子育てにおける父親の威厳について
こんにちは。不登校支援カウンセラーの竹宮です。
今日は「子育てにおける父親の威厳」についてお話ししたいと思います。
不登校のお子さんと向き合う中で、こんな声をよく聞きます。
「夫が何を考えているのかわからない」
「関わってくれたと思ったら、子どもに厳しいことを言ってしまう」
「夫の存在が、かえって子どもを追い詰めている気がする」
一方で、父親側からも聞こえてきます。
「自分にできることがない」
「正直、どう関わればいいのかわからない」
「そもそも“子どもと向き合う”ってどうすればいいのか…」
家庭内での父親の役割や立ち位置は、案外、曖昧になりやすいものです。
特に子どもが不登校になった時、その曖昧さが浮き彫りになります。
関わろうとすればするほど、空回りしてしまう。
何もしないと、余計に距離が開いてしまう。
そんな、父親の「関わりたさ」と「うまくできなさ」の間で、母親がひとり気を揉んでしまうことも少なくありません。
今日はそんなご家庭のために、父親の心理や関わり方のクセ、お互いの立場からできる工夫について、少し掘り下げてみたいと思います。
目次
「父親にも関わってもらってください」というアドバイスの限界
不登校に関する支援の現場では、
「お母さんだけで抱え込まずに、お父さんにも関わってもらいましょう」
というアドバイスがよくなされます。
もちろん、家族全体で子どもを支える姿勢は大切です。
しかし、実際の家庭でこのアドバイスがうまく機能するとは限りません。
父親が関わったことで、子どもがさらに心を閉ざす。
そんな場面を数多く見てきました。
たとえば、何週間も自室から出てこない子どもに対して、
「いつまで寝てるんだ」
「お母さんに迷惑をかけるな」
と語気を強めてしまう父親がいます。
父親からすると、「家族のために言っている」つもりです。
でも、子どもにとっては「責められた」としか感じられない。
結果的に、親子の距離はさらに広がってしまいます。
このすれ違いは、決して父親が悪いわけではありません。
「何が正解かわからないまま動いている」ことが背景にあります。
父親が「威厳」にこだわってしまう理由
多くの父親は、社会の中で「結果を出す」ことを求められてきました。
評価されるには、問題を分析して、解決策を提示し、成果を出す必要があります。
ところが、子育ては違います。
特に、不登校というテーマにおいては、「解決」を目指しても空回りすることが多いのです。
父親はそこに戸惑います。
そして、“自分の役割が見えない”と感じてしまうことが多くあります。
その不安を打ち消そうとするあまり、「父親らしく」振る舞おうとしてしまう。
その結果、
「甘やかしてはいけない」
「厳しさも必要だ」
といった“威厳”を保つ言動になりがちです。
でも、それは子どもにとって本当に必要な姿なのでしょうか。
子どもの年齢や性格、家庭の雰囲気によって、必要な関わり方は大きく異なります。
「父親の役割はこうあるべき」という思い込みが、
かえって関係づくりを難しくしていることもあるのです。
母親が抱えるジレンマ
母親の立場では、夫の振る舞いが気になっても、なかなか指摘しにくいものです。
「そんな言い方はやめて」と言えば、
「俺のやり方に口を出すな」と返ってくるかもしれない。
結果、言葉を飲み込んでしまう。
自分ばかりが気を使い、対応を工夫し、消耗していく。
実際、母親の方が学校との連絡や日常のケアに多く関わる分、父親との認識のズレに苦しむケースは非常に多く見られます。
母親の「協力してほしい」は、
「一緒に悩み、感じてほしい」という意味であり、
「解決してほしい」という依頼ではありません。
けれど、父親はそこを“タスク”と捉えてしまうことがあるのです。
父親が抱える「期待」と「失望」
父親が不登校に向き合う際、
内心では「期待していた子どもの姿」と「現実の子ども」のギャップに苦しんでいることがあります。
・もっと社交的な子になると思っていた
・部活や勉強に前向きになってほしかった
・自分に似ている部分を見たかった
こうした気持ちはごく自然なものです。
親であれば、誰でも子どもに何らかの“理想”を抱きます。
でも、その理想がかなわないとき、
「自分の育て方が悪かったのではないか」
「何をやっても伝わらない」
という自己否定が始まります。
それを認めるのは難しいため、
逆に“理屈”で子どもを変えようとしたり、
あるいは何も言わずに距離を取ってしまったりします。
つまり、威厳という形で自分を守ろうとしているのです。
「何もしない関わり方」もある
ここで、少し角度を変えた話をします。
父親が無理に言葉をかけたり、行動したりしなくても、
子どもとの関係が整っていく例もあります。
あるご家庭では、父親が特に話しかけたりはしないけれど、
毎晩リビングでテレビを見ながら、子どもの好きなスナック菓子をテーブルに置いていました。
子どもがそれを食べにリビングに来る時間は、ほんの5分程度。
それでも、その「決まった時間」があることで、
子どもが父親に対して安心感を持つようになっていきました。
このように、意図的な会話や行動ではなくても、
日常の中で“変わらない存在”であることが、
子どもにとっての信頼につながることもあります。
これもひとつの「父親らしさ」の形です。
父親が変わるきっかけ
父親が子どもに関わるうえで、必要なのは「正しいやり方」よりも、「うまくいった実感」です。
小さなことでかまいません。
・自分が話しかけたとき、子どもが頷いてくれた
・好きそうなジュースを買って帰ったら、次の日冷蔵庫が空になっていた
・一緒にテレビを観ていて、少しだけ笑ってくれた
こうした何気ない反応が、父親にとっての「ちゃんと関われた」という手応えになります。
この手応えがないままだと、「どうせまた無視される」と感じて動けなくなってしまいます。
母親が、こうした小さな変化をさりげなくフィードバックすることは、とても効果的です。
「さっき話しかけたとき、本人ちょっと嬉しそうだったね」
「冷蔵庫のジュース、飲んでたよ」
「今日は一緒にいても自然だったね」
それだけで、父親の関わり方に自信が生まれます。
関わることに成功体験があると、「また関わってみよう」と自然に思えるようになるのです。
母親の言い方ひとつで、父親の動き方は変わる
父親に変化を求めるとき、「言い方」に工夫があると、伝わり方が大きく変わります。
たとえば、
「そんな言い方やめて」
「それが子どもを追い込んでる」
というような指摘は、正論であっても父親を萎縮させてしまいます。
代わりに、こう伝えるとどうでしょうか。
「さっきの言葉、本人にはちょっと重たく感じたかもしれないね」
「私は、あのタイミングでは声をかけずにいたんだ」
「あなたの気持ちもわかるけど、今は本人がすごく敏感になってる」
これなら、責められていると感じにくくなります。
父親にとって「否定されない場」は重要です。
母親の一言が、父親のプライドを守りながら、関わり方の変化を促すことにつながります。
また、無理に“変えてやろう”とせず、「一緒にやっていけたら嬉しいな」といった伝え方をすると、父親も関わる余地を感じやすくなります。
威厳とは「強くあること」ではない
ここまで読んできて、少しイメージが変わってきた方もいるかもしれません。
「威厳」という言葉には、一般的に「強さ」「怖さ」「圧力」といったイメージがあります。
でも、本来の威厳とは「揺らがず、信頼される存在」であることです。
子どもにとっての威厳とは、
「この人は何があっても自分を見捨てない」
「話したくなったら、いつでも聞いてくれそう」
という安心感のある存在のことです。
これは、声を荒げたり、理屈で黙らせたりすることとは、まったく違います。
むしろ、子どもが不安定なときほど、
大人の側が落ち着いていて、慌てずに構えている姿こそが、
“揺るがぬ威厳”として子どもに伝わるのです。
父親の「役割」より「存在感」を大切にする
父親としての「役割」を探すよりも、
まずは家庭の中での「存在感」を大切にしてみてください。
子どもの話を無理に聞き出そうとしなくてもかまいません。
近くでテレビを観ているだけでも、十分です。
子どもは、父親の機嫌や空気を敏感に感じ取ります。
何かをしようとする前に、まずは「安心できる空気を保つこと」が、
父親としてできる最大の支援になることもあります。
そして、その存在感は、「強さ」ではなく「一貫性」から生まれます。
今日は怒っている、明日は無視している。
そんなふうに対応がコロコロ変わると、子どもはますます話しにくくなってしまいます。
一定の温度感で、そばにい続ける。
それが、子どもにとっての支えになります。
最後に
父親の威厳とは、「叱る力」ではありません。
「沈黙で支配すること」でもありません。
本当の威厳とは、
・大きな声ではなく、落ち着いた声で話すこと
・支配ではなく、信頼でつながること
・ブレずにそばにい続けること
そんな静かな存在感が、家庭に安定をもたらします。
そしてそれは、母親だけが頑張って伝えるものでもありません。
父親自身が、自分の中にある“関わりづらさ”を少しずつほどき、
できる範囲で子どもとの関係をつなぎ直していく。
それが子育てにおける父親の役割であり、新しい“威厳”のかたちです。
決して「変わらなければならない」のではなく、
「変わることもできる」という余白を持っておくこと。
それが、父親にとっても、家庭にとっても、心地よいスタートになるのではないかと思います。
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