子どもに役割を持たせる大切さ

こんにちは。カウンセラーの竹宮と申します。
今日は「子どもに役割を持たせる大切さ」について考えてみたいと思います。

「役割」と聞くと、少し構えてしまうかもしれません。
子どもに余計なプレッシャーを与えたくない。そう感じる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、適切な形での“役割”は、時として子どもにとって大きな支えになることがあります。

今回は、社会心理学者リースマンの「援助者療法原理」という考え方をもとに、子どもが人と関わる中で「誰かの役に立つ」ことの意味を見つめ直してみたいと思います。

目次

誰かを助けることが、自分の助けになる

自信を無くしやすい不登校の子ども

不登校の子どもと向き合っていると、「自分なんかいても意味がない」「何もできない」と話してくれることがあります。
こうした言葉の背後にあるのは、「自分は役に立っていない」という考えです。

このとき大人は、つい「そんなことないよ」「あなたはそのままで大事だよ」と言いたくなります。
それ自体は大切な姿勢ですが、同時に、子どもが自分自身で「役に立てた」と感じられる経験も必要になります。

援助者療法原理とは

社会心理学者リースマンは、「援助者療法原理(Helper Therapy Principle)」という概念を提唱しました。
これは、「誰かを助けることによって、自分自身も癒される」という考え方です。
少し言い換えると、「人の役に立っている」と感じたとき、自分の存在に対して前向きな意味づけができるということです。
これは精神的な自己効力感(=自分にはできるという感覚)や自己イメージの向上につながります。

過去に支援させていただいた中学生の男の子ですが、家庭内で弟に勉強を教えるようになってから、表情が明るくなっていきました。
親子の会話も増え、そのうちに自分から学校に行けるようになったというケースがありました。
誰かを支える中で、「自分には価値がある」と感じられるようになったのです。

役割の与え方

よくある「がんばらせる」とは違う

ここで注意したいのは、役割を与えることが「がんばれ」というメッセージになってしまう危険性です。
援助者療法原理は、「自分のために無理して誰かを助けよう」という話ではありません。
むしろ、「ちょっとしたことでもいいから、自分の存在が誰かにとって意味を持っている」と感じられる体験の積み重ねを重視します。
ですから、役割とは必ずしも「係」や「当番」のように制度化されたものではなく、日常のちょっとした「他者との関わり」の中に自然と生まれるもので十分です。

「ありがとう」が力になる

たとえばこんな場面を想像してみてください。
リビングの掃除をしていたお母さんが、「ちょっとだけ手伝ってくれる?」と声をかける。
子どもは無言でクイックルワイパーをかける。
終わったあと、お母さんが「すごく助かった、ありがとう」と伝える。
このとき、子どもの中には「自分が役に立てた」という感覚がほんの少し芽生えます。

その「ほんの少し」が、次につながっていきます。
一度感じた肯定感は、たとえ小さくても、確実に積み上がります。

「居場所」は“与えられる”ものではなく、“築いていく”もの

不登校の子どもにとって、「居場所がない」という感覚は非常に苦しいものです。
ですが、安心できる場所が単に「そこにある」だけでは、本人の中に意味として定着しません。
必要なのは、「自分がその場にいていい理由」を自分で感じられることです。
つまり、「ここにいていい」と思えるには、「ここにいることで何かをしている」「誰かとつながっている」という感覚が土台になります。

これは決して難しいことではありません。

・誰かの話を黙って聞く。
・植物に水をあげる。
・料理の最後に盛りつけを手伝う。

どれも立派な「居場所を築く行為」です。

「やってあげる」から「任せてみる」へ

家庭の中で子どもを助ける側に回ることは、親としてごく自然なことです。
しかし、それが習慣になると、子どもが「何かを任される経験」を持ちにくくなります。
ここで大事なのは、「自立を促すため」ではなく、「自分が信頼されている」と感じられる経験を少しずつ増やすことです。

あるお母さんは、毎朝自分で淹れていたコーヒーを、息子に「今日、私の分もお願いしていい?」と頼むようにしました。
最初は戸惑っていた息子も、数日続けるうちに「ミルク入れたほうがいい?」と自分で考えて尋ねてくるようになったそうです。
これは「信頼されているからやる」という感覚の芽生えです。

役割は、子ども自身を助ける

「自分を忘れる時間」が救いになることもある

不登校の子どもにとって、自分自身のことを考える時間が多すぎるのは、しんどいことでもあります。

「なぜ自分はこうなったのか」
「このままでいいのか」
「親はどう思っているのか」

こうした思考がぐるぐると続くと、ますます動けなくなってしまいます。
だからこそ、「ちょっと人のために動く時間」は、そのループを断ち切るきっかけになります。
自分を忘れる瞬間。それは逃避ではなく、休息でもあります。

子どもに「頼る」ことの効用

「子どもに頼るなんて、甘やかしでは?」と心配される方もいます。
けれど、「頼られる」という経験には、大人が思う以上に大きな心理的意味があります。
それは、「あなたを信じているよ」という無言のメッセージだからです。

過去事例では、小学生が自宅で過ごす時間が長くなる中で、家族の食事の盛り付けを「お手伝い」として任されるようになったことがありました。
始めは面倒そうにしていたものの、母親に「今日の盛り付け、きれいだね」と褒められたりする中で、責任と誇りを持って役割を楽しむようになりました。
これは、外の世界に向かう準備が、家庭内で整ってきたサインでもあります。

「やっている感」と「実際にやったこと」の違い

現代は、子どもが誰かの役に立っているように“見える”活動が多い時代です。

・SNSで「いいね」を押す。
・ゲームの中で仲間を支える。
・動画配信でコメントを残す。

これらも広義の“関わり”ではありますが、身体性や生活との接点が薄い分、「手応え」が残りにくいのが難点です。
ですから、実生活の中で、「実際にやった」「その場にいた」という経験が、子どもにとっての“実感”を伴った肯定感につながりやすくなります。

責任を取り上げない大切さ

「小さな責任」が、自己肯定感の種になる

「責任」という言葉には、どうしても重たい響きがあります。
でも、心理学的に見ると、「小さな責任を引き受けられる経験」は、自己肯定感の発達に大きく貢献します。

たとえば、ペットの餌やりを「毎朝お願いする」といったことも、立派な役割です。
子どもがそれを続けられたとき、「できたね」と伝えるだけでなく、「安心して任せられるよ」と一言添えると、「自分は期待に応えられる人間なんだ」と実感できます。
これは“褒める”のとは少し違います。
評価ではなく、「存在と行動への信頼」の伝達です。

誰かの役に立つことが、自己イメージを変えていく

「自分なんか」と言う子どもが、誰かに「ありがとう」と言われる経験を重ねていくことで、「自分も誰かのためになれるかもしれない」という感覚を少しずつ取り戻していく。
このプロセスは、自己イメージ(=自分が自分をどう見ているか)を塗り替える大切な機会になります。

「何もしなくても価値がある」というメッセージも重要ですが、実際には「何かができたときの喜び」は、もっと直接的な肯定感を生みます。
だからこそ、子どもが無理なく関われる“ちょうどいい役割”を、日常の中で探す視点が大事になります。

「目立つ役割」である必要はない

誤解されがちですが、役割は必ずしも「目立つもの」や「他人から評価されるもの」である必要はありません。
むしろ、不登校や人間関係に不安を抱えている子どもほど、目立たず、でも確かに意味がある役割のほうが受け入れやすくなります。

・郵便物を受け取る係
・お茶をみんなに入れる役
・リモコンの操作を任せる

一見取るに足らないようなことでも、日常のリズムの中で「頼りにされている感覚」を育てることができます。

「役割=プレッシャー」にならないために

ここまでの話を聞いて、「でも、うちの子に役割を与えると逆にプレッシャーになりそう」と感じた方もいるかもしれません。
それはごく自然な感覚です。
だからこそ、「失敗してもいい」「続かなくてもいい」というスタンスを、あらかじめ大人が持っておくことが大切です。
期待や評価ではなく、「関わりのきっかけ」として役割を用いる。
このような姿勢でいれば、役割がプレッシャーではなく、むしろ安心材料になる可能性も広がります。

「あなたがいることで成り立っている」が伝わるとき

家庭や小さな集団の中で、子どもが「自分がいることで場が成り立っている」と感じられること。
これは、非常に強力な回復の力を持ちます。

たとえば、お兄ちゃんが小さい弟の面倒を見る。
あるいは、おじいちゃんの薬をテーブルに並べる。
あるいは、家族で夕食を食べるとき、テーブルの位置を調整してくれる。

「いてくれるから助かるよ」
「今日も助かったよ」

そんな何気ない言葉の中に、子どもは自分の存在意義を感じ取っていきます。

まとめ:解決ではなく、つながりを育てる視点を

この記事では、「子どもに役割を持たせること」の意味を、心理学的な視点から掘り下げてきました。

・誰かの役に立つことが、自分の肯定感になる
・役割は小さくていい
・役割の本質は、「信頼されている」と感じること
・役割が「居場所」と「回復」の土台になる

これらは、いずれも「子どもを良くしよう」という目的で押しつけるものではありません。
むしろ、「関係の中にいる」という実感を育てること。
そしてその実感が、子ども自身の中から「またやってみようかな」という気持ちを少しずつ引き出していく。

役割は、「頑張るための道具」ではなく、「人とつながる入口」です。
だからこそ、まずはできることから、ゆるやかに始めていくのが良いのだと思います。

この記事が、悩みの真ん中にいる方にとって、少しでも新しい視点となり、気持ちの整理の一助になれば嬉しく思います。

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