ゲーム依存からの脱却方法 | 精神科医からの提案
こんにちは。
精神科医の津田育実です。普段は不登校のお子さんやそのご家族のご相談をお受けしています。
今日は「ゲーム依存からの脱却方法」について書いてみたいと思います。
お子さんが不登校になってから、ゲームの時間がどんどん長くなっていることに、困っている親御さんは少なくありません。
「このままでは将来が心配です」
「ゲーム以外、何もやらなくなってしまったんです」
「取り上げると暴れるので放っておくしかなくて…」
そんな声をよく耳にします。
ただ、最初に少しだけ立ち止まって考えていただきたいことがあります。
目次
一般的なアドバイスが機能しない理由
「ゲーム時間を制限しましょう」
「約束を守れなければ取り上げましょう」
「親が毅然とした態度を取ることが大事です」
これらはネットや育児本などでよく見かけるアドバイスです。
理屈としては正しいように見えますし、「子育ては一貫性が大切」という言葉もセットでよく語られます。
ですが、実際にその通りにやってみた親御さんの多くが、うまくいかない現実に直面します。
子どもが泣き叫ぶ。物を壊す。無気力になる。家から出なくなる。
「うまくいかなかったのは、私の毅然さが足りなかったからだろうか」と自分を責めてしまう方もいます。
これは、ごく自然な反応です。
でも、そうした”正論”がうまくいかないのには、ちゃんと理由があります。
「依存」ではなく「逃避」かもしれない
まず、前提として考えてほしいことがあります。
お子さんがゲームにのめり込んでいる背景に、「依存」と呼べるような精神状態が本当にあるのかどうかという点です。
精神医学では「依存症」という言葉を使う際、単に使用時間が長いだけでなく、コントロール困難や生活の破綻、離脱症状(使わないと強い苦痛が出ること)などがあるかを慎重に見極めます。
実際、不登校のお子さんの場合、
「依存している」というより、「現実からの逃避」としてゲームに救われているケースが多いのです。
たとえば学校でいじめにあっていた子が、家に帰ると安全に自分の存在を肯定してくれるゲームの世界に入る。
あるいは、誰にも評価されない現実の中で、ゲームの中では明確な成果が得られる。
それは心のバランスを取る、唯一の手段になっていることもあります。
つまり、
ゲームをただの「問題」として見るのではなく、心の安全基地や支えになっている側面を見落とすと、対処を誤ります。
「取り上げる」という行為のリスク
ゲームを取り上げることで、「ようやく我が子が社会に戻ってくれるかもしれない」と期待する気持ちはよく分かります。
でも、実際にはどうでしょうか?
たとえば、主婦の方がストレスのたまる日々の中で、夜のドラマ鑑賞だけが心の拠り所だったとします。
ある日、家族から「テレビばかり見てないで、もっと建設的なことをして」とリモコンを取り上げられたらどう感じるでしょうか。
理屈では納得できても、心はついてこないはずです。
それどころか、失った拠り所の代わりに別の行動が出てきます。無気力、過食、怒り…さまざまな形で現れます。
子どもにとってのゲームも、似たような側面があります。
「取り上げれば何かが変わる」は、大人の願いであって、現実にはさらなる悪化を招くことが少なくありません。
「ゲームが悪い」と決めつけると見失うもの
世間では、「ゲームは子どもをダメにする」という考えが今も根強くあります。
ですが、ここには注意が必要です。
本来、ゲームは道具にすぎません。
ゲームによって人生を豊かにしている人もいますし、逆に苦しんでいる人もいます。
大切なのは、
「この子にとって、ゲームがどのような意味を持っているのか」を丁寧に見ていくことです。
ある子は、ゲームの中でしか人とつながれないという寂しさを抱えているかもしれません。
別の子は、現実の自分に自信が持てず、ゲームのキャラクターを通じて「強い自分」になっているのかもしれません。
「依存している」ように見える行動の奥には、
その子なりの必死の心のバランスの取り方があることが多いです。
「ゲーム以外に興味を持たせましょう」は難しい
「他のことに興味を持てば、ゲームから離れるのでは?」というアドバイスもよくあります。
もちろん、これは理想的な展開です。
でも、興味というのは他人が「持たせる」ことはできません。
興味や好奇心は、心が安全で、安心できる状態のときに、自然に湧いてくるものです。
逆に、「やらなければならない」「これはゲームよりマシだから」と押しつけられた瞬間、興味は消えてしまいます。
たとえば、料理に興味が出た奥様に対して、「だったらもっと難しいレシピに挑戦してみて」と言われたら、やる気がなくなることもありますよね。
子どもも同じです。
「ゲームより価値があるからやってみなさい」と言われても、響きません。
本当に目指すべきゴールとは
ここまでの話をまとめると、
ゲームを「悪」と見なす視点からスタートしても、子どもとの関係はうまく進みません。
大事なのは、ゲームの背後にある「心の動き」を見ていくことです。
何から逃げているのか。何を求めているのか。どんな役割を果たしているのか。
その上で、
「この子の心が、もう少しだけ回復したら、ゲームにしがみつかなくても大丈夫になりそうだな」
そう思えるような変化が、自然に起きるのを待つ姿勢が、実は一番の近道だったりします。
ゲームから「脱却させる」ことではなく、
ゲームに「過度に依存しなくていい心の状態」を育てていくこと。
これが、私の考える本質的なアプローチです。
子どもの「今」に、どう関わるか
ここでひとつ、よくあるご質問をご紹介します。
「ゲームをしている時間に、親はどう関わったらいいですか?無視するのも違う気がするし、でも注意したら怒られるし…」
この問いには、多くの親御さんの迷いが詰まっています。
過干渉になりたくない。でも、放置とも違う気がする。
この中間を探ることが、とても大切です。
では、実際の対応として何ができるのでしょうか。
【具体策1】ゲーム内容に興味を持ってみる
いちばんシンプルな方法は、ゲームの内容について、子どもに聞いてみることです。
「どんなゲームなの?」
「今日はどこまで進んだの?」
「そのキャラ、かっこいいね」
こうした声かけには、「ゲームを肯定してしまうのでは?」という不安を持たれるかもしれません。
でも、これは“ゲームを通して、子どもの世界に入る”という意味があります。
たとえば、パートナーが長時間テレビドラマを観ていて「何がそんなに面白いの?」と関心を持ってくれたら、ちょっと嬉しい気持ちになりますよね。
それと同じです。
会話が生まれます。信頼関係が深まります。
その結果として、ゲーム以外の話題にも少しずつ広がっていく土壌ができます。
【具体策2】時間より「状態」に注目する
ゲーム時間を「2時間までにしましょう」「ご飯前にはやめましょう」といったルールで管理することに、限界を感じている方も多いと思います。
その理由は、「時間」は管理できても、「心の状態」はコントロールできないからです。
ゲームをやめた直後、イライラが爆発したり、ふてくされて家族との会話を拒否したり…。
こういった現象は、ルールを守らせても、親子関係にプラスになっていない証拠です。
ですので、見るべきは「時間」ではなく、「終わった後の子どもの様子」です。
例えばこんな見方をしてみてください。
- ゲームの後、表情が柔らかくなっているか
- 自然に「お腹すいた」と言えているか
- 家族の会話に自分から入ってきているか
もしこうした変化があれば、それは「心の安定」がゲームを通して得られている証拠です。
それならば、無理にやめさせる必要はありません。
逆に、ゲーム後に荒れていたり、無気力がひどくなるようなら、「どんなふうに遊んでいるか」に焦点を当て直す必要があります。
たとえば、対戦ゲームで負け続けてイライラしているのか、夜中まで続けて睡眠不足になっているのか…。
そうした“質”に目を向けることが、次の対応につながります。
【具体策3】「何を求めているのか」を観察する
子どもの行動には、常に“何かを求める気持ち”が隠れています。
たとえば、
- 「認められたい」
- 「誰かとつながっていたい」
- 「安心したい」
- 「一人でいたいけど、完全に放っておかれるのも寂しい」
ゲームは、その気持ちを満たす手段になっている場合がほとんどです。
ですので、ゲームを敵視するより先に、「うちの子は、どんな欲求をゲームで満たしているのだろう?」と考えてみてください。
この視点を持つだけで、関わり方が大きく変わります。
【やらなくていいこと】無理に外に連れ出そうとしない
「ゲームばかりじゃなくて、外に出ると気持ちも晴れるよ」と言いたくなる気持ちも、よく分かります。
でも、ここには落とし穴があります。
無理に外出を促すと、失敗体験が増えてしまうことがあります。
たとえば、
- 外で人に会って気まずい思いをした
- 知り合いに「まだ学校行ってないの?」と声をかけられた
- 帰宅後、ぐったりして何もできなくなった
こうした経験が積み重なると、「やっぱり外は嫌だ」となり、余計に部屋にこもることになります。
本人の中で、「ちょっと外に出てみようかな」と思えるタイミングまで、無理に引っ張らないことが大切です。
【やらなくていいこと】成功体験を“与えよう”としない
もうひとつ、親御さんがよく陥りがちなのが、「ゲーム以外でも成功体験をさせてあげたい」という思いです。
これも決して悪いことではありません。
でも、“体験させよう”という発想になると、親の期待が前に出てしまいます。
たとえば、工作キットを買ってきて「これ、やってみたら?簡単だよ」
あるいは、親戚のイベントに誘って「行けば楽しいから、絶対いい気分転換になるよ」
このようにして差し出された機会に、子どもが反発したり無関心だったりすると、親のほうが落胆してしまいます。
大事なのは、“成功体験”ではなく、“自分の感覚で何かをやってみようと思える状態”を育てることです。
そしてそれは、親が用意したものでなくても構いません。
ゲームの中での達成感でさえ、最初の一歩としては充分なこともあります。
ゲームをやめることがゴールではない
ここまで読んでいただいて、
「じゃあ、結局このままゲームを続けていていいんでしょうか」と思われた方もいるかもしれません。
その疑問に、私はこう答えます。
「ゲームをやめること」がゴールではなく、
「ゲームに頼らなくても大丈夫な自分になれること」がゴールです。
ゲームを制限することは、「原因に対する対処」にはなりません。
むしろ、心のエネルギーが戻ってきたときには、自然とゲームの優先度が下がっていくことのほうが多いのです。
ですから、焦らず、無理せず、お子さんの“今の心”に目を向けてみてください。
最後に:子どもの視点に立ってみる
お子さんが長時間ゲームをしていると、親としては将来が不安になるのは当然です。
でも、その不安に突き動かされて行動してしまうと、子どもとの関係がかえって悪くなってしまうこともあります。
不登校という状態にある子どもにとって、ゲームは“症状”であり“支え”でもあるのです。
それを見誤らずに、適切な距離感と温度感で向き合うことが、回復への第一歩になります。
明確な解決策は、すぐには出てこないかもしれません。
けれど、「この子は何を守るためにゲームをしているんだろう?」という視点を持つことで、これまで見えなかったものが、少しずつ見えてくるはずです。
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