他者と遊べない子どもと、遊びの効用
こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
不登校の相談を受ける中で、「うちの子、人と遊べないんです」と話す保護者の方に、よく出会います。
「友達がいないのではなく、自分から関わろうとしない」
「小さい頃から、一人遊びばかりだった」
「ゲームならやるけど、リアルの遊びには誘っても乗ってこない」
こんな話も聞きます。
今日は、「遊び」という行為について、心理学の面からお話ししたいと思います。
子どもにとっての「遊び」は、単なる余暇や暇つぶしではありません。
それは、心の深いところで起きていることの「現れ」であり、「育ちの過程」そのものでもあるのです。
目次
遊ぶことが苦手な子もいる
「子どもはみんな遊ぶのが好き」
「遊びは子どもの本能」
そんなふうに思っている方も多いかもしれません。
実際、「遊びなさい」「外に行って友達と遊んできなさい」と言えば、自然と何かを始める子もいます。
しかし、そう言われても体が動かない、どうやって関わったらいいか分からない。そんな子も一定数います。
ここで一つ、重要な視点があります。
それは、「遊ぶ」という行為は、誰にでもできることではないということです。
ウィニコットの「遊ぶことと現実」から考える
イギリスの小児精神科医、D.W.ウィニコットは、「遊び」という行為を非常に重視した人物です。
彼は著書『遊ぶことと現実(Playing and Reality)』の中で、こんなふうに述べています。
遊びとは、「自己」と「他者」が重なり合う空間に生まれるものだ。
これはどういう意味か、少し噛み砕いてみましょう。
「自己」というのは、自分の中にある気持ち、考え、感覚、欲求。
「他者」とは、親、友達、先生、つまり外の世界です。
遊びは、この二つの間に「安全な空白」があってこそ成立します。
たとえば、砂場で一緒にお城を作るとき。そこには「私」がいて、「相手」がいて、そして「一緒に作っているもの」があります。
この「一緒にやっているけど、強制されているわけではない」という関係性が、遊びの本質です。
言い換えると、遊びは「自分を持ちながら、他者にも関わる」という、心の柔軟性があってこそ可能になる営みなのです。
「遊べない子」は、自分を守っていることがある
一見、遊びを拒否しているように見える子も、実は「怖くて入れない」「傷つくのが嫌だ」と感じていることがあります。
たとえば、初めて会った子どもたちが集まる場面。
新学期の教室、転校先の学校、キャンプ体験。どこでも似たような光景があります。
最初は全員が緊張していて、視線を合わせない。
でも、だんだんと一人が話しかけ、誰かが「これ一緒にやろう」と誘う。
そこでようやく、「ちょっとやってみようかな」と思えるようになります。
遊びとは、ただ身体を動かすことではありません。
心を、相手に少しだけ預けてみることなのです。
心理療法に「遊び」が取り入れられる理由
臨床現場では、遊びは治療的な意味を持ちます。
特に、子どもを対象とした心理療法の多くに「遊戯療法(プレイセラピー)」が含まれているのは、偶然ではありません。
絵を描く。粘土で何かを作る。おままごとをする。
これらは、子どもにとっての「心の言語」でもあります。
言葉で気持ちを表現するのが難しい子どもたちは、遊びの中で自分の感情や葛藤を外に出します。
また、セラピストや周囲の人がその遊びに反応することで、「分かってもらえた」という感覚が生まれます。
この「分かってもらえた」という経験が、安全基地になります。
そこから初めて、他者と関わることへの信頼が育っていきます。
「遊び」は、子どもを回復させる手段でもある
デイケアの事例では、対人恐怖が強く、教室に一歩も入れなかった小学生が、粘土細工を通して少しずつ他者との距離を縮めていきました。
最初は一人で作っていた作品を、「見せたい」と思うようになり、やがて「一緒に作ろう」と誘う側になっていきました。
これは特別な例ではありません。
遊びには、「安心の中で、他者と重なり合う」仕掛けが詰まっています。
そしてその過程が、結果的に対人関係や情緒の回復につながっていくのです。
「外で遊ばせたら?」の落とし穴
不登校の子どもについて、「家でずっとゲームばかりしている」「人と関わらず閉じこもっている」という悩みはよく聞かれます。
そして、多くの人がこう言います。
「もっと人と関わらせたほうがいい」
「遊ばせてあげたらどう?」
「集団に入れたほうが慣れるよ」
間違ってはいないのですが、少しだけ順序が逆です。
「遊ぶ」ことは、意図的にできるものではありません。
安心して、委ねられる環境があって、初めて起きるものなのです。
たとえば、料理が苦手な人に「さあ、今すぐキッチンに立って」と言っても、気持ちがついてこないのと似ています。
まずは道具を手に取って、誰かと一緒にやってみて、「あ、やれるかも」と思えたとき、自然と行動に移っていきます。
「遊べるようになる」とはどういうことか
遊びとは、「自然に起きるもの」と考えられがちです。
しかし、実際にはそれを「取り戻す」ためのプロセスが必要なこともあります。
遊べない状態にある子どもは、往々にして「他者を怖れている」か「自分の感情を安全に出せない」か、その両方を抱えています。
だからこそ、遊びが始まるときというのは、ほんの少しでも「この人になら自分の一部を見せてもいいかもしれない」と感じた瞬間なのです。
このような「ゆるやかな肯定」の積み重ねによって、少しずつ遊びが生まれ、それが「遊べるようになる」という変化につながっていきます。
親が「遊ばせなければ」と焦る必要はありません
保護者の方の中には、「どうすれば子どもが友達と遊べるようになりますか?」という問いを真剣に抱えている方もいます。
もちろん、その気持ちはとてもよく分かります。
しかし、焦りからあれこれ働きかけると、かえって子どもの中にある「拒否」や「防衛」を強めてしまうこともあります。
遊びとは、「強制されたくない」行為の最たるものです。
だからこそ、親ができるのは、「子どもが心を開きやすい環境」を整えることに尽きます。
誰かと安心して関われる、ちょっとした共通体験がある。
そうした「場」が、遊びを呼び込むのです。
家庭内でできる小さなステップ
では、どんなことから始めるといいのでしょうか。
いくつか、実際のケースからご紹介します。
・一緒にテレビを見て、同じ場面で笑う。
・料理中に、野菜の皮むきを頼んでみる。
・犬の散歩を交代でやるようにする。
・好きなYouTube動画を親子で一緒に見る。
これらは、一見すると「遊び」とは違うように思えるかもしれません。
しかし、こうした「ゆるい共通体験」が、心をほぐす大きな第一歩になります。
大事なのは、「楽しいことを共有できた」と感じられる経験を積み重ねることです。
その先に、自然と遊びが芽生えるタイミングがやってきます。
子どもが「遊ばなくなる」とき、大人はどう捉えればいいか
一方で、子どもがある時期から急に「遊ばなくなる」こともあります。
これは思春期の始まりだったり、心の疲れが出ていたり、いろいろな背景があります。
そのとき、大人はつい「元気がない」「もっと何かしなさい」と言いたくなってしまいます。
けれど、遊ばない子どもを見たときは、「今は、遊べないほどに疲れているかもしれない」と捉えてみてください。
その視点があるだけで、対応がまったく変わります。
「遊ばせる」ことより、「心を休ませる」ことが優先されるべきときもあるのです。
「遊び」は“心の免疫”のようなもの
ここまで読んでくださった方には、少しずつイメージが湧いてきたかもしれません。
遊びは、決して贅沢なものでも、時間の浪費でもありません。
それはまるで、心にとっての「免疫機能」のようなものです。
ストレスがかかったとき。
孤独を感じたとき。
うまくいかない自分に落ち込んだとき。
そんなときに、遊びという「余白」があることで、人は自分を取り戻すことができます。
もちろん、大人にも当てはまる話です。
趣味や雑談、散歩や飲み会。どれも「遊び」としての要素を含んでいます。
子どもにとっての「遊び直し」とは何か
不登校や対人不安を抱えた子どもにとって、過去にできなかった「遊び」を、改めてやり直すことは、とても意味があります。
たとえば、かつて学童期に人との関わりを避け続けた子が、思春期に入ってから、下級生の面倒を見たり、小さな子と一緒に遊んだりする場面があります。
これも一つの「遊び直し」です。
本人の中で未解決だった部分が、今の自分ならもう一度向き合えると感じたとき、自然とそうした行動が起きてくるのです。
そのためにも、「遊ぶことは大事だ」と頭ごなしに言うのではなく、そっと背中を押す接し方が望まれます。
終わりに:解決ではなく、視点の更新を
ここまで、「遊べない子ども」について、いくつかの角度からお話ししてきました。
私たちはつい、「どうしたら遊べるようになるか」「どう関われば変わるか」と考えてしまいます。
でも、本当に必要なのは、「遊びとは何か」「なぜ遊べないことがあるのか」という視点の更新です。
遊ぶとは、他者とつながるための入り口であり、同時に、自分を守るための出口でもあります。
子どもが遊べないとき、それは「まだ心が準備できていない」のかもしれません。
「遊べないこと」に焦らず、そこにある心の動きに静かに寄り添っていくこと。
その姿勢が、子どもにとっては何よりの支えになるのではないかと私は考えています。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
この記事が、誰か一人でも「ちょっと気持ちが軽くなった」と感じていただけたなら嬉しいです。
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