声かけで不登校の子どもが動かない理由

こんにちは。再登校支援トーコの竹宮と申します。臨床心理士として不登校のご家庭の支援を行ってまいりました。今日は「声かけをしているのに、なぜ子どもが動かないのか」というテーマについて、児童心理学の視点から整理していきます。

目次

動かないのは「やる気の問題」なのか

気遣いや優しさが足りない?

不登校のご相談の中で、保護者の方からよく聞く言葉があります。
「毎日声はかけているのですが、全然動こうとしません」というものです。

一般的には、「優しく声をかけましょう」「否定せずに受け止めましょう」といったアドバイスがよく見られます。
これ自体は間違いではありません。関係性を悪化させないためには大切な視点です。

しかしながら、実際の現場では、この通りにしても状況が変わらないケースが少なくありません。
むしろ、丁寧に声をかければかけるほど、子どもが動かなくなるように見えることもあります。

ここで多くの親御様が混乱します。
「優しくしているのに、なぜ動かないのか」という疑問が生まれるからです。

この違和感は、とても自然なものです。

「やる気がない」と考えると見えなくなるもの

こうした状況に対して、「やる気がないのではないか」と考える方も少なくありません。
確かに、外から見ればそう見えることもあります。

ただ、臨床の視点から見ると、この捉え方には注意が必要です。
なぜなら、「やる気」という言葉で説明してしまうと、本来見なければならない要因が見えにくくなるからです。

子どもが動かないとき、その背景には多くの場合、「行動を起こすための条件が整っていない」という状態があります。
これは意欲の問題ではなく、認知や感情、身体の反応が絡み合った結果です。

少し具体的に考えてみます。

たとえば、朝起きて学校に行くという行動は、単純に見えて複雑なプロセスを含んでいます。
起きる、着替える、外に出る、人と会う、授業を受けるなど、多くの小さな行動の積み重ねです。

もしその中のどこかに強い不安や負担がある場合、全体の行動が止まります。
そしてその状態で「行こうか」と声をかけられると、子どもはさらに動きづらくなります。

これは怠けているわけではありません。
動けない構造ができている状態です。

声かけが逆効果になるとき

声かけが「刺激」になってしまう

声かけという行為は、本来はサポートの一つです。
しかし状況によっては、それ自体が強い刺激になることがあります。

特に不登校の状態にある子どもにとって、「学校に関する言葉」は非常に敏感なテーマになりやすいです。
そのため、どんなに優しい言い方であっても、内容によっては負担になります。

たとえば、朝の場面を想像してみてください。

子どもはリビングのソファで横になり、テレビをぼんやり見ています。
親御様は様子を見ながら、「今日はどうする?」と静かに声をかけます。

一見すると穏やかなやり取りです。
しかし、子どもの内面では別のことが起きています。

「行かなければならない」という考えと、「行きたくない」という感情が同時に存在し、強い葛藤が生まれます。
その状態で声をかけられると、その葛藤が一気に表面化します。

結果として、無視する、怒る、あるいはさらに動かなくなるといった反応につながります。

このときの反応だけを見ると、「反抗的」「やる気がない」と感じてしまうかもしれません。
しかし実際には、負荷が高まりすぎて処理しきれなくなっている状態です。

「正しい声かけ」を探すほど苦しくなる理由

ここで多くの親御様が次に考えるのが、「言い方が悪いのではないか」という点です。
もっと良い言葉があるのではないかと、試行錯誤を始めます。

もちろん、言葉の選び方は重要です。
ただし、この方向に偏りすぎると、別の問題が生まれます。

それは、「正解の声かけ」を探し続ける状態です。

今日は優しく言ってみる。
明日は共感を強めてみる。
別の日には提案型にしてみる。

それでも反応が変わらないと、「自分の関わり方が間違っているのではないか」という不安が強くなります。
この負担は決して小さくありません。

さらに、子ども側も変化に敏感です。
声かけの意図を読み取ろうとし、「どう答えればよいか」を考えるようになります。

すると、自然なやり取りが難しくなります。
会話そのものが緊張を伴うものに変わっていきます。

これは見落とされやすいポイントです。

子どもが動けないときに起きていること

行動の前に「予測」が働いている

ここからは少し専門的な話になります。

人が行動を起こすとき、実際には「行動の前」にある程度の予測が行われています。
これは認知行動療法でも重要な考え方です。

たとえば、「学校に行く」という行動を考えたとき、子どもの頭の中では次のような予測が無意識に行われます。

「教室に入ったらどうなるか」
「先生に何か言われるのではないか」
「友達とどう関わるか」

これらの予測が強い不安や否定的なイメージを伴っている場合、行動は自然と抑制されます。
これは防御的な反応です。

つまり、動かないのではなく、動かないようにしている状態です。

予測が固定されると動けなくなる

さらに重要なのは、この予測が繰り返されることで固定されていく点です。
一度「行くとつらい」というイメージが強まると、それが次回以降の判断に影響します。

たとえば、以前に教室で強い緊張を感じた経験がある子どもは、次に行こうとしたときにも同じような感覚を予測します。
実際に同じことが起きるかどうかは関係ありません。

予測の段階で負担が大きくなるため、行動に移れなくなります。

ここで声かけが入るとどうなるでしょうか。

「行くかどうか」を改めて考えることになります。
つまり、予測をもう一度強く呼び起こすことになります。

その結果、動けなくなる流れが強化されます。

声かけに頼らない関わり方

「動かす」ことを目的にすると見失うもの

ここまで読んでいただくと、「では声をかけない方がいいのか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、単純にやめればよいという話ではありません。

問題は「声かけそのもの」ではなく、「声かけの目的」にあります。
多くの場合、声かけは「子どもを動かすため」に行われています。

もちろん自然なことです。
目の前で動けずにいる子どもを見れば、何とかしたいと感じるのは当然です。

ただ、この「動かす」という目的が強くなりすぎると、関わり方が一方向になります。
つまり、結果だけに意識が向いてしまう状態です。

すると、子どもは無意識にその意図を感じ取ります。
「変わることを求められている」と受け取るのです。

このとき、子どもの中では安心感が下がります。
変化を求められる場面では、人は防御的になりやすいからです。

ここは見落とされがちなポイントです。

「関わりの質」が先に変わる必要がある

では、どこに視点を移すとよいのでしょうか。
私は「関わりの質」に注目することが重要だと考えています。

行動を直接変えようとするのではなく、関係性の中での体験を変えていくという発想です。

少し具体的に説明します。

たとえば、夕方の時間帯に子どもがリビングで本を読んでいる場面があります。
そのとき、保護者の方が隣に座って内容について軽く質問をしてみます。

「それはどういう本なの?」
「終わったらお母さんも読んでみるね」

このようなやり取りは、学校とは関係がありません。
だからこそ、この時間の中で子どもは「評価されない関係」を体験します。

学校に関する話題が出てこない。
行動を促されるわけでもない。
ただ、同じ空間で自然に関わる。

この積み重ねが、安心感の土台を少しずつ整えていきます。

地味な変化ですが、非常に重要な変化です。

動き出しは「小さな変化」から生まれる

大きな行動は分解して考える

「学校に行く」という行動は、親御様にとって一つの目標として見えやすいものです。
しかし、子どもにとっては複数のハードルが重なった状態です。

そのため、いきなりそこを目指そうとすると、どうしても負担が大きくなります。
これは構造的な問題です。

ここで必要になるのが、「行動の分解」という視点です。

たとえば、「朝起きること」「着替えること」「玄関まで行くこと」など、小さな単位に分けて考えます。
そして、その中のどこなら負担が少ないかを見ていきます。

ここで大切なのは、「できたかどうか」ではありません。
「どこで止まるのか」を理解することです。

止まる場所が分かると、子どもの負担のかかり方が見えてきます。

変化は偶然のように起きてくる

もう一つ、支援の現場でよく感じることがあります。
それは、子どもの変化は「意図して起こすもの」というより、「結果として起きるもの」であるという点です。

たとえば、あるご家庭では、特に登校の話をしていなかった時期に、子どもがふと「今日は外に出てみようかな」と言い出したことがありました。
きっかけは、前日に家族で何気ない会話をしていたことでした。

親御様としては、「何か特別なことをしたわけではない」と感じていました。
しかし、その前段階には、評価や要求を伴わない時間が積み重なっていました。

その結果として、子どもの中で「動いても大丈夫かもしれない」という感覚が少し生まれていたのです。

このような変化は、計画通りには起きません。
しかし、条件が整うと自然に現れてきます。

「何を言うか」よりも「どう関わるか」

声かけの前に整えるべきもの

ここまでの内容を踏まえると、「どんな言葉をかけるか」という問いの前に、別の問いが見えてきます。
それは、「どのような関係の中で言葉が使われているか」という点です。

同じ言葉でも、関係性によって受け取り方は大きく変わります。
安心感のある関係の中での一言と、緊張のある関係の中での一言では、意味がまったく異なります。

したがって、声かけを工夫する前に、まず関係性の状態を見直すことが重要です。

そして関係性については、もしパートナーがいる場合は夫婦間も同じくらい重要です。

ここまで読んでいただいた方は、夫婦でどちらかが責められ続けていたり、落ち着いた対話ができないことが子どもにどのような影響を与えるかは理解いただけると思います。

「関わり続ける」ことの意味

最後に、「関わり続ける」という行為そのものの意味についてお伝えします。

不登校の状態が長く続くと、親御様も疲れてきます。
どう関わればよいのか分からなくなることもあります。

その中で、「何もできていない」と感じてしまうことがあります。
しかし、実際にはそうではありません。

同じ空間で過ごすこと。
何気ない会話をすること。
日常を共有すること。

これらはすべて、子どもにとって重要な経験です。
目に見える変化がなくても、内側では少しずつ積み重なっています。

大きな変化は、こうした土台の上に現れます。

まとめ

「声かけをしても動かない」という状況は、多くの親御様が経験するものです。
そして、その背景には単純な原因では説明できない複雑な要素が含まれています。

一般的には「言い方を工夫する」「優しく伝える」といった方向で考えられることが多いです。
それ自体に意味はありますが、それだけでは十分ではない場合もあります。

その反面、行動の背景にある予測や不安、関係性の質に目を向けることで、見え方が変わってきます。
すぐに結果が出るわけではありません。

ただ、「なぜ動かないのか」という問いに対する理解が深まることで、関わり方の選択肢は確実に広がります。

少し視点を変えるだけで、状況の捉え方は大きく変わります。
そしてその変化が、結果として子どもの動きにつながることがあります。

焦らずに、目の前の関係を丁寧に見ていくこと。
それが遠回りのようでいて、実は安定した一歩になっていきます。

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