WISC検査との向き合い方
こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
今日は「WISC検査との向き合い方」について、お話ししたいと思います。
WISC(ウィスク)検査という言葉を聞くと、多くの保護者の方は少し緊張されるかもしれません。「うちの子、どんな結果になるんだろう」「何か問題が見つかるかもしれない」といった不安が、心に浮かぶこともあるかと思います。
しかしまず、お伝えしておきたいことがあります。
WISC検査は、子どもを評価するためのものではありません。点数を見て一喜一憂するためのものでもありません。
今日は、この検査の本来の目的と、どのように向き合えばお子さんにとってプラスになるのかを、児童心理学の専門家として、できる限り分かりやすくお伝えします。
目次
- WISC検査とは何か?
- WISC検査はある時点の一側面でしかない
- WISC検査の意味は「特性を知る」こと
- 「うちの子はふつうじゃないのかもしれない」という不安
- 子どもの特性に合わせて、環境を変える
- 数字の向こうにいる子どもに向き合う
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WISC検査とは何か?
医学的な根拠と構成について
まず基本から整理しましょう。
WISC検査とは、「Wechsler Intelligence Scale for Children」の略で、日本語では「児童用ウェクスラー知能検査」と訳されます。6歳から16歳までの子どもを対象にした知能検査で、一般的にはWISC-IV(ウィスク・フォー)というバージョンが多く使われています。
この検査は、単純に「IQ(知能指数)」を測るだけのものではありません。大きく分けて以下の4つの指標から構成されています。
- 言語理解(VCI)
言葉の理解力や、言葉を使って物事を考える力。 - 知覚推理(PRI)
視覚的な情報をもとにして、パターンやルールを見つける力。 - ワーキングメモリー(WMI)
一時的な記憶を使いながら、情報を処理する力。 - 処理速度(PSI)
視覚的な情報をすばやく正確に処理するスピード。
この4つの能力のバランスを見ながら、子どもが「どういう特性を持っているか」を分析します。
たとえば、言語理解が非常に高くて処理速度が低い子がいた場合、「頭で考える力はあるけれど、実際に手を動かす場面では時間がかかる」という特徴が見えてきます。
逆に、処理速度は速いけれど言語理解が弱いという子は、「手際よく動けるけれど、抽象的な説明が苦手」という傾向があるかもしれません。
このように、WISCは「子どもを点数で評価するための検査」ではなく、「子どもの得意・不得意を可視化するためのツール」として使うものです。
WISC検査はある時点の一側面でしかない
WISC検査の結果を前にして、保護者の方がまず考えるのはこういうことかもしれません。
「この子は勉強に向いてないのかもしれない」
「処理速度が低いって書いてある……やっぱり発達に問題があるのでは?」
「言語理解が高いなら、もっと頑張ればいいのに」
実は、こうした感想は非常によくあるものです。
そして残念ながら、こうした誤解が、子どもを追い詰めてしまうこともあります。
WISCの結果は、あくまで「今の時点で、こういう特性がある」というものであって、将来の成功や失敗を予言するものではありません。
この検査の結果で「この子は○○ができない」と決めつけることは、医療的にも心理的にも正しくありません。
なぜなら、人の能力は時間とともに変化しますし、育ち方や経験によっても大きく伸びるからです。
たとえば、数学が苦手な友人がいたとして、「数学が苦手だからこの先ずっとダメになる」なんて考えませんよね。
子どももそれと同じで、得意なこと・苦手なことがあるだけで、それが価値の優劣を示すものではありません。
「社会に合わせるための検査」ではない理由
WISC検査について「これは社会に適応させるための検査なんでしょうか?」という質問をいただくこともあります。
たしかに、支援の手がかりとして行政や学校に提出されることもあり、「社会に適応できるかを見るための検査」のように感じられることもあるかもしれません。
しかし、本来の目的はまったく違います。
この検査は、社会に「子どもを合わせる」ためのものではなく、子どもが「自分を理解し、生きやすくなる」ための手がかりなのです。
たとえば、WISCの結果を使って「この子には視覚的な説明が効果的だ」とわかれば、授業のスタイルを調整することができます。
あるいは、「処理速度が遅いから、時間に追われる環境は合わない」と判断できれば、提出期限の柔軟な対応をお願いすることもできます。
つまり、WISCの役割は「子どもを測る」のではなく、「子どもに合った環境をつくる」ための情報を得ることにあるのです。
点数に一喜一憂する意味のなさ
WISC検査では、IQという数値も出てきます。
この数字を見て、つい比べたくなる気持ちは分かります。
でも、ここに強くこだわると、大事なことを見失ってしまいます。
たとえば、料理を例に考えてみてください。
「包丁の使い方がうまいけれど、味付けは苦手」という人がいたとします。その人の料理全体の評価を「60点」とつけても、その点数からは何が得意で何が苦手かは分かりませんよね。
WISCでも同じです。IQが110であっても、内訳を見てみると極端に低い部分と高い部分が混ざっている場合があります。
逆にIQが90であっても、全体のバランスが整っていて、実生活ではとても安定したパフォーマンスを出す子もいます。
数字はあくまで数字。
「その子が何を感じ、何に困り、何ができるのか」は、数字だけでは決まりません。
WISC検査の意味は「特性を知る」こと
WISC検査を通じて得られる一番の収穫は、「この子はどういう特性を持っているのか」を知ることです。
たとえば、「ワーキングメモリーが低い」という結果が出た場合、どう捉えるかが大切です。
「記憶力が悪いんだ」「だから勉強ができないんだ」と考えてしまうのは、非常にもったいない捉え方です。
ワーキングメモリーとは、「一時的に情報を頭に置きながら処理する力」です。言い換えると、「やりながら覚える」力です。
たとえば、スーパーで「牛乳と卵とパンとバターを買ってきて」と言われたとき、それを頭の中に置いて買い物を進めるような力です。
この力が弱い子は、「複数の指示を一度に理解するのが苦手」という傾向があります。でも、それは工夫すればカバーできる力です。
・メモに書けばいい。
・一つずつ確認すればいい。
・視覚的に補助してあげればいい。
つまり、「特性を知る」ということは、「やり方を工夫するヒントを得る」ということなんです。
「うちの子はふつうじゃないのかもしれない」という不安
WISC検査の結果を見て、不登校の子どもを持つ親御さんが感じる感情の一つに、「やっぱり、うちの子はちょっと違うんじゃないか」という思いがあります。
これは非常に深くて、切実な悩みです。
ただ、ここで考えてほしいのは、「ふつう」という言葉が持っている曖昧さです。
WISCの結果は、誰かと同じになるための指標ではありません。
むしろ、誰もが「違う」という前提に立つためのツールです。
たとえば、料理のレシピも、人によって調味料の量を変えるのが当たり前です。辛いものが好きな人、薄味が好みの人。人それぞれ。
それと同じで、教育も支援も「その子に合わせて味付けを変えること」が重要です。
「違う」ことを「間違い」と捉えるのではなく、「その子らしさ」と捉える。
その視点を持てるようになると、親としての心の負担も、少しずつ軽くなっていきます。
結果に左右されない視点を持つ
WISC検査の結果は、子どもを理解するために意味のある情報です。でも、それに振り回されすぎると、本来の目的を見失ってしまいます。
- 点数を気にするあまり、子どもにプレッシャーをかけてしまう
- 高い能力だけを伸ばそうとして、苦手な部分を否定してしまう
- 他の子と比べてしまい、親自身が疲れてしまう
こうした状況は、誰にでも起こり得ます。むしろ、真剣に子育てに向き合っている方ほど、陥りやすい罠でもあります。
だからこそ、検査の結果に「反応」するのではなく、「活用」するという視点が大切です。
「どうしてこの点数なんだろう」と悩むのではなく、「この特徴を踏まえると、どう接したら暮らしやすくなるだろう」と考える。
その違いが、親子関係に大きな安心感をもたらします。
子どもの特性に合わせて、環境を変える
教育の現場では、「子どもを環境に合わせる」のが当然という風潮がいまだにあります。
でも、それは時に無理をさせてしまうことになります。
WISCの結果は、その「無理」がどこにあるのかを可視化するツールでもあります。
たとえば、処理速度が非常に低い子が「定期テストで時間が足りない」と感じていたら、その子に必要なのは「努力」ではなく「時間の猶予」かもしれません。
あるいは、ワーキングメモリーが低くて、授業中の口頭指示をすぐに忘れてしまう子がいた場合、板書を写真に撮ってよいといった工夫ができるだけで、大きく変わります。
子どもを「もっと頑張らせる」ことではなく、
「頑張らなくても自然にできる」環境にしてあげる。
それが、特性に合った支援ということです。
数字の向こうにいる子どもに向き合う
WISC検査は、非常に奥深いツールです。そして同時に、とても誤解されやすい検査でもあります。
WISC検査の数値はただの入り口に過ぎません。
そこから何が見えるのか。どのように読み取るか。
それが一人ひとりの子どもの生きやすさに直結していきます。
一番大切なのは、数字に心を支配されないことです。
その数字の向こうに「その子らしさ」があること。
そして、その特性に気づくことが、子ども自身が自分を肯定する第一歩になるということ。
子どもは、優劣で測るものではありません。
誰もが違う特徴を持ち、それぞれのリズムで育っていく存在です。
検査の結果がどうであれ、
「この子には、この子の道がある」
そう思える視点が、親にとっても子どもにとっても、なによりの支えになります。
この記事が、WISC検査と向き合うときの心の支えになれば幸いです。
今は「結果」に迷っていたとしても、大丈夫です。
特性を知ることは、「できないことを突きつけられること」ではなく、「可能性を知ること」なのです。
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