不登校傾向の子どもに大切な冬休みの過ごし方
こんにちは。再登校支援のトーコに所属していますカウンセラーの竹宮と申します。
今日は、不登校傾向のある子どもにとって、冬休みをどう過ごすことが重要なのか、この点についてお話ししたいと思います。
冬休みを前にすると、多くの保護者の方が同じ悩みを抱えます。
「今は無理をさせず、休みの間は自由に過ごさせたい」
「冬休みが終わったら、気持ちを切り替えてくれたらと思っている」
どちらも、子どもを思っての考えです。
苦しさを見てきたからこそ、そう願うのは自然なことだと思います。
ただ、支援の現場で長く子どもたちを見てきた立場からお伝えすると、冬休みをどう過ごすかによって、年明けの状態は大きく分かれます。
今日はその理由を、感情論ではなく、児童心理学の視点から整理していきます。
目次
- 「休めば行けるようになる」という考えの落とし穴
- 冬休み明けに登校が不安定になる3つの理由
- 冬休み中に起きやすい2つの変化
- 冬休みに必要な「メリハリ」
- 「やる事をやってから遊ぶ」が支える心理的土台
- 起床時間を一貫させるという視点
- 外出習慣が持つ心理的意味
- 必要な負担か、不要な負担か
「休めば行けるようになる」という考えの落とし穴
不登校に関する情報を調べると、よく目にする言葉があります。
「今は休ませる時期です」
「エネルギーが回復すれば、また動き出せます」
この考え方が広く使われている理由は明確です。
不登校の初期には、過剰な緊張や疲弊が背景にあるケースが多いからです。
休むことで、心身の過度な負荷が下がる。これは事実です。
しかしながら、ここに一つ大きな落とし穴があります。
休むことと、動き出すことは、必ずしも関連している訳ではありません。
休息によって回復するのは、疲労耐性や緊張の高さです。
一方で、生活を再び動かすためには、行動を組み立てる力が必要になります。
この二つは、別の力です。
冬休み明けに登校が不安定になる3つの理由
長期休み明けに登校が難しくなる理由について2020年から2024年のヒアリングデータを集計すると、次のような順番となりました。
第3位は、「勉強していないため、恥をかきたくない」という気持ちです。
授業についていけないのではないか。指名されたらどうしよう。こうした不安は、特に真面目な子ほど強くなります。
第2位は、「クラスメイトに会いたくない」という対人不安です。
久しぶりに顔を合わせることへの緊張。何を聞かれるか分からない怖さ。
これも、比較的イメージしやすい理由だと思います。
そして、第1位が、「何となく気力が湧かない」という状態です。
理由がはっきりしないため、保護者の方が最も戸惑うのが、このケースです。
「何となく行けない」が示す状態
「理由が分からない」
「はっきりしない」
この状態を前にすると、
どうしても甘えや怠けではないかという考えが頭をよぎります。
しかし、ここは慎重に捉える必要があります。
この「何となく」は、心理学的には意欲低下、あるいは活性水準の低下と呼ばれる状態です。
これは言い換えると、行動を始めるためのエネルギーが下がっている状態です。
やる気がない、というより、
やる気を出す前段階で止まってしまっている。
そう表現した方が近いでしょう。
冬休み中に起きやすい2つの変化
この状態が、なぜ冬休み明けに多く見られるのか。
原因は、大きく2つあります。
1つ目は、生活リズムの乱れです。
起床時間が日によって変わる。
夜更かしが続く。
日中に活動量が少ない。
こうした状態が続くと、体内リズムは確実に崩れます。
2つ目は、スマートフォンやゲームへの接触時間が増えることです。
刺激の強い情報に長時間触れることで、脳は疲労しやすくなります。
その結果、
「何もしたくない」
「考えるのが億劫」
そうした感覚が強まります。
「楽な生活を続けたい」という理由は出てこない
ここで、保護者の方がよく直面する場面があります。
「どうして行けないの?」
と聞いても、答えが返ってこない。
あるいは、
「気分が乗らない」
「体調が悪い」
「行きたくない」
こうした言葉だけが返ってくる。
これは、
子どもが本音を隠しているというより、
本音を言語化できない状態であることがほとんどです。
「冬休み中の自由な生活を手放したくない」
この気持ちは、本人も自覚しにくい上に、口にしづらいものです。
そのため、表面的な理由だけが言葉に出てきます。
「自由に過ごす」ことが抱える問題点
冬休みを
「好きなように過ごさせる期間」
として捉えること自体は、決して間違いではありません。
ただし、注意が必要です。
不登校傾向のある子どもにとって、
枠のない自由は、不安を増幅させることがあります。
何をしてもいい。
何もしなくてもいい。
この状態は、安心ではなく、
判断をすべて自分に委ねられている状態です。
例えば、
「今日は何時に起きればいいのか」
「何をすれば一日が終わるのか」
これが決まっていないと、
一日が漠然と流れていきます。
そして夜になると、
「今日も何もできなかった」
という感覚だけが残ります。
冬休みに必要な「メリハリ」
ここで誤解しやすい点があります。
冬休みの過ごし方を整えるという話をすると、
厳しく管理することだと受け取られることがあります。
しかし、重要なことは、管理ではなく、メリハリです。
これは、一日の流れが見える状態です。
何時頃に起きて、
何を済ませて、
その後に自由時間がある。
この流れがあるだけで、
子どもの心理的負担は大きく下がります。
「やる事をやってから遊ぶ」が支える心理的土台
やる事をやってから遊ぶ、この考え方について改めて整理します
この言葉は、しつけや指導の文脈で使われることが多いため、抵抗感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、不登校傾向のある子どもにとって、この考え方の本質は規律ではありません。
重要なのは、一日の中に「区切り」が生まれることです。
不登校の状態が続くと、生活から区切りが消えていきます。
起きる時間が曖昧になる。
食事の時間も前後する。
遊びと休息の境目がなくなる。
すると、一日全体がぼやけたものになります。
その状態では、「動き出すきっかけ」そのものが見つかりません。
「やる事」は小さいことから
ここでいう「やる事」は、学習や成果を求めるものではありません。
むしろ、必ず終わる内容であることが大切です。
例えば、
朝食後に食器を下げる。
洗濯物を一緒に畳む。
決めた時間に五分だけ机に向かう。
どれも、負荷は高くありません。
しかし、終わりがはっきりしています。
終わりが見える行動は、子どもに安心感を与えます。
「これをやれば、次に進める」
そう分かっている状態は、思っている以上に心を軽くします。
自己効力感を回復させる
ここで関係してくるのが、自己効力感という概念です。
これは、「自分はやろうと思えば、行動できる」という感覚を指します。
不登校傾向のある子どもは、この感覚が弱くなりやすいです。
行けなかった日。
できなかった経験。
周囲との比較。
そうした積み重ねが、無意識のうちに自己評価を下げます。
その状態で、一日中自由に過ごすと、「何もしていない自分」という印象が残りやすくなります。
一方で、朝に一つ役割を果たすだけで、一日の意味合いは変わります。
些細なことでも、「自分は今日、動いた」という感覚は残ります。
起床時間を一貫させるという視点
次に、起床時間を一貫させることについてです。
これは、登校を意識した準備というより、身体機能の安定を目的としています。
人の体は、起きる時間を基準にリズムを作ります。
起床時間が日によって大きく違うと、自律神経は乱れやすくなります。
特に冬は日照時間が短く、体内時計がずれやすい季節です。
この状態で夜更かしが続くと、朝のだるさが強くなります。
すると、「起きること」そのものが負担になります。
無理に学校時間へ戻さなくてよい理由
ここで誤解しやすい点があります。
冬休み中に、学校がある日の起床時間まで戻す必要はありません。むしろ、それが負担になるケースもあります。
大切なことは、毎日ほぼ同じ時間に起きることです。
例えば、7時半起きに決める。
多少前後しても、一時間以内に収める。
これだけで、体の安定感は大きく変わります。
安定して起きられるようになると、日中の活動量も自然と増えます。
一日を左右する起床後の行動
起床時間と同じくらい重要な点が、起きた後の行動です。
起きてすぐ、布団の中でスマートフォンを見る。
この習慣は、覚醒を妨げやすくなります。
目は覚めても、体と気持ちは休んだままになります。
例えば、
起きたらカーテンを開ける。
洗面所に行く。
温かい飲み物を口にする。
こうした流れを決めておくだけで、体は朝を認識しやすくなります。
外出習慣が持つ心理的意味
最後は、外出習慣を付けることです。
外出というと、学校や人混みを連想する方もいます。
しかし、ここで言う外出は、
生活の一部としての外出です。
近所のスーパー。
ポストまでの用事。
短い散歩。
それで十分です。
不登校傾向のある子どもは、生活範囲が家の中に限定されやすくなります。
外に出ない日が続くと、外出そのものが特別な行為になります。
すると、学校以前に家の外に出ることが高いハードルになります。
外出は「気分」ではなく「予定」にする
外出習慣をつける上でのポイントは、気分任せにしないことです。
「行けそうだったら行く」
ではなく、
「この時間に行く」と決めておく。
例えば、
毎日夕方に一緒に買い物に行く。
昼食後に十分だけ散歩する。
短時間で構いません。
重要なことは、外に出ることが日常に組み込まれることです。
これにより、「外に出る感覚」が自然な習慣として保たれます。
必要な負担か、不要な負担か
ここまで読んで、心の中で引っかかりを感じている方もいると思います。
「休ませてあげていない気がする」
「負担をかけているのではないか」
この葛藤は、とても自然です。
ただ、ここで整理しておきたいのは、お話ししてきた内容は頑張らせるための取り組みではないという点です。
むしろ、頑張らなくても済む状態を作るための土台です。
生活リズムが崩れたまま新学期を迎えると、登校以前に生活そのものが重荷になります。
それを避けるための準備です。
冬休みを「切り替え期間」と捉えない
冬休みを、
「ここで切り替えさせなければ」
と考えると、焦りが生まれます。
その焦りは、
子どもにも伝わりやすくなります。
当社は、冬休みを切り替えの場ではなく、生活を整える期間と捉えています。
学校に行く練習ではありません。生活を動かす練習です。
練習なので、うまくいかない日があっても問題ありません。
三日できて、一日できなかった。
そうした状況でも、三日分の経験は確実に残ります。
人は出来た経験を基に、次の行動を選びます。
完璧を目指す必要はありません。
続けようと考えたこと自体が、意味を持ちます。
最後に
冬休みは、不登校傾向のある子どもにとって、
影響の大きい時期です。
自由に過ごすこと自体が悪いわけではありません。
ただ、生活が止まる自由は後で大きな負担になります。
やる事をやってから遊ぶ。
起床時間を一貫させる。
外出習慣を付ける。
これらは、学校に行かせるための方法ではありません。
新学期を迎える時に、身体の負担を増やさないための工夫です。
すべてを整える必要はありません。
一つ意識できれば、それで十分です。
この記事が、冬休みを迎える前の考え方を整理する材料になれば幸いです。
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