が低下する

学校に行かない期間が長くなると、子どもは「自分は普通のことができない」と感じるようになります。特に、周囲の友達が学校に通い、勉強や部活動に励んでいるのを見たり聞いたりすると、劣等感が強まり、「自分だけが取り残されている」という意識が芽生えてしまいます。

このような状態になると、「学校に戻ること」そのものがプレッシャーとなり、「行きたいけど行けない」「何をするにも自信が持てない」という悪循環に陥ります。結果として、「今さら戻るのは無理だ」「もう自分の人生は終わりだ」と考えるようになり、積極的に行動を起こす意欲を失ってしまうのです。

③ 家庭が「居心地の良い避難所」になる

子どもにとって、家庭は本来安心できる場所であるべきですが、長期間引きこもっていると、「家庭の外=危険、家庭の中=安全」という極端な意識が生まれることがあります。

たとえば、「家にいれば何も嫌なことが起こらない」「親は何も言わずに受け入れてくれる」といった環境が続くと、外に出ることの必要性を感じなくなります。こうして、「外の世界に出ること」がますます怖くなり、引きこもり状態が強化されてしまうのです。

「見守ること」と「放置すること」は違う

ここで大切なのは、「見守ること」と「放置すること」の違いを理解することです。

確かに、不登校や引きこもりの子どもに対して、頭ごなしに「学校に行きなさい!」と強制するのは逆効果になりかねません。しかし、何のアクションも起こさずにいると、お子様は「このままでいいのかな?」という迷いすら抱かなくなってしまいます。

適切な見守りとは、お子様の状況を理解しつつ、「どうすれば動き出せるか」を一緒に考え、具体的なサポートを提供することです。そして、そのためには不登校のメカニズムを知って、適切な対処を行うことが重要になります。

注意しなければいけないことは、「不登校のきっかけ」と「不登校が続いてしまう原因」が異なるケースが多い点です。例えば学校の人間関係がきっかけで登校できなくなったとしても、1ヶ月経っても不登校のままである要因は別にある、という点です。不登校が引きこもりになる前に、子どもへの適切な支援を行っていきましょう。


ToCo(トーコ)について

私たちToCoは、お子様が自ら不登校から脱却するための支援を行っており、2025年2月時点で700名以上のお子様が平均3週間で再登校しています。

学校や行政機関による対策が進む中、不登校数は年々増え続けています。私たちは、不登校が続いてしまう要因を診断し、児童心理司や精神科医の専門チームが再登校までサポートします。
不登校でお悩みの方はぜひ検討ください。

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