子どもが寝付きやすくなるために|精神科医からの提案
こんにちは、精神科医の津田と申します。
今日は「子どもが寝付きやすくなるには、どのような関わり方があるか」についてお話ししたいと思います。
不登校のご相談を受けていると、「夜なかなか眠れないみたいで…」「昼夜逆転になってしまって」といった悩みを頻繁に聞きます。
眠れないことで朝が遅くなり、生活リズムが崩れ、そのこと自体が子どもの自己否定感につながってしまうこともあります。
睡眠は心身の土台です。
しかし、「早寝早起き」「スマホはやめましょう」「昼間に運動しましょう」といった一般的なアドバイスだけでは、現実はなかなか動きません。
頭では分かっていても、できないから悩んでいる。それが多くのご家庭の実情ではないでしょうか。
今日は、そうしたアドバイスの限界を見つめながら、精神科医・心理臨床の立場から、少し視点を変えた現実的な工夫をお伝えできればと思います。
目次
一般的なアドバイスでうまくいかない理由
世の中には、子どもの睡眠に関してよく言われるアドバイスがいくつかあります。たとえば次のようなものです。
- 寝る前にスマホを見せないようにしましょう
- 朝は決まった時間に起きましょう
- しっかりと暗くして寝付かせましょう
これらはいずれも、睡眠に関する研究でも一定の効果が認められている内容です。
しかし、それと同時に、実際の家庭ではうまくいかない例も非常に多く見られます。
なぜなのでしょうか。
理由のひとつは、こうしたアドバイスが「心の状態」を考慮していない点にあります。
「決まった時間に起きる」というのは、心がある程度安定している人の場合に機能する方法です。
けれども、不登校状態の子どもは、気持ちが張り詰めていたり、不安が強かったり、刺激を避けるように生活していることが少なくありません。
本人も「寝なきゃ」と思っている。
でも眠れない。
「昼夜逆転してはいけない」と分かっている。
でも、どうしても夜に目がさえてしまう。
こうした“分かっているのにできない”という苦しさに対して、ただ「早く寝なさい」と言うのは、時に無力で、時に傷つけてしまうことすらあります。
睡眠は「心」と「体」の両面でつくるもの
私たちの体には「概日リズム(サーカディアンリズム)」という体内時計があります。これは言い換えると、「毎日のリズムをつくる脳内の仕組み」です。
このリズムを整えるのは、光、食事、活動量、気温、そして心理的な安定です。
つまり、ただ疲れさせれば眠れるという単純なものではありません。
特に子どもの場合、環境から受ける影響が大人以上に大きいです。
だからこそ、心と体のどちらにもアプローチしながら、「眠れる状態」を整える必要があります。
具体的には、
- 身体を軽く動かす(疲労感)
- ブルーライトを避ける(脳の覚醒を防ぐ)
- 安心できる音や空間を用意する(心理的な安定)
- 眠りのスイッチとなる習慣をつくる(条件づけ)
このように、いくつかの要素を組み合わせていくことで、少しずつ眠りやすい状態が育っていきます。
「スマホは悪」という単純な話ではない
「スマホのせいで眠れない」という話はよく聞きます。確かに、スマートフォンやタブレットから出るブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑えることが分かっています。
メラトニンとは、脳が「夜になったよ、眠る時間だよ」と体に伝える役割をするホルモンです。
この分泌が妨げられると、脳は“まだ昼間”だと錯覚し、眠気がこないという現象が起こります。
ですから、「寝る前にスマホを見ない方がいい」というのは、科学的にも理にかなっています。
ただし、それをそのまま子どもに適用しようとすると、話は少し変わってきます。
不登校の子どもにとって、スマホは唯一の外界との接点になっていることがあります。
学校にも行かず、外出もしない日々の中で、友達とのつながり、情報のやりとり、娯楽のすべてがスマホに集約されているのです。
それを「寝るから今すぐやめて」とだけ言えば、子どもは「これ以上何も奪わないで」と感じてしまいます。
ここで大事なのは、「禁止」ではなく「折り合い」です。
たとえば、
- スマホの画面を夜は「ナイトモード(暖色)」に切り替える
- 時間を決めて一緒に見る
- 動画を観た後に「おやすみ音楽」を流す流れにする
など、切り替えやすい工夫をしていくと、スマホそのものが悪者にならずに済みます。
睡眠の改善に有効な手立て
音がもたらす「安心」と「切り替え」
眠る直前の時間帯には、「音」が大きな役割を果たします。
特に注目したいのが、528Hz(ヘルツ)という特定の周波数を持つ音楽です。
これは「ソルフェジオ周波数」と呼ばれる音階の一つで、近年、精神医療やリラクゼーションの現場で使用が広がっています。
科学的には、528Hzの音を聴くことで、ストレスホルモンであるコルチゾールが減少するという実験結果もあります。
言い換えると、「心と体が安心する周波数」だということです。
この音を、ただ流すだけでいいのか?
実はそれよりも、「誰と、どういう雰囲気で聴くか」の方が大切です。
たとえば、夕食後のひとときに、部屋の照明を少し落として、親子で10分だけ静かに音楽を聴く。
その時間が「心を落ち着けて眠る準備をする時間」だと、少しずつ脳が学習していきます。
重要なのは、親が「寝かせよう」と力を入れすぎないこと。
リラックスとは、本来「頑張るもの」ではないからです。
むしろ、「一緒に過ごす穏やかな時間」が、子どもにとっての安心になるのです。
年齢によって変わる「添い寝」の役割
添い寝というと、小さな子ども向けという印象があるかもしれません。
けれども、心理的に不安定な時期には、年齢にかかわらず効果があります。
ある中学1年生の男の子の例を紹介します。
不登校になってから、夜になると急に落ち込むようになり、寝つきが悪くなりました。
ゲームをやめても、明かりを消しても、布団に入っても、眠れない。
そこで、本人の希望もあって、母親が寝る前10分だけ一緒に横になってみました。
すると、それだけで落ち着き、15分ほどで寝息を立てるようになったのです。
この子にとって、「ひとりで夜を迎えること」が大きなストレスになっていたのです。
「甘やかしでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、今の年齢にふさわしい安心の形を探すことは、心理学的にも非常に意味があります。
無理に距離をとるより、「今、必要な安心」を一時的に提供する方が、長い目で見て子どもの自立につながることもあります。
午後の過ごし方が夜の眠りをつくる
眠りというのは、寝る直前だけで決まるものではありません。
実は、「午後の過ごし方」が、夜の眠気に大きく影響します。
特に不登校の子どもは、外出する機会が少なく、室内で静かに過ごす時間が多くなりがちです。
このような環境では、心も体も“動き出すきっかけ”を失ってしまいやすくなります。
そこでおすすめしたいのが、午後のルーティンを軽く作っておくことです。
「14時に一緒におやつを食べる」「15時に部屋の空気を入れ替える」など、ほんの小さなことでもかまいません。
それだけで、脳が「今は午後の時間帯だ」と認識し、やがて「夜が来た」という感覚につながります。
また、可能であれば、夕方の時間にゆるやかな活動を入れるとよいでしょう。
- 洗濯物をたたむ
- 一緒に晩ごはんの下ごしらえをする
- スーパーまで短時間だけついてくる
このような「生活にひもづいた活動」は、心を疲れさせず、自然にエネルギーを使わせてくれます。
大切なのは、「無理に外に出す」のではなく、「生活の一部として、少しだけ動く」という工夫です。
「朝の光」が夜の眠気をつくる
睡眠リズムを整えるうえで、最も確実で強力な方法のひとつが、「朝の光を浴びること」です。
これは生理学的に明らかになっている仕組みで、朝に太陽の光を浴びることで、脳内の体内時計がリセットされます。
そこから14〜16時間後、メラトニンという眠りのホルモンが分泌され、自然に眠気が出てくるのです。
つまり、朝に光を浴びることは、夜の眠気を“予約する”ようなものだといえます。

もちろん、不登校の状態にある子どもに「朝早く起きて」と言うのは現実的ではないことも多いです。
その場合でも、「寝ていてもいいので、カーテンを開けて自然光を入れる」「窓を開けて朝の空気を入れる」など、小さな工夫はできます。
ポイントは、「起こす」ことを目的にしないことです。
朝の環境を“昼間らしく”整えるだけでも、脳は少しずつ反応します。
環境を整える3つのポイント
眠るための環境づくりには、以下の3点を見直すだけでも、大きな違いが出てきます。
1. 照明の調整
明るい部屋では、脳が活動モードのままです。
夜の時間帯は、リビングや子ども部屋の照明をやや暗めの暖色系にするのが効果的です。
真っ暗にすると怖がる場合は、豆電球や間接照明を使い、やさしい明かりにしてみてください。
特にLED照明の白っぽい光は、昼間の太陽光に近いため、夜には不向きです。
2. 音の環境
寝る直前にテレビやYouTubeのような刺激的な音が入っていると、脳が興奮し、眠気が遠のいてしまいます。
528Hzなどの落ち着いた音楽や、環境音(波の音、雨の音、風の音など)に切り替えていくと、自然にリラックスできます。
「リビングで家族がドタバタしていると眠れない」と感じている子もいます。
夜の時間帯は、家庭全体が“静かモード”に移行していく雰囲気があると、子どもは安心しやすくなります。
3. 室温と湿度
眠るためには、室温や湿度も重要な要素です。
最適とされるのは、室温20〜26℃、湿度50〜60%程度。
エアコンや加湿器をうまく使いながら、「寒すぎない、暑すぎない」を目指してください。
特に思春期以降の子どもは、体感温度に敏感になりやすいため、本人に聞きながら微調整していくのが良いです。
眠る前の「条件づけ」を味方にする
心理学では、「条件づけ」という言葉があります。
ある行動や環境が繰り返されると、脳が「次に起こること」を予測して、自然と準備を始めるというしくみです。
たとえば、大人でも「歯を磨いたら寝るモードになる」「お風呂から出ると眠くなる」といった感覚があると思います。
これは、長年の繰り返しで脳が“覚えている”状態です。
同じことを、子どもにも少しずつ作っていくことができます。
たとえば、
- 歯磨きのあとに部屋を暗くする
- 照明を落として静かな音楽を流す
- 添い寝や背中をトントンする
これを毎晩ほぼ同じ順番で繰り返していくと、「この流れになったら眠る時間なんだ」と、自然に眠気を感じるようになります。
大切なのは、親の側も同じリズムで関わること。
曜日によって対応が大きく変わると、脳が混乱してしまいます。
また、子どもに「こうしなさい」と命令するよりも、「一緒にやろうか」と寄り添う形のほうが、スムーズに受け入れてもらえます。
食事の時間と内容にも注目
夕食の時間が遅いと、眠るタイミングと重なってしまい、寝つきが悪くなる原因になります。
理想は、就寝の2時間前までに食事を済ませることです。
また、夜遅くに脂っこいものや消化に時間がかかる食べ物をとると、胃腸が活発になり、体が休まらなくなってしまいます。
一方で、温かい飲み物は寝る前の体温調整を助けてくれることがあります。
- ホットミルク
- 白湯
- カフェインレスのハーブティー
こうした飲み物を少量とると、体温が一時的に上昇し、その後ゆるやかに下がっていくことで、自然な眠気が促されます。
最後に:眠る準備を整えるという考え方
「眠らせよう」とすると、焦りが生まれます。
「眠れないのは問題だ」と捉えると、親も子もプレッシャーに押しつぶされそうになります。
けれども、睡眠というのは、無理やり手に入れるものではありません。
むしろ、「眠りやすくなる準備を、少しずつ整えていく」という考え方のほうが、現実的で、心理的にも穏やかです。
準備とは、生活リズム、光、音、温度、人との関係、安心感――それらすべてを指します。
どれも一朝一夕には変わりませんが、小さな改善の積み重ねが、子どもの「眠る力」を取り戻していく土台になります。
「早く眠れるようにさせる」ではなく、「眠りやすい状態を一緒につくっていく」。
この視点を持てるだけで、親としての焦りが少し和らぐのではないでしょうか。
津田 育実(精神科医)
経歴: 名古屋大学 医学部を卒業後、精神科医として総合病院の児童精神科に勤務。専門は児童・思春期のメンタルヘルスで、発達障害や適応障害、不安障害を抱える子どもたちの診療を担当。現在も病院で診療を続けながら、当支援サービスのバックアップサポートを提供。
【国内最多の登校支援実績】トーコについて
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