母子分離不安の背景と、段階的な自立へのアプローチ

こんにちは。不登校を専門とする精神科医の津田と申します。
今日は「母子分離不安の背景と、段階的な自立へのアプローチ」について心理学的な観点から整理しました。

不登校の相談を受けていると、小学生から中学生くらいの年齢で、「母親から離れられない」「一人で部屋にいるのが怖い」「学校に行くと不安で涙が出てしまう」といった訴えが出てくることがあります。

それらの言動がただの甘えのように見えてしまい、つい厳しく接してしまったという話も耳にします。
しかし、こうした「母子分離不安」と呼ばれる状態は、年齢の問題でも性格の問題でもありません。背景には、本人にとって切実な心理的な不安や、関係性の揺らぎが潜んでいます。

今回はこの母子分離不安というテーマについて、その基礎的な理解から、支援の際に気をつけるべきポイントまで、段階的に整理してお伝えしたいと思います。

目次

母子分離不安とは何か

「離れること」が苦しい理由

母子分離不安とは、母親や主要な養育者から離れることに対して、過度な不安や抵抗を感じる状態を指します。

学校に行けない、あるいは登校してもすぐに戻ってきてしまう子どもの中には、この不安が背景にある場合が多く見られます。

具体的には、

  • 母親が家からいなくなるとパニックを起こす
  • 登校時に「ママも一緒に来て」と泣いてしまう
  • 学校で不安になり、しきりに「お母さんに会いたい」と訴える

といった行動として現れます。

このような行動の裏には、「一人で世界に立ち向かう準備がまだ整っていない」という本人なりの防衛があります。

幼さの問題ではない

母子分離不安というと、「まだ精神的に幼い」「過保護だから」といった言葉で片づけられがちです。
しかし、実際にはそう単純な話ではありません。

分離不安は、誰にでも起こりうるものであり、「年齢相応に自立していない」こととは異なります。

例えば、真面目で責任感が強い子どもほど、不登校になったときに「家にいるお母さんの役に立たなければ」「迷惑をかけてはいけない」と思い込みやすく、結果的に母親からの分離が困難になるケースもあります。

一見、自立しているように見える子どもほど、見えにくい形で分離不安を抱えていることもあります。

なぜ母子分離不安が起こるのか

安心できる対象が「母親だけ」になっている状態

母子分離不安が強く現れる背景には、「安心できる相手や場が、母親にしかない」という構造があることが多いです。

それまでの成育歴の中で、「不安なときに受け止めてもらえた」「困ったときに助けてもらえた」という経験が、母親との関係の中で繰り返されてきた場合、自然と「安心=母親」という方程式ができあがります。

そのこと自体は、むしろ健全な愛着形成の証でもあります。
ただし、それが「母親以外では安心できない」という状態に固定化されてしまうと、社会的な場に踏み出す際に強い不安を伴うようになります。

このとき、無理に引き離すような対応をしてしまうと、「世界は危険な場所だ」「自分はひとりではやっていけない」といった認識が強化されてしまいます。

その結果、より強い孤立や、自己否定的な感覚につながってしまうこともあります。

不安を否定されると、「怒り」や「無力感」に変わる

分離不安がある子どもは、自分の感じている不安を上手に言葉にできないことが多いです。
そのため、大人に「そんなに泣くほどのこと?」「もう中学生でしょ」などと言われてしまうと、自分の不安が否定されたように感じます。

この否定された感覚が、「怒り」や「無気力」に変化することがあります。

あるいは、過剰に我慢し続けた結果として、突然パニックになったり、自暴自棄になったりといった形で現れる場合もあります。

ですから、「この子はただ甘えている」と決めつける前に、「何にそんなに不安を感じているのか」を丁寧に読み取る姿勢が必要になります。

間違った対応がもたらすリスク

「突き放す」対応が逆効果になる理由

母子分離不安がある子どもに対して、よくある対応が「もう大きいんだから」「そろそろ自分でやりなさい」といった突き放す声かけです。

一見、子どもの自立を促すように見えますが、実際には逆効果になることが少なくありません。

不安に支配されている状態で突き放されると、子どもは「誰も自分のことを分かってくれない」という孤立感を強めてしまいます。

その結果、部屋にこもる、親と話さなくなる、感情が爆発するなど、より深刻な反応につながることがあります。

突き放すのではなく、「安心の輪」を少しずつ広げていくような関わり方が必要になります。

「いつまでも一緒にいる」対応もまたリスク

一方で、子どもの不安に寄り添いすぎてしまい、「どこに行くにも一緒」「子どもの要求には必ず応える」といった対応を続けてしまうと、それはそれで問題になります。

このような関係が固定化されると、子どもの中に「一人では何もできない」という自己認識が強まってしまいます。

親が何でも先回りして手を差し伸べることで、「困ったときは誰かが何とかしてくれる」という依存的な態度を学習してしまうこともあります。

つまり、過度な突き放しも、過度な関わりすぎも、どちらも不安の根を深める結果になりやすいのです。

段階的な自立へのアプローチ

「安全基地」の考え方を土台にする

心理学者ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論には、「安全基地」という概念があります。
これは、子どもにとって安心して戻れる場所や存在があることで、外の世界に探索に出かけられるという考え方です。

母子分離不安のある子どもにとっては、この「安全基地」がまだ不安定な状態にあるといえます。
そのため、自立を促すには、「外に出ていきなさい」と背中を押す前に、「戻ってきても安心できる場」がしっかり感じられるようにすることが先決です。

この視点に立てば、段階的な自立とは「離れる練習」ではなく、「戻ってこれる経験を増やすこと」と言い換えることができます。

ほんの少しの「離れ」を、繰り返す

母子分離不安へのアプローチでは、「一気に離れる」よりも「短く、確実に離れて、また戻る」経験の積み重ねが重要です。

たとえば、

「今日は10分だけ一人で待ってみようか」
「お母さん、ちょっと買い物行ってくるけど、すぐ戻るよ」

というような小さな挑戦です。

そのときに大切なのは、「必ず戻ってくる」という約束が守られることです。
信頼が積み重なれば、子どもは「離れても大丈夫」「また会える」という安心感を獲得していきます。

逆に、一度でも戻ってくる約束が破られると、「次は戻ってこないかもしれない」という不安が増幅します。
だからこそ、「小さな離れ」を、丁寧に、確実に繰り返すことが求められます。

成功体験を焦らない

このような段階的な関わり方は、一見すると非常に時間がかかるように見えるかもしれません。
けれども、拙速な対応で失敗を繰り返すよりも、確実に「できた」という手ごたえを積み重ねていくほうが、長期的には安定した自立につながります。

親御さんの中には、「もう中学生なのに、こんなことでいいのか」と焦りを感じる方もいます。
ですが、子どもが一人で過ごす時間を少しずつ受け入れていく過程そのものが、成長の証です。

見た目の“年齢相応”にこだわるよりも、「この子にとっての適切なステップは何か」を一緒に探っていく視点が大切になります。

兄弟姉妹との比較に注意する

「あの子は一人でできたのに」は禁句

分離不安のある子どもに対して、つい言ってしまいがちな言葉があります。
「お姉ちゃんのときはこんなことなかったのに」
「下の子はもう一人で寝てるのに」

こうした言葉は、無意識のうちに「お前も同じようにできて当然だ」というプレッシャーになります。

兄弟姉妹間の違いは、性格や経験だけでなく、親との関係性、周囲の環境、タイミングなど複雑な要因が絡んでいます。

その違いを尊重せずに、他者との比較で対応してしまうと、「自分は劣っている」「期待に応えられない」という気持ちを強く抱かせてしまいます。

必要なのは、「この子はこの子で、どこが不安で、どうしたら落ち着けるのか」を丁寧に見極める姿勢です。

不安を「受け入れる」から「理解する」へ

気持ちの背景を言葉にしてあげる

子どもが「行きたくない」「一人になれない」と言ったとき、それをただ受け入れるだけでは足りないことがあります。

むしろ、「なぜそう感じるのか」「そのとき体の中で何が起きているのか」を一緒に整理していく作業が大切です。

たとえば、「お母さんと離れるのが怖い」という言葉に対して、

「それって、お母さんがいなくなったら何か不安なことがあるのかな」
「体がドキドキする? それとも頭の中が真っ白になる感じ?」

こうしたやりとりを通して、子ども自身が自分の感情を理解し、言葉にする力を少しずつ育てていきます。

感情を“分かる”ようになることは、それ自体が安心につながります。

まとめ:分離不安は「関係の問題」であり、「成長のプロセス」

この記事では、不登校の背景にある母子分離不安について、原因や特徴、対応方法を心理的視点から掘り下げてきました。

・母子分離不安は、年齢や性格の問題ではなく、安心の対象が限られている状態
・無理に引き離すのではなく、「戻ってこられる体験」を積み重ねることが必要
・過度な突き放しも、過剰な依存も、どちらもリスクを高める
・子どもに合わせた「小さな挑戦」を、繰り返し成功体験として積むことが大切
・感情の背景を理解し、言葉にする手助けが、自己理解と自立の第一歩になる

母子分離不安は、“甘え”ではなく、本人なりに世界と関わろうとしているサインです。
そしてそれは、「今この子が何に不安を感じ、どう安心を得ようとしているか」という問いに、大人が丁寧に応えていくことから解きほぐされていきます。

焦らず、構えすぎず、日々のやりとりの中で少しずつ広げていく。
それが、段階的な自立のもっとも確かな道筋であると私は考えています。

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