理由を付けて行動しない子どもへの接し方

こんにちは。再登校支援トーコの竹宮と申します。臨床心理士として10年以上、不登校のご家庭の支援を行ってまいりました。これまで多くのお子さんや保護者の方と接する中で、対応の難しい壁があることに気づきました。

それは、お子さんから発せられる「学校に行く意味なんてあるの?」という問いかけです。この言葉を投げかけられたとき、多くの親御様は言葉に詰まってしまいます。あるいは、必死になって「将来のためだよ」と説得を試みるかもしれません。

今日は、理由を付けて行動しないお子さんへの接し方について、専門的な視点からお話ししたいと思います。なぜお子さんが「意味」にこだわるのか、そして私たちはその言葉をどう受け止めるべきなのでしょうか。

目次

「意味」の議論が、なぜ解決から遠ざかるのか

価値観の議論には終わりがない

お子さんが「学校に行く意味が分からない」と言い出したとき、私たちはつい「意味」を証明しようとしてしまいます。良い大学に行くため、社会性を身につけるため、あるいは将来の選択肢を広げるためといった理由を並べるでしょう。

しかし、これらはあくまで一つの価値観に過ぎません。お子さん側からすれば「学歴がなくても成功している人はいる」「ネットがあれば社会性は身につく」といった反論がいくらでも可能です。

このように「意味があるかないか」という議論は、答えのない哲学的な論争に発展してしまいます。お互いの正義をぶつけ合う形になり、平行線のまま時間だけが過ぎていくのです。

そもそもの人が生きる意味とは

そもそも、より根本的な視点に立ってみましょう。児童心理学や哲学の領域でも議論されますが、人の一生そのものに、最初から明確な意味が備わっているわけではありません。

私たちは何らかの意味を持って生まれてくるのではなく、生きていく過程で自分なりの意味を見出していく存在です。これは学校教育についても同じことが言えます。

「行く意味があるから行く」のではなく、「行った結果として意味が生まれる」という順番が本来の姿です。登校する前にその意味を完璧に理解させようとすることは、実は非常に困難な作業なのです。

「意味論」は行動しないための防衛反応

そして、お子さんが「意味」を強調するとき、それは純粋な疑問ではなく現状を維持するための防衛反応である場合があります。これは心理学で「合理化」と呼ばれる心の働きです。

「意味が感じられないから行かない」という理屈を作ることで、自分が動けないことへの不安や罪悪感を和らげようとしているのです。

この状態のお子さんに正論をぶつけても、さらに強固な「行かない理由」を積み上げさせる結果になりかねません。

例えば、新しい習い事を始める前に「それをやって将来何の役に立つの?」と細かく分析して動かないお子さんを想像してみてください。彼らは失敗や変化を恐れるあまり、動かない自分を正当化する論理を探している状態にあるのです。

よくある助言の落とし穴

「本人が納得するまで待つ」という選択の危うさ

不登校の支援において、よく「本人が納得するまで待ちましょう」というアドバイスがなされます。一見するとお子さんの主体性を尊重しているように聞こえますが、ここには大きなリスクが隠されています。

先ほど申し上げた通り、「意味」や「納得」は行動の後に付いてくるものです。動いていない状態で頭の中だけで納得を得ようとすれば、思考はどんどんネガティブな方向へ自己強化してしまいます。

何もしていない空白の時間が増えるほど、お子さんは「自分は何もしていない」という事実に苦しむようになります。その苦しみから逃れるために、さらに強力な「学校に行かない正当な理由」をひねり出す悪循環に陥るのです。

「好きなことを伸ばせばいい」という言葉の重圧

「学校に行かなくても、何か好きなことに没頭できればいい」という意見もよく耳にします。しかし、これは多くのお子さんにとって、非常にハードルの高い要求になり得ます。

まだ何者でもない子どもが、学校という社会的な枠組みを外れた状態で、自力で「意味のある活動」を見つけ出すのは至難の業です。多くの場合は、何をしていいか分からず、ただスマートフォンやゲームで時間を潰す自分に嫌悪感を抱くようになります。

「自由にしていいよ」と言われることが、かえってお子さんを「何かしなければならないのに、何もできない自分」という深い葛藤の中に突き落としてしまうこともあるのです。

登校の「理由」と「意味」を切り離して考える

解決すべきは「苦痛の要因」である

ここで重要なのは、お子さんが訴える「行きたくない理由」の中身を精査することです。私は「意味論」で語ることは避けるべきだと言いましたが、それは「苦痛を無視していい」ということではありません。

例えば、いじめがある、先生との関係が悪化している、あるいは学習障害があって授業が全く理解できないといった具体的な要因がある場合は、話が別です。これは「登校が難しい物理的・心理的な障壁」であり、真っ先に対策を講じるべき課題となります。

これを放置したまま「意味を問うな、とにかく動け」と強いるのは傷を深めます。まずは、お子さんの中にあるトゲを取り除く作業を一緒に行う必要があります。

「理由探し」と「問題解決」の違い

お子さんが「学校のここが嫌だ」と言ったとき、それが具体的な問題解決を求めているのか、それとも動かないための理由探しなのかを見極める必要があります。

具体的な問題であれば、学校と交渉したり、環境を調整したりすることで解決の糸口が見えます。一方で、解決策を提示しても「でも、やっぱり意味がないし」と論点がすり替わる場合は、意味論のループに入っているサインです。

このようなとき、私たちは「そうだね、意味を感じられないのは辛いね」と共感を示しつつも、議論の土俵に乗りすぎない姿勢が求められます。

行動を止めないための環境づくり

心理学では作業興奮という言葉があります。これは、最初はやる気がなくても、実際に手を動かし始めると脳が活性化して、後から意欲が湧いてくる現象を指します。

お子さんの登校問題もこれに似ています。「行きたい」という気持ちが100%になってから動くのではなく、まずは1%でも動くことで、その後の「意味」が作られていくのです。

そのためには、ご家庭の中で「動くこと」へのハードルを極限まで下げてあげることが大切です。完璧な登校を目指すのではなく、まずは玄関を出る、あるいは決まった時間に服を着替えるといった、小さな行動の継続を重視してください。

認知の歪みと後付けの納得感

認知の歪みとは

不登校が長期化しているお子さんの多くは、「認知の歪み」という状態にあります。これは、物事の捉え方が極端に偏ってしまう心の癖のことです。

「学校に行かなければ人生は終わりだ」という極端な不安と、「学校なんて行っても全く無駄だ」という極端な否定の間で、心が激しく揺れ動いています。この極端な思考が、お子さんを一歩も動けなくさせている正体です。

このような状態では、論理的な説得はほとんど効果をなしません。むしろ、お子さんの極端な主張を一度受け止め、その上で「世の中にはもっと曖昧で、白黒つけられないことがたくさんある」という感覚を伝えていく必要があります。

納得感は後からやってくる

大人でも、新しい仕事を始めた当初は「なぜ自分はこんなことをしているんだろう」と疑問に思うことがあります。しかし、数ヶ月経って仕事に慣れ、周囲から感謝されるようになると、その仕事に自分なりの意味を見出し始めます。

子どもも全く同じです。学校という場所で、友達とたわいもない会話をしたり、難しかった問題が解けたりする経験を通じて、初めて「来てよかったかもしれない」という微かな納得感が生まれます。

この「後付けの納得感」こそが、心の健康を保つための鍵となります。最初から完璧な答えを求めようとするお子さんに対し、私たちは「答えは後から見つかるものだよ」という新しい視点を提示してあげるべきです。

葛藤を整理し、親としての軸を持つ

お子さんが「意味がない」と訴え続ける姿を見るのは、親御様にとっても非常に苦しいものです。自分の育て方が間違っていたのではないか、このまま引きこもってしまうのではないかと、不安に押しつぶされそうになるでしょう。

しかし、親御様がお子さんと一緒に意味の迷路に迷い込んでしまってはいけません。お子さんが「意味がない」と叫ぶのは、それだけ今が苦しく、自分を守るのに必死だからです。

その言葉の裏にある「本当は動きたいけれど動けなくて怖い」という心に寄り添いながらも、親御さん自身は「学校という社会との接点を維持することは、あなたの人生を豊かにする」という確信を持ち続けてください。

理由を積み上げる深層心理

「知性化」という名の心の防衛反応

また、お子さんが「学校に行く意味」を論理的に、時には大人顔負けの言葉で否定することもあります。これは、自分が抱えている不安や恐怖を直接感じる代わりに、難しい言葉や理屈を使って感情をコントロールしようとする心の働きです。

言い換えると、論理という硬い鎧を着ることで、傷つきやすい自分を守っている状態です。例えば、テストの点数が悪かったお子さんが「今の教育システムは記憶力に偏りすぎていて、真の知性を測っていない」と批判することがあります。

これは点数が悪かった悲しみや焦りから目を逸らし、自分を納得させるための手段なのです。この鎧を無理やり剥がそうと正論で返しても、お子さんはさらに強固な理屈を用意して自分を閉ざしてしまいます。

「二次的利得」が行動を妨げる

不登校の状態が続くと、お子さんにとって「学校に行かないこと」によるメリットが生まれてしまうことがあります。これを二次的利得と言いますが、現状を維持することで得られる安心感や親の注目などを指します。

家にいれば、誰にも評価されず、傷つくリスクもありません。この居心地の良さを守るために、無意識のうちに「行かないための正当な理由」を脳が作り出してしまうのです。

例えば、朝になるとお腹が痛くなるお子さんが、夕方になると元気になるケースがこれに当たります。嘘をついているのではなく、脳が「学校というストレスから逃れるため」に身体症状や理屈を作り出しているのです。

矛盾の中で揺れる親御さんの苦しみ

「子どもの言い分も一理あるけれど、このままではいけない」という葛藤は、親御さんにとって最も辛い部分でしょう。お子さんの言葉に共感したい気持ちと、将来への危機感が心の中で常にぶつかり合っているはずです。

この矛盾を整理するためには、まず「お子さんの感情」と「お子さんの主張」を分けて考える必要があります。主張している内容(学校の意味など)に同意する必要はありませんが、その主張をせざるを得ない「不安な気持ち」には寄り添ってあげてください。

「そうか、そこまで意味を考え込んでしまうほど、今は学校が遠い存在なんだね」と受け止めるだけで十分です。無理に結論を出そうとせず、まずはその葛藤をありのままに眺めることから始めてみましょう。

行動から始めるアプローチ

完璧主義の呪縛を解きほぐす

不登校のお子さんの多くは、実は強い完璧主義の側面を持っています。「行くからには失敗できない」「意味がないことはしてはいけない」という極端な思考が、彼らの足を止めています。

これを解消するには、「意味のないことの価値」を日常生活の中で見せてあげることも有効です。例えば、音楽や読書など生産性とは離れた活動を親自身が楽しむ姿を見せてください。

「役に立つからやる」のではなく「やりたいから、あるいはなんとなくやる」という姿は、お子さんの硬直した思考を和らげます。遊びの中にこそ、後から意味が付いてくる体験が隠されているのです。

スモールステップによる「成功体験」の再構築

意味論に陥っているお子さんは、大きな目標を掲げすぎて動けなくなっています。そのため、意味を問うほどでもない小さな具体的な行動を促すことが重要です。

これを行動活性化と呼び、うつ症状の改善などにも使われる手法ですが、不登校支援においても極めて有効です。

例えば、「学校に行く」という大きな目標ではなく、「決まった時間にパジャマから着替える」といった小さなタスクを設定します。

着替えることに大きな意味はありません。しかし、「決めたことができた」という微かな感覚の積み重ねが、脳に「自分は動ける」という信号を送ります。この信号こそが、後の登校意欲を支える土台となるのです。

「意味」を問わない時間の共有

家庭内で、登校や将来に関する話題を一切出さない時間を作ってみるのも一つの手です。一緒に料理を作ったり、散歩に出かけたりする中で、ただその瞬間の体験を共有してください。

「この卵焼き、うまく焼けたね」といった何気ないやり取りの中に、お子さんは自分の居場所を感じます。学校という社会的な場に戻るためのエネルギーは、こうした「評価されない安心な時間」の中で蓄えられていきます。

意味を問う会話は、往々にしてお子さんを追い詰めます。しかし、共に何かを行う体験は、言葉を超えてお子さんの心を動かす力を持っているのです。

社会との接点の重要性

集団の中でこそ育つ「自己肯定感」

昨今では「学校だけがすべてではない」という言葉をよく耳にしますが、児童心理学の観点からは、同年代の集団との関わりは成長に不可欠です。他者との摩擦や協力、そして時には小さな失敗を経験することで、子どもの自己概念は形作られます。

一人で家にいては、自分を客観的に見る機会が失われてしまいます。鏡のない部屋で自分の顔を整えようとするのと同じで、他者という鏡があって初めて、お子さんは自分の輪郭を認識できるのです。

「意味があるから行く」のではなく、自分を知るために、そして自分を作るために、社会的な場(学校)に関わり続けることには大きな意義があります。

停滞することの真のリスク

子どもにとっての1年間は、大人の10年分にも匹敵するほどの発達的な意味を持ちます。この時期に社会的な刺激から完全に遮断されてしまうことは、単なる学習の遅れ以上の損失を招きかねません。

対人関係のスキルや、ストレスへの耐性、感情のコントロールといった非認知能力は、リアルな場での実践を通じてのみ磨かれます。意味論に逃げ込んで行動を止めることは、これらの成長の機会を放棄することに繋がってしまうのです。

だからこそ、私たちは「意味」という出口のない迷路から、お子さんを「行動」という現実の世界へ連れ戻してあげなければなりません。

子どもが求めている親の姿

お子さんの激しい拒絶や論理的な反論に遭うと、親御様は自信を失い、妥協したくなるかもしれません。しかし、お子さんが求めているのは、自分の言いなりになる親ではなく、自分を正しい方向へ導いてくれる保護者としての親の姿です。

お子さんの「行かない理由」に翻弄されず、毅然とした、かつ温かい態度で接し続けてください。その一貫した姿勢こそが、不安の中にいるお子さんにとっての最大の安心材料となります。

「あなたがどう思おうと、私はあなたの力を信じているし、あなたが社会と繋がっていることを望んでいる」というメッセージを、言葉ではなく態度で示し続けることが大切です。

まとめ

今回の内容を振り返り、大切なポイントを整理してみましょう。

お子さんが放つ「学校に行く意味なんてない」という言葉は、決して本心からの結論ではありません。それは、一歩踏み出すのが怖いという心の叫びであり、同時に「誰かに背中を押してほしい」という無意識のサインでもあります。

意味を議論することを一度横に置き、今日はお子さんと一緒に「今日できる小さなこと」を探してみてください。その一歩がどれほど小さくても、止まっている状態とは決定的な違いがあります。

頭の中でぐるぐる回りながら動けないお子さんにとって、親御様の安心感のある姿勢は、何よりも確かな道しるべとなります。

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